空幕の応接スペース。窓から入ってくる日差しは突き刺すようにまっすぐでどこまでも青空が続いている。
いつも広報室に来ると、天気がいい日はどこまでも見渡せそうな空をつい、視界に入れてしまう。
「それで、今度の企画では」
「稲葉さん」
「はい?」
リカが話し込んでいるときは、あまり遮らない空井が、そわそわとしていることに気づいてはいた。視線を泳がせていた空井が申し訳なさそうに口をはさんだ。
「あの……」
そっと指を伸ばした大祐がリカのほうを指した。
「?」
「電話、さっきからなってるみたいなんですけど」
「え?」
そういわれてリカは脇に置いていた鞄に手を伸ばした。マナーモードにしていたから鞄が体にくっついていたのに、リカには気づかなかったのに、鞄から取り出した携帯には確かに着信の点滅が光っている。
「どうぞ。気にせず出てください」
「あ、はい。すみません……」
一度は切れたらしい着信が手の中で再び光り始める。耳に当てた携帯から少し焦った藤枝の声がした。
「もしもし……。は?!……うん、……なんで?急ぎでも……。え?!や……、ちょっと」
リカの応対を聞くともなく、視線をそらしていた大祐は、どうも困っているらしい様子にちらりとリカを見る。
「……わかった。わかったから!連絡する。うん」
口元を覆うようにして電話を切ったリカの顔がひどく申し訳なさそうになっている。
「……すみません。お話し中に」
「大丈夫ですか?」
「あ、の……、すみません。ちょっと急ぎが入ってしまいまして……」
ひどく申し訳なさそうな顔をして落ち着かなさげにしているリカに、すぐ大祐は察しがついた。
「どうぞ。あの、よかったら僕、今日は入間に行ってきたので車なんです。急いでいるなら送りましょうか」
「えっ……?!いえ、とんでもない!!」
「でも、急いでるんですよね?」
そういうと、リカが止める間もなく、すっと立ち上がった大祐は自分の席に戻るとバッグを掴んでから隣の比嘉にひそひそと囁いた。すぐに笑顔で頷いた比嘉に頭を下げて、大祐はリカを振り返る。
「じゃ、僕、下に車回しますので」
「え、あの、空井さん?!」
椅子に掛けていたジャケットを手にして空井はあっという間に開いたままの扉から出て行ってしまう。慌てて立ち上がったリカは、中途半端に伸ばした手の行き先に困った。
「稲葉さん。どうぞ。気にせずに今日のところはおかえりください。僕らも急な時はどうしようもないのでこういう時はお互い様です」
「……でも」
「大丈夫です。いつもよくしてくださっている帝都テレビさんのアテンドは、空井二尉の仕事ですから」
ぐっと親指を立てた比嘉に、はぁ、と頭を下げたリカはじりじりとコートを引き寄せて大きく頭を下げた。
頷いた比嘉と、武骨で口数が少ない槙も顔をむけて頷く。二人がこんな風に柔らかいのも、今日は片山が営業にでているとかで、柚木は打ち合わせらしい。リカが来てすぐに挨拶だけして出て行ってしまったのだ。
こんな日もあるんですよ、と比嘉に背中を押されるようにしてリカは広報室を後にした。