番組改編期だからと、最近のテレビは特番が多い。
衝撃映像の特番を見ながら、二人であれはない、これは無理、と言いあう。
「やだっ!もう、私だったらこんなの無理~」
「俺だって嫌だよ~」
次々とでてくる衝撃映像は、笑いあったり、ぞっとしたり、たわいなく疑似体験させてくれる。
お互いに、口には出さないが、実際に体験することはもうたくさんだと思っていた。
今でも時々、忘れていたものを思い出す様にふわっと浮かび上がってくる。
「俺、怖いもの沢山あるんだよね」
笑いながらCMに切り替わった瞬間に、大祐が呟く。
あの頃は怖いものも、なくしても困るものもなかった。大事なものはもうとっくに無くしたと思っていたから。でも今は、何もかもが怖くなる時がある。
―― 君がいるから
今一緒にいることが不思議なくらいで、時々、不意に不安になるのだ。
だから、こうしてテレビを見ている間も情けないくらいだが、リカの指先をそっと握っている。
時々、遮二無二リカを求めるのも、同じだった。
「怖いものってなあに?」
「そうだな。拗ねた片山さんとか、にこにこして鋭い比嘉さんとか」
「それ、怖いっていうの?」
笑い出したリカに、かなり怖いと思わない?と言うと、そうなの?と問い返される。
「そりゃ怖いよ。片山さんが拗ねると、もううるさいし根に持つし、雨男だし。比嘉さんは見てないふりでにこにこしながら突っ込んでくるから、うっかり、リカとデートしたとか言えないし」
「何それ。だって、片山さんは今は空幕にいないじゃない」
傍にいなくても片山の呪いの威力は半端なくて、たとえば、片山が結婚一周年の知らせを寄越したとき、すぐにおめでとうのメールを返さなかったからと言って、イベントなど雨が降ってしまえ!と呪った片山のメール通り、空幕で企画していたイベントが急な雨により中止になったことがあったのだ。
「怖……」
「だろ?比嘉さんは、なんでか知らないんだけど、俺とリカが時々外で食事して帰ったりすると、次の日必ず嬉しそうに『昨日はとても楽しかったみたいですねぇ』っていうんだよ。つい、そうですねって言っちゃって、それで……」
「それで?……まさかと思うけど、本当に余計なことしゃべってませんよね?!」
なぜかわからない、というが大祐のことだ。デートする日は一日浮足立っているし、定時になればほとんどの日はいそいそと帰っていく。それを見ていれば大体の推測はつくということだ。
だが、それを聞いたリカの目は妙に鋭くなって、じっと大祐を見る。
「まさか、リカぴょんがとか、家に帰ってきてからのことなんて言ってないよね?!」
「う、あ、その……」
あの比嘉の誘導にかかれば、気づくと、どれだけリカが可愛くて、一緒に過ごしていて楽しいか、それからリカがどれだけ魅力的なのかと話しだしてしまう。
「しゃべってるの?!信じられない!恥ずかしい!もう、だからいつも言わないでって言ってるじゃない!!」
「ごめん!だけど、ね?あの、危ないとこは言ってないから……」
「そーいう問題じゃないでしょ!」
元の話などすっかり忘れて、頬を膨らませたリカを見ていると、久しぶりに見るガツガツのリカに見えてちょっと嬉しくなる。
「ごめん……。気を付ける」
「次は絶対にしないでね!」
怒っているはずなのに握っていた手を離したリカが大祐に寄り掛かってくる。それが嬉しくて背後からぎゅっと抱きしめた。
テレビの中は、いつの間にかCMも終わって、番組も終了に近づいている。エンドロールが流れる中で、最後の衝撃映像と共にまとめのMCが流れた。
「それで……怖いものなんて私にはないから」
「そうなの?」
あれっとリカの顔を覗き込む。元の話は忘れていなかったんだと思いながらリカの肩の上に頭を寄せた。
「うん。だって、もう怖いのは十分」
怖いことなどもう十分味わったから、あの頃以上に怖いなんてありえない。もちろん、喧嘩や、災害など、どうしようもない事もあるけれど、そんな時でも大丈夫だと思う。
「強いね。リカは」
そう言ったら彼女は笑った。他愛ないことでそう言うからよ、とリカが明るく笑い飛ばす。
―― だって、私には怖いものが無くなったの。私にはあなたがいるから
怖いものは、皆、大祐が持って行ってくれたと思っている。リカの髪を撫でながら、大祐は目を閉じた。
―― 愛することなんて簡単だけど、愛される事は難しい。だから心から願うよ……
いつまでもこの幸せが続きますように。そして、この手をもう離さずに済みますようにと。
—end
こちらもツイッターで呟いた140文字から1本にお話を起こしてみました。