———————-珍しく逆サイド。
リカは仕事だとわかっていたが、それでも明日から五連休となれば嬉しくなるのは仕方がない。
本当は休みの間にも飲み会をと誘われていたが、リカと一緒にいられる時間を削りたくなかったので休み前に強引に持ち込んだために昨日はあまり話す時間が取れなかった。
というよりも、大祐が酔っぱらって帰ってきて、ほとんど覚えていないと言うのもある。
朝もバタバタしていたが、今日一日を過ごせば連休だと思うと大祐は機嫌がよかった。
『今日、早く終わる?ご飯でも食べに行こうか』
きっとダダ漏れだろうなぁと思いながらも、嬉しいものは嬉しいのだからいいじゃないか、と最近では開き直ってもいる。
送信した後も、機嫌よく片っ端から仕事を片付けていく。
リカの仕事柄一度ではメールに気づかないこともあるのはいつものことだ。すぐに返事がない時は、時間を置いてからもう一度送ることもなんでもない。
今度は、わんこが尻尾を振っているスタンプを付けてメッセージを送る。
少し画面を見ていると、既読、という文字が出て、それだけでも嬉しくなった。
傍から見ていたら、もうおっさんだと言われても仕方がないくらいなのに、顔はついつい緩んでしまう。
『おわりそうです。なにかおいしいもの、食べたいです』
その後にウサギがお辞儀するスタンプがついてくる。
それだけでもうリカが今頃、どんな顔をしてるだろうと想像してしまう。
そうなると、気合も入り、おっし、と気合を入れなおして仕事を片付けにかかった。
予想通りならきっと早く終わると言っても大祐の方が早いだろう。迎えに行けば少しでも早く会えるはずだ。
時計を見ながら残りの時間を済ませた大祐は時間になると、晴れやかな顔で鞄を持つと誰よりも先に広報室を出た。
スーツに着替えて、よくリカを待った帝都テレビの前のベンチに腰を下ろす。時間通りにはいかない仕事だとわかっているから、待つことも少しも苦ではない。
その間に、グルメサイトを回って、リカが好きそうなもの、と候補を見て歩く。それほど遠くなくて、おいしい物、遠くてもいいから食べる価値がありそうなもの、と見ているだけでも楽しい。
リカがいなかった時期、何をしても何をみても、リカならどう思うだろう、どんなふうに笑うだろう、と思っていた分、今は何をしていても楽しいと思えるようになった。
左手に光る指輪も、いつまでたっても慣れはしないがそれに触るだけで幸せだなぁと思う。
少しずつ日が暮れて行って、周りが暗くなり始めて、街灯の灯りがきれいに見えだしたころ、かけてくるヒールの音を聞いて大祐はそちらへと顔を向けた。
どれだけ遠くからでも必ず見つけてしまう。今は、気分転換だと言って、伸びた髪も少し明るい色に染まっている。
―― あー……。リカだ……
その人が、全力で息を切らしながら自分の方へと駆けてくるのを感じると堪らなくなる。
冷静でいようとおもって、何でもないふりでベンチに座りなおすと、目の前にかけてきたリカが頭を下げた。
「ごめんなさいっ!すっかり、待たせちゃって……」
日頃からほとんど運動をしないリカは、局の入り口からたったここまでの距離、走ってきただけでもぜいぜい、と息を切らせている。落ち着くのをじっと待ちながら自然に両腕が開いた。
「……え?」
驚いた顔で髪をかき上げたリカに、ハグ、と言うと、すぐに怯む。
―― どうせ夜で誰も見てないのに……
「あ、あの……」
「怒ってないから。ハグして?」
「えぇっ?だって、あの……」
周りが、と言いたげに視線を逸らしたリカの手を引いて、ばふっと音がしそうな勢いでリカを抱きしめる。
「お疲れ様っ!リーカーっ!!」
―― 可愛いっ!明日から休みで、リカを独占だっ
時々言われるように、自分が犬だったら、全力で今、尻尾を振っているだろう。それこそ、犬なら飛びついているかもしれない。
ぱたぱたと肩を叩かれて、もったいないなぁと思いながら腕を緩めると、リカの目尻が上がっていた。
「何するんですか~っ」
照れ隠しだとすぐにわかる。
髪に手をやって、視線を逸らしたリカの手を掴んで、指と指を絡める。満足げにその繋いだ手を見せると、満足げに笑った。
「えへへ。なんか休みってわくわくするよね。別になんてことないんだけどさ」
少しでも早く、リカを連れて、おいしいご飯を食べて、一緒に帰って、好きなだけゴロゴロとリカと過ごす。
そう考えただけで足が早くなる。
「そんな。別に、お休みはいつだって……わっ」
もつれるようにしてついてきたリカの呟きが聞き捨てならなくて、ぴたりと足を止める。くるっと振り返った大祐は、つないだ手をぶん、と大きく振った。
「そんなことないよ!リカは普通の週末と同じかもしれないけど、それでもさ。俺は休みだからリカが帰ってくるまでにご飯作ってあげられるし、迎えにもいくよ?普段の平日より、いっぱいリカと一緒にいられるんだよ?俺、すっごい嬉しくてたまんないけど!」
―― あ。
そこまで力説してから、これではまるでいかにもがっついてます、とでも言っているようで恥ずかしくなる。誤魔化す様に、リカの顔を覗き込んで、リカは?と問いかけると、蚊の鳴くような声が返ってくる。
「……わ、私も……、嬉しい……です、ケド……」
「よかった!さ、ご飯いこう?おいしいものだよね、なんにしようか」
甘えるのが得意じゃなくて、こういう時はなかなかストレートに表現してくれないリカの精一杯の表現である。
可愛くて、今すぐにも抱きつぶしたいくらいなのだが、理性がそれを押しとどめた。
待っている間に見つけていた店をいくつか、早口で話していると、急にリカが大祐を追い抜いて歩き出した。
「帰りましょう!家で、私、大祐さんと一緒に作ったご飯が食べたいです!」
「どしたの、急に……」
「私……。私には、おいしいご飯は大好きな人と一緒に食べるご飯だから」
大祐さんと一緒に二人きりで過ごしたいです。
ものすごい早口だったが、一言も聞き洩らさなかった。
―― しまった……
ごくまれに、リカの反撃にあう。
そして、それは、確実に大祐に突き刺さる。
「わかった」
リカの気持ちは分かったと言って、ぎゅっと握った手を引き寄せると肩を並べて歩き出す。
このまま、家に帰ったら、夕食よりも先にがっついてしまいそうだったが、繋いだ手は一緒な気がして、駅までの道さえひどく遠く感じられた。
走り出したら止めようがない。
―― よく似てるって言われるけど、ゴールデンでもらブラドールでもどっちでもいいけど、狩猟犬だからね
世間と同じにはなかなか過ごせない二人ではあったが、それが長くても、短くても、一緒に居られれば同じな気がした。
—end
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ブランクって怖いですねぇ。自分でもびっくりですよ。怖い怖い。
全然駄目じゃん、と思いつつ、書かないと駄目なままなので強引に書き進めてしまいました。
しばらくリハビリが必要だなぁ・・・