「何見てるの」
リカのノートPCを大祐が借りていると、その貸主に画面を覗き込まれた。発売されたばかりのスマホを眺めていた大祐は、リカに向けて画面を見せる。
「新しい奴。ちょっといいなと思って」
少し大型になったというそれをみてリカは渋い顔になった。駄目かな?というとうーんと口籠る。
「どうして?」
リカのスマホはプライベートと仕事用の二つがあって、仕事用が同じタイプの一つ前のものを使っていたはずだった。使いやすいのはリカから聞いていて、次は同じ機種にしようと話していたはずなのに、なぜ渋い顔をするのだろう。大祐はもともと、Mac派だったからちょうどいいと思っていたのだ。
「だって……」
「ん?」
「大祐さん、スマホにたくさん、写真残してるでしょ?」
大祐はもともと、それほど写真が好きではなかったが、リカと一緒にいるようになって、気が付けばスマホで撮るのが楽しくなっていた。二人一緒の写真も、リカの写真もかなり入っている。離れていた時はそれが癒しであり、楽しみでもあり、一緒の時間だった。
「だって、前は離れてる間だったから仕方ないかなって思ってたけど最近は違うでしょ?」
さすがに一緒に暮らしていると、開き直った大祐が毎度、惚気のネタにしていることもわかってくる。それが未だに恥ずかしくて仕方がないのだ。
「あれをあんな大きな画面でされたら……」
恥かしくてもう広報室に顔を出せなくなる。
拗ねた顔で、ぶつぶつと呟いているリカに、ふにゃっと大祐の顔が崩れた。
「何嬉しそうな顔してるの?!」
「当たり前でしょ?」
隣りに座って肩が触れていたリカの腰に腕を回したら、当たり前のように肩の上に顎を乗せた。急に密着した大祐にリカの耳が赤く染まる。
「近いから!」
「うん。駄目?」
「駄目……じゃないけど」
歯切れ悪く大祐の様子を伺ったリカを嬉しそうに大祐は、ハグしながらリカの手を握る。
「じゃあ、リカも一緒に替えようよ」
「だから私の話聞いてる?」
「うん、聞いてるよ。新しい機種が欲しいからだってば」
「嘘でしょ」
そんな押し問答を延々繰り返す。リカはいつも直球勝負だが、この手の事で大祐が負けたことはない。
「だってリカを好きだからしかたないよね?当たり前だよ」
「んもう。……じゃあ、変えてもいいけど条件があるの」
嫌だと言われると思っていたのに、今回はあっさり引き下がったリカの条件を聞いて、大祐の顔がますます緩んだ。
それぞれの契約を変えて、大祐の番号を親にすること。これは家族でなければ一緒にはできない。
「私の方から引き落としでもいいんだけど……」
どちらが負担してもいいはずだが、家族割りの適用にもなる。少しでも経済的にというのもあるのだが、夫婦になってやってみたかったことでもあるのだ。
「いいよ。もちろん、俺の方でいいし」
「うん。あとね」
少し考えてから笑みを浮かべたリカが手を伸ばして携帯を手にした。
「私もこれから大祐さんの写真撮っておこうと思って」
「えっ?!俺?」
驚いた顔に向かってスマホがパシャと言う。目を瞬いているとリカがもう一度、パシャッと音をさせた。
「今度から私も大祐さんみたいにしようと思って」
大祐のように惚気なくてもからかわれることはいつまでたっても減らない。それならいっそ、思い切り惚気てみようかと思った。それを聞いて、大祐が声を上げて笑い出す。
「いいよ。リカと違って、俺じゃ自慢にならないかもしれないけど」
―― 全く自覚のない……
リカはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
局だけでなく取材相手や仕事相手にも大祐はイケメンとして有名なのだ。熱烈なファンもいて、時々大祐の写真を見せてくれとねだられることもある。妬まれることも多いだけに、それならいっそ思い切り惚気てやろうということだ。ごつん、と額を寄せてきた大祐がリカの顔を覗き込む。
「リカが惚気てくれるならいくらでも嬉しいけどさ。でもリカ、できるの?」
今まで散々恥かしいと言っていたはずのリカが、うん、と頷いた。他の誰に何を言われても想いは深くなるばかりだから。
「できるに決まってるでしょ?」
そう言って上げて見せたリカの左手にきらりと結婚指輪が光る。その可愛さにギュッと大祐は抱きしめた。
「うわー、そんなこと言われたら寝かせてあげられなくなるよ」
「それは駄目!明日早いんだから!」
「今更だよ!リカが可愛いこと言うから仕方ないよ」
そこからは、言い合いから睦言に代わる。
甘く、密やかに。
そんな連休最後の夜―-……。
—end
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