大祐よりも先に起きたリカが、台所に立って冷蔵庫の中にあるもので朝食の支度を済ませた頃、布団の中で目を覚ました大祐は珍しくすぐには起きなかった。
―― あー……。なんかめちゃくちゃ幸せにしてもらってる
台所の方から朝食の支度をしている音を聞いて、なかなか起きたくない衝動に駆られた。
昨日、迎えに行って、いつも待てずにキスするところだがそれは我慢して、家に帰って。大祐の部屋についてから、お帰りのハグで充電されて、幸せな気分に浸った。
大祐の手料理で夕飯を食べて、式の話をして、返信をもらった大祐の方の出席者のコメントをみたりして、いつも電話を切る時間よりも少し早目に休んだ。
―― でも、昨夜はあんまり無理をさせずに済んだ……つもりだけど
大人しくそのまま寝ようとしたが、そこはやはり久しぶりの逢瀬である。なかなか眠れずにいる大祐の方をくるっと振り返ったリカが、大祐の頬に手を添えて横を向かせた。
「眠れないの?」
「そん……なことはない、よ?」
さらりと言うつもりが、妙に噛んでつっかかってしまった大祐に、くすっと笑ってリカがちゅっとキスをした。
この前のこともあって、甘えてくれているのかなと思うと、眉がハの字になってぎゅっとリカを抱きしめる。
「俺のこと、甘やかしすぎ……」
「そんなことない。私も、大祐さん不足だもの」
「そんなに俺を嬉しがらせてどうするの?」
ふふっと笑ったリカの吐息が耳元にかかって、ぞくっとなる。それでも、大事に疲れさせないようにしたつもりだった。
二人分の体温であったまった布団の中から、なかなか出られないでいると、リカが近づいてくる気配がする。
「大祐さん。もう起きてるでしょ?」
「……なんでわかるの?」
「だって、いつも私より先に起きるじゃない」
「そうだけど……」
まさか、布団の中の温かさが離れ難かったなんて大の男が恥ずかしすぎる。枕を抱きかかえるようにしてうつぶせのまま、呟いていると、とんと軽い重さがかかってリカが大祐の背中に寄りかかったらしい。髪をかき分けて、こめかみのあたりにキスが落ちてくる。
「ばれてますよ?だって、なかなか起きたくなさそうだったからそっとしておいたんだもの」
一瞬、触れた温かさが離れて、それと同時に背中にかかっていた重さもなくなってしまう。、がばっと起き上がると、恥ずかしい、と呟いたリカがそそくさと離れていくところだった。
追いかけて、背後からぎゅっと抱きしめると驚いたリカから悲鳴が上がる。
「ひゃっ!」
「リカ~っ!」
「こらっ、だめですってば!」
片手に持っていたお皿を取り落しそうになって、慌てたリカの手から落ち着いて皿を受け取ると、テーブルの上に置く。その手でリカの体の向きを変えさせると、おはよ、と呟いて軽くキスをする。
触れてすぐに離れて、はにかんだ顔のリカを見ると、物足りなくて。
もう一度、もう一度、と軽く触れていたはずが少しずつ長くなって、唇を舌で舐めて、駄目だと言いかけたリカの口の中に侵入する。
「ん……、ふ……ぅん」
初めは抵抗していたリカの腕から少しずつ力が抜けて、それがますます気持ちよくて、舌を絡める水音にも構わずに幸せを味わっていると、がくん、とリカの膝が崩れた。
ぱっと離れて、腕で支えると、潤んだ目のリカが恨めしそうに見上げてくる。
「駄目って言ったのに~……」
「言ってないよ?邪魔したから」
「わかってるなら同じでしょ!」
「おかしいなぁ……。軽いつもりだったんだけど」
―― なんでかなぁ?
きょとん、とした顔で見つめられると、それは私が知りたい、とリカが呟いた。あいかわらず、両腕の中にリカを閉じ込めている大祐がじぃっとリカを見つめてくる。
「軽くするつもりなんだけど、リカの顔見てたらもっとしたくなって……。それで、今は布団に逆戻りしたいんだけど、駄目?」
「!……だ、むっ……ん~~っ!」
駄目っ。
その声がまたもや妨害されて、強引に封じ込められる。
ぬるっと入り込んできた舌にかき回されて、優しく撫で上げられると駄目だと思っている理性がぐずぐずに溶け始めてしまう。
「ん……んっ」
微かに鼻にかかった声を上げたリカに、止まれなくなりそうな大祐の腕から、ぎりぎりのところでリカが逃げ出した。
「~~っ!駄目だってばっ」
かくんと再び膝を折ったふりをして、なんとか逃げ出したリカが真っ赤な顔で怒っていた。渋々、もろ手を挙げてリカから離れた大祐がポツリと呟いた言葉に、耳まで赤くしたリカがキッと振り返る。
―― 惜しいな。あと少しだったのに……
「大祐さんっ!もう、馬鹿な事言ってないでシャワー浴びてきて!」
「あは。聞かれた」
聞こえるように言ったくせに、なんて子供っぽい顔で笑うんだろう。
やはりいい様に振り回されるのは自分の方だと、リカは思う。中断した朝食の支度を整えながら、カラスの行水で戻ってくるタイミングを見計らって、ご飯や味噌汁を並べた。