FLEX46*~独占欲が変わるとき 21

背を向けて湯船につかっているリカが可愛らしくて、ざっとシャワーを浴びて頭から体を洗った大祐は、リカの隣に足をつけた。

「冷えちゃうから、大祐さん、入って。私出るから」
「駄目。リカだって温まってほぐしておかないと、明日筋肉痛で大変だよ?」

そう言われると逆らえなくて、湯船に浸かりなおす。リカが身を縮こまらせていると、足を延ばした大祐がその間にリカを抱え込んだ。

「大祐さん、マッサージは?」
「ん、するよ?」

さらっとそう言うと、背後からリカの足に触れた。
私なの?と驚くリカの足首から膝までをぐっと手でほぐしていく。

「足、つってたでしょ?だからちゃんとマッサージした方がいいよ」
「自分でできるってば。それより大祐さんは?!」
「俺?あのくらいじゃ訓練よりも動いてないくらいだよ。今でも基礎訓練はやってるし」

されるがままになったリカは、時々、痛たた、と言いながらも大祐に任せた。

さすがにツボを心得ている大祐がするのは全然違う。しばらくして、凝り固まっていた筋肉が緩んだ頃、ぴたりとリカは大祐に寄り添った。

「ねぇ、大祐さん?」
「なに?」

さっきの続きとばかりに、リカを抱きしめて満足そうな大祐が問い返す。

「本当はね。私も同じなの。嫉妬、するの……」

とっておきの秘密とばかりに呟いたリカの顔を大祐が覗き込んだ。

「嫉妬?俺に?」
「馬鹿。そうじゃなくて、スキー場で、ほかの女の子たちが大祐さんのこと見てるの、ちょっと妬けちゃった」

大祐にその意識がなくても、周りから見ても、格好いいと思われている大祐を自慢したいくらいだったのと同時に、独り占めしたいと思ってしまった。
リカの肩に手で湯をかけてやりながら大祐が少しだけ情けなさそうな声を上げる。

「俺なんてそんなかわいいもんじゃないよ。スキー場にいた大学生だって、ほかの奴らだってそうだし。あいつらには見せつけてやろうと思ったんだけどそれも惜しくて結局できなかったんだけど」
「見せつけるって……」
「うん。たとえばね……」

こんな風に、と耳元で囁きながら耳たぶに舌を伸ばして軽く噛んだ。
本当にそんなことを見せつけるためにやるつもりなどないとリカは思っていたが、大祐はそうではない。本気で見せつける気になれば、とことんまでやる気はあった。

耳朶から耳の後ろに舌を這わせた大祐は、そのまま髪と耳のところで隠れるあたりにキスマークを残す。

「ん、もう……。つけちゃ駄目。……でも、ね。ちょっと今は違うの」
「ん?」

ぴちゃ、と耳を舌先でなぞる音が響いても、今は素直にその甘さに身を委ねる。

「独占欲より、ね?……幸せだなって。……ん」
「うん。……リカは俺のこと、たくさん幸せにしてくれてるよ」

どちらからともなく、啄むようなキスを繰り返していると、苦笑いを浮かべた大祐の方が先に離れた。

「先に出てて。今日はゆっくり寝よう」
「え……。うん」
「先に出てくれないと、また泣かせるかもしれないから」

昨夜のことを匂わせた大祐に、かぁっと赤くなったリカは、体を隠すようにしてそそくさと湯船から出る。
視線で追いかけたい衝動を押さえこんだ大祐が目を伏せていると、一度離れたリカが大祐の耳元に口づけた。

「先に出て待ってる」

その瞬間、ぱちっと目を開けた大祐は、しまったバスルームのドアに映る影を見てしまう。

ばしゃっと濡れた手で顔を覆った大祐は、我ながら情けないと思うが、意志とは裏腹に期待している自分自身にため息をつく。

―― そんな風に言われたら……、寝かせたくなくなるのに

正月明けまであと何日一緒にいられるかと思うと、その間、自分の自制心がどのくらい持つのかが比例してくる気がする。

独り占めしたい、から今は……。

―― 抱きたい、と思うところが駄目な男な気がする

ざばっと湯船から出た大祐は、それでもリカが甘えさせてくれるなら、と不埒なことを考えながらバスルームを後にした。

投稿者 kogetsu

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です