FLEX47*~家族と彼と絵に描いたようなドラマ

「ふわ……。人、いないかと思ったらそうでもなかった……」

2日に東京に戻るつもりだったリカは、新幹線のチケットが予想以上に混んでいて取れないということで1日早く、元日に移動することになった。
仙台駅は、初詣の客で混雑している程度だったが、新幹線に乗ってしまえばそこそこ空いていて、東京駅はもっと空いているかと思っていたのにその予想は大きく外れた。今年は休みが長期になるためにリカ達と同じように、大みそかや元日にも移動する人々が多い上に、初詣客、初売り目当ての客と、普段以上の混雑ぶりだった。

それでも、電車に乗って、リカの家の最寄駅までついてしまえば一気に人は減る。休日程度の混み具合まで落ち着いたところで、リカがため息をついた。

「明日こっちに移動してもよかったのに」
「そうしたらもっと混んでたかもしれないもの」

スキーから帰った翌日は、大掃除する場所もないくらいな大祐の部屋の掃除を済ませた。早く終われば近くのスーパーに行って、おせちの真似事でもと思っていたが、そこからすでに予定は崩れ始める。

日曜日でもあり、年内最後でもあって、掃除はすぐに終わったが、どこに行っても込み合っていて、なかなか買い物ひとつ済ませられなかったのだ。

「この辺は、もう買い物に行ける場所が限られちゃってるから仕方ないんだよね。仙台まで出る?」
「う……。でも……、いい。この辺で済ませたいけど、大祐さんはいい?」
「俺は構わないよ?」

なるべくなら、大祐の生活しているエリアで同じようにしたい。
そんな気持ちがあって、時には焦れた思いもしたが何とか買い物を済ませて部屋に帰る。お重に詰めるほどのものでもないからと大き目な皿をプレートに見立てればいいか、と一段落したあたりで、少し頭痛がし始めた。

「リカ?なんだか急に大人しいけど大丈夫?」
「ん?うん……。ちょっと頑張りすぎたかな。頭痛い気がする」

そうはいっても大人である。ちょっと頭痛薬を飲めば、と言いかけたリカを有無を言わさず大祐がベッドに押し込もうとする。

「そんな、ちょっとだけだし、薬飲めば……」
「駄目。急に寒くなってたし、スキーにも行って疲れたのに無理するからだよ。仕事でもないんだし、横になって休むのが一番」

過保護じゃないか、と言いそうになったが、余計な心配をかけるのも嫌で、押し問答を繰り返した後、お互いに妥協することにした。
テレビを見ながら、ソファでゆっくり横になること。
リカのためにと大祐が買ったばかりのふわふわの毛布にくるみ込まれて、大祐に抱えられるようにして横になる。ソファもしっかりしたものではなくて、広げればベッドになるものだ。
一段広げて低くしたソファに丸くなる。

「重くない?普通に座ってるだけでいいと思うんだけど」
「駄目。横になるって約束したからソファで妥協したんだから」

これ以上は譲らない、という大祐にまけて、渋々寄りかかった。
そう言えば、バスルームでもこの体勢が好きかも、と言っていたことを思い出す。
正月特番の番宣や特集番組を次々と眺めながらなんということもなく、ただ寄り添って過ごすのがとても照れくさい。

「眠くなったら眠っちゃっていいからね」
「大祐さんこそ……」

結局、リカを寝かせると言いながらそれなりにつき合せてしまった自覚がある分だけ、申し訳なさもあり、頑なに言い張ってしまう。
今は自分と同じ香りのする柔らかな髪を撫でながら、気になっていた特番に集中しているうちに、暖かいな、とふと思った。

狭いソファの上で半分、横になったような姿勢でリカを抱きかかえていた大祐が首をひねってリカの顔を覗き込むと、目を閉じて眠っているようだった。

―― しまったな。これじゃあ、動きようが……

下手に動けば起こしてしまうか、リカを落としてしまう。寄り添っていた姿勢から、腕と足に物を言わせて、そのまま向きを変えると、寄り添った格好で横になっているところまでなんとか持ち込んだ。
もう半回転して、そっと自分がどければ、と思っていたが、動いたからなのか、リカが眠ったままで無意識に身じろぎする。もう少し考えればよかったと思っても後の何とやらである。

「……!」
「うう……ん」

完全に横になる様にずれてくれればよかったのだが、大祐の体に寄り添うように、足を絡めて来て片足と腰のあたりまでを足で挟み込まれるような格好になってしまった。

―― う……。これ、はちょっとまずい……。というか、辛い、かも……

ある意味、拷問。とはいえ、せっかく寝てくれたリカを起こしたくない。
どちらを選ぶか、迷う余地のない二者択一は当然のように、幸せと苦痛を大祐に与えてくる。かろうじてテレビの方を向いているのが、せめてもの救いとばかりにテレビに集中するしかなかった。

それでも、時折、鼻にかかる甘い声に似た声が上がり、すり、とリカが動くたびにその足に擦りあげられる。とうに反応してしまっていた自分自身は、反応すればするほど、擦られれば痺れるような快感が走って、ますます反応してしまう。

参ったな、と思っても、その快感も愛しい人が腕の中にいるからだと思えば苦笑いで済ませるしかない。
無理に押さえ込もうとしても無駄なことはわかっているから、素直にその欲望を受け入れた。

「んん……。あれ……」
「……目、覚めた?」
「んー……。寝ちゃった……」
「うん。眠れたならよかった」

半分、大祐の上に重なる様にして眠ってしまったのだとぼんやり思ったリカは、それでもその心地よさに、もう一度ぺたりと頭をよせた。
少し早い鼓動が聞こえてきて、もう少しこうしていたいような、それでもそろそろ起きないとという意識が瞼を押し上げる。

「……起きなきゃ。でも、起きたくないな」
「いいよ。好きなだけ」
「ううん。重いでしょ。ごめんなさい」

起き上がろうとしてリカが体を動かした瞬間、びくっと大祐が足を浮かせた。

「えっ、あ」
「ごめん」

動いた瞬間、自分自身を擦りつけるような格好になってしまったリカは、苦笑いをしている大祐に状況を理解する。

「あ、やだっ!ごめんなさいっ」
「……やだって」
「ち、違うのっ。そうじゃなくて、あの」
「うん。わかってる。そのうち収まるから、もうしばらくこうしててもいい?」

頬を染めて視線を逸らしたリカが慌てているのを見て、困った顔をした大祐は、逆にそのままでとリカを抱きしめた。
びくっとして、今度はリカの方が動くに動けなくなる。

「あの……」
「気にしないで。というか……、気にされても困るんだけど」
「う、うん」
「大好きな人を抱いてたら仕方ないよ。それとも、リカが付き合ってくれる?」

NOと言われるとわかっていて、軽く悪戯に口にした大祐は、とん、と自分の胸にリカが覆いかぶさってきたことでその背中を撫でた。

「冗談だから……」

気にしないで。

言いかけた大祐の胸の上で、ふるふるとリカが首を振った。
聞き逃しそうな小さな声で、私のせいでもあるし、とくぐもった声がする。

片足を使ってそのまま抱きしめたリカの体ごと、狭いソファの上でぐるりと位置を入れ替えた。

大祐の下で赤い顔をして視線を彷徨わせるリカを見下ろす。

「……いいの?」

自分でも細めた目が鋭くなった気がする。
その目を避けるようにリカは腕を回して大祐を引き寄せた。

投稿者 kogetsu

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