Anniversary 2

「ど、どういうこと?」

まさか、入籍は一緒に区役所に行ったはずだし、公的書類も変わっていたはず。
それなのに、今更結婚してないなどと言われたらどうすればいいのだろう。そんな動揺を隠した大祐に、リカは全く気付くこともなく眉間だけでなく、鼻の頭にも小さく皺を寄せた。

「だって、皆聞いたらね。入籍した日と結婚式の日がほとんど近くてそれが結婚記念日だって人が一番多かったの。それから式をしてなくて入籍だけの人は入籍したその日が結婚記念日だっていうし、それってほぼプロポーズされた日とほとんど一緒だって言うし。私達って、全部がバラバラでしょ?いったいいつが記念日になるの?」
「……はい?」

どこにリカの困惑があるのか話を聞いていた大祐は先が見えなくて、耳から入ってきた言葉を何度も頭の中で繰り返した後に、やっぱりわからなくて聞き返した。
大祐の反応に少し苛立ったのか、パチン、と箸をおいて二人の間にあった食器をずらすと、何もないテーブルの上にリカが手を置いた。

「つまり、皆、ほかに選択肢のない絶対この日だって言うのがあるのよ。たとえば、この親指が入籍日だとすると、これしかない人、人差し指が式だとすると、式と入籍はほぼ同時。そのほかに、入籍だけの人。でね、私たちの場合、全部離れてるでしょ?3回も記念日があるなんておかしいだろうし、だったらどれも記念日じゃないことになるのかなって……」

―― ああ。きっとこれはものすごく真剣に言ってるんだろうな……

何と返せばいいのか、笑いそうになる口元を必死に唇を舐めて、抑え込みながら一つ一つ確かめるようにリカの指を押さえた。

「えと、確認するけど、いい?」
「何?」
「えっと、俺とリカは結婚してるんだよね?」

恐る恐る、というより、一番の根本からまず確かめたくて口にした瞬間、速攻でリカの目がきらりと光った。

「何言ってるんですか!」
「待って、待って。怒らないで。確かめたいだけだから。そうだよね?」
「……もちろん、そうですけど」

宥めるように繰り返した大祐に、不承不承リカは頷く。それを見て心底ほっとしたように笑った大祐が、今度こそ、リカの押さえていた指を示した。

「で、プロポーズって、あれであってるよね?」
「あれって言い方……。ん、でも、まあ、はい。遮っちゃいましたけど」
「いや、それは速攻で返事をもらったってことでいいと思うんだけど」

お互いに微妙に顔を赤らめながらも頷き合う。

「で、入籍はあの六魂祭のときでいいよね?」
「そうですね。仙台、じゃない、松島で受理してもらいました」

それに関しては素直に頷き合う。松島の仲間たちに散々冷やかされ、もみくちゃにはされたが同じくらい祝ってもらった気がした。

「それで」
「式は」

うん、と頷き合う。
ようやく一緒に住むことができて、今更ともいえたが、式は今年の内に上げようということで日取りを決めようとしているところだ。

「ね?バラバラでしょ?」
「つまり、そういうこと?バラバラだから、記念日にならないってこと?」
「そうなの。普通、女だったら何とかした記念日、みたいに思うのかもしれないけど、私、そういうのあまり思えなくて」

これもやっぱり可愛げないからかしら。

ぶっ、とこらえきれずに笑い出した大祐はテーブルの上に肘をついて気持ちがいいくらい、豪快に声を上げた。

「リカ!可愛げなくなんかないってば。本当に、いつも言ってるのに信じてくれないね」
「だって!大祐さんがいうのは身内っていうか、その……欲目っていうか……」
「それは先入観でリカがバリバリ仕事するって思ってる人だけでしょ?そうじゃなくて」
「そうよ。私が可愛いなんてほかに誰も言わないし」

言わないのはそう思ってないからではなく、リカがそういうのを嫌うのではないかと言いたかったが、そのせいで今は飲み会が増えていたじゃないかと連動して余計なことまで思い出してしまう。
そうでなくて、と首を振った大祐は、リカのむくれた顔を覗き込んだ。

「で?リカは記念日ってどう思ってるの?」
「私?私は……」

うーん、と唸っていたリカは上目づかいに大祐を見上げた。
大祐が毎日、と言ったのはリカもそう思わないでもない。それでもあえてと言うならば。

「どうしても言わなきゃダメ?」
「リカが聞いたんだよ?」
「……じゃあ、北海道とあの田圃の中かな」
「北海道?」

田圃の中、はすぐにプロポーズの現場だけに大祐もぴんときたが、北海道と言われてすぐには意味が分からなかった。
くるっと大祐の目が泳いで思い出そうとしているのがわかると、リカは慌てて大祐の腕を引く。

驚いたが、すべてがあの時は幸せに結実したんだと思っていたからだ。
それを大祐が思い出さなくても、と思っていると、大きな声で、あ!と声が上がる。

「もしかしてそれって入隊説明会の……」
「いっ、いいのっ!!忘れて!もう、聞かなかったことにして!」
「ちょちょ、そんなわけにいかないでしょ」

最後まで食べ終えていないリカの隣にずいっと移動した大祐は、リカの肩に手をかけるとあっさりと頬にキスする。

「2秒、ロックオンしたよ?」
「……長いんですよね?2秒」
「短いけどなぁ」

ぼそっと呟いた大祐はリカの髪を撫でると、食器を持って立ち上がった。

投稿者 kogetsu

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