起きた瞬間から強い日差しにカーテンを開けたリカが不機嫌そうな顔になる。女性には、この天気は色々大変らしい。
顔を洗いに行ったリカを見送って、キッチンに立つ。
ゆで卵にコーヒー。それからパンを軽くトーストしてテーブルに並べると、リカの方にはヨーグルトも追加だ。
部屋との間を忙しなく行き来していたリカが化粧を終えてテーブルにつく。
朝の情報番組は、今日も熱中症に注意が必要だと告げていた。
先ほどまでの不機嫌そうな顔を忘れたように、リカはテレビの画面に向いている。手を伸ばした先にトーストを差し出しておいて、大祐は自分のトーストにバターを塗った。
「今日も暑そうだね」
朝食を食べながら話しかけると、意外にも頷きながらリカが顔を向けた。
「毎日のことだけど、日焼け止め塗らなきゃ」
意外なほど元気な答えに曖昧に頷く。嫌いなのかなと思っていたが、実は暑い方が得意らしい。
「エアコンで寒すぎるよりましじゃない?」
「まあ、そうだけど。暑いよりは寒い方がまだいいかな」
俺と逆だ、と少し情けない顔をしただろうか。不意に、手を伸ばしたリカにふわふわと頭を撫でられた。
「元気わけてあげます」
「ありがとう。今日1日頑張れそう」
本音を言えば、あと少し。キスしてくれたらもっと元気が出るところだったろうけど、さすがにそれは言わずに、大人しく食べ続けた。
それから二人そろって支度をして家を後にする。途中の乗り換えで、じゃあね、と別れた後、仕事場に向かった大祐は、それがまだ地方の基地ではないだけまだましだと思う。
汗をにじませながらロッカーで制服に着替えて、席に腰を下ろした。
空調は始業時間になってから入る様になったのはもうだいぶ前からだ。夜の間にたまった熱気に思わず、暑い、と無意識に呟いた。
ぼつぼつと、出勤し始めた隊員達が席に着き始めて、隣の席で寝癖を直していた比嘉が振り返る。
「片山さんならこういいますね」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「『稲ぴょんとイチャついた後とどっちが暑い?』って感じでしょうか」
「それは……、ってあぶなっ!比嘉さんっ!!」
真っ赤になって噛み付いたら、人の悪い笑みがあちこちからこちらをみていた。
「一尉にはさぞや暑いのでは?」
回答してもしなくても罠だ。あ、う、と言葉が出ないままくるりと椅子を回して机に両腕をついた。
同じ頃。
「稲葉さん、暑いっていいながらそのショール……」
暑いに決まってる。薄ら首筋に汗をかきながらも薄手のカットソーに大判のショールをしっかりと首元に巻きつけている。
珠輝の呆れた顔を黙殺していたらしゅるっと藤枝に襟元から奪われた。
「……エロいな」
慌てて取り返したショールを頭から被って真っ赤になった顔を隠す。
「う、ウルサイっ、ウルサイっ」
デコルテと襟足に残された痕跡を見られたと思うと顔から火がでそうになる。きゃー、という珠輝の呟きも聞かないふりをしてひたすらモニターだけを見る。
「そういう時は空井君しか知らないとこにねだれよ、なぁ?」
揶揄する響きに耐えられなくなって耳を塞いだ。
―― そんなのいえるわけがないでしょっ
「お前、パンツ多いし足の方が空井君、燃えるんじゃね?」
さすがに直に見てしまうとなかなかにクルものがある。苛立った藤枝が煽ると、なぜか珠輝から怒られた。
「それ、セクハラです!大体、足だって困るんです!短いスカート履けなくなっちゃうし!」
「……やるなあ。大津君」
そう言った瞬間、両脇から拳で殴られた。
―― バカだなあ。2人共、男を惑わせてるって自信もてばいいのに
「藤枝!」
「藤枝さん!」
「なんだよ。二人とも……。褒めてやってるだけだろうが」
両脇から一発をそれぞれ食らった藤枝が、眉間に皺を寄せて詰まった呼吸を戻すべく、大きく息を吸い込んだ。