FLEX52*~家族と彼と絵に描いたようなドラマ 6

「更新した住所録、大祐さんのところにメールしておいたから」
「ありがとう。助かるよ」

印刷が終わったものからフォーマルな文面を先に印刷して、大祐が一言ずつ書き添えていく。その間にリカはカジュアルな文面の方をレイアウトし始めた。

そちらは、対して枚数もないので、すでに作ってあったものを印刷したり、新しくレイアウトしたり、一枚ずつデザインを変えて行く。

「すごいな。リカ、センスある」
「そんなことない。できあいのパーツの組み合わせだから」

同じように一言づつ書き添えていく間に、例の松島から年賀状の番になる。
カジュアルなデザインの中でも写真フレームを使っていて、余白があまりないものを選んだリカは、二人でとった写真をレイアウトした。

「その写真のリカ、可愛い」

ひそかに携帯のアルバムにも保存してある大祐がそう言うと、リカが自分のスマホを引きよせる。
ぽんぽん、と指先で軽くタップしたリカが、写真を開いた。

「本当はこっちの大祐さんの方がかっこいいけど、これは年賀状には使わないの」
「か、かっこいいってどっちも一緒じゃ……」
「一緒じゃないですよ。かっこいいのは私だけが知っていればいいので……」

ぺろっと舌を見せたリカに、目を丸くした大祐がうろうろと視線を彷徨わせた。
女性の写真ならまだしも、男の自分の写真などどれでも一緒だと思うのだが、リカがそう言ってくれるならなんでもいい。

一言書き添えることも忘れて、印刷された年賀状を見て満足そうに頷くと、出かけるときに一緒に出すことにした。

「そうだ。ちょっとウチに電話するね。明日の時間、確認するから」

ぱたん、とパソコンを閉じてから携帯を手にする。年末に連絡はしておいたが、それ以来の連絡である。

「もしもし。リカです」
『はいはい。あら、おめでとうございます』
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。でね、明日なんだけど」

東京に戻ってすぐに、荷物を置いてからリカの実家に一泊の予定だったが、一日早く帰って来たから午前中の早い時間に顔を出す、と伝えると、リカの母はさらりと言ってのけた。

『なあに、じゃあ今は東京のリカの部屋ってこと?』
「そう。あんなに混んでると思わなかったんだもの」
『だったら、家に何もないでしょう?もともと泊りに来る予定だったんだし、いまから来ちゃいなさいよ』

電話をしながら顔を上げたリカは物問い気な目を向けた大祐に、僅かに困った顔を見せる。

「今からって簡単に言うけど」
『だって、これから夕飯の支度するの?買い物にでて?それはないでしょ。おせちだってあなたたちが来るのに合わせて用意してあるんだから気にせずいらっしゃい。智もお昼には帰ってきてごろごろしてるからちょうどいいわ』

智というのはリカの3つ下の弟である。都内で一人暮らしをしている会社員だが、一足先に実家に顔を見せていたらしい。
ちょっとまって、と言って、携帯を保留にしたリカが、首を傾けた。

「大祐さん、うちの母がもうこっちに帰ってきているなら今から来たらどうかって。家にはどうせ食べるものも用意していないだろうからって言うんだけど」

確かに正月の間、冷蔵庫で食材を腐らせるわけにもいかず、年末、消費しきって空っぽにした冷蔵庫には調味料以外に梅干し程度しか入っていない。元々、充実度の低いリカの部屋の冷蔵庫ではあったが、今はもっとである。パスタでもつくろうかと思いながら、元旦からパスタもどうかと思っていたリカにとってはどちらも迷うところだ。

頷いた大祐がリカに手を差し出す。携帯を貸して、と身振りで示した大祐に携帯を渡すと、保留を戻した大祐が話し始めた。

「もしもし。あけましておめでとうございます。大祐です。今年もよろしくお願いします」
『おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね』
「はい。それで、今リカさんから聞いたんですが、元旦早々お邪魔でなければ伺わせていただきたいのですが」
『ええ、もちろん。何も持たなくていいから泊るつもりでいらっしゃい』

ええ、はい、と和やかにリカの母と会話した大祐は、それじゃあと言って電話を切ってしまった。

「ごめんなさい。うちの母、ちょっと強引で……」
「義母さんもリカが大変じゃないようにって気を遣ってくれたんじゃないかな。お言葉に甘えてお邪魔させてもらうことにしたよ」
「大祐さん大丈夫?」

疲れているのに、無理をしなくても、というリカに大祐は笑って見せた。

「いいのって、こっちが言う事だよ。義母さんがせっかく誘ってくれたんだし、智さんもいるから泊る気でおいでなさいって」
「またあの人は……。そんなに広くもないのに」

ぶつぶつと言いながらもリカもそう悪い気持ではないらしい。都下の中古マンションに一人で住むリカの母の元へ揃って支度をすると、向かうことにした。

「いらっしゃい。待ってたのよ」

中古とはいえ、手入れのいいマンションの最上階の一番奥。
エレベータからは遠いが、両端だけには玄関前にポーチがついていて、それを入ったところに稲葉と表札が出ていた。

インターフォンを鳴らすと、カフェエプロンをしたリカの母、葉子が中からドアを開ける。

「お言葉に甘えて来てしまいました」
「いいのいいの。甘えて頂戴。さあ、あがって。寒かったでしょう」

リカを先にして、玄関に入ると、シンプルなインテリアがさすがに親子だなぁと思う。
編集の仕事を今も続けているらしく、玄関も廊下も余計なものは一切ない。

「フローリングなんだけど、スリッパ、いるかしら?」
「いえ、自分は……。お気遣いなく」
「そう。部屋の方は床暖も入っているし、どうぞ」

すっかり義理の息子を身内扱いしている葉子は、そのまま二人を連れてリビングに向かう。その声が聞こえたのか、弟の智が顔を見せた。

「義兄さん、いらっしゃい。ちょうどよかったですよ。一人で飲んでもつまんないなぁって思ってたんです」
「とも!あんた、飲みすぎないでよ」

くいっと仕草で飲むふりをした智に、リカが眉間に皺をよせた。
弟とも、仲はいいらしく、時には一緒に飲むこともあるらしい。酔っぱらうのは大抵、弟の方だとリカは主張しているが、まだ一緒に飲んだことはない。大祐にとっては、式の時以来の顔合わせに付き合うよ、とだけ答える。

「駄目ですよ。大祐さん。智ってばお酒弱いくせに飲むから大変なんです。母もそうなんですけどこの二人に付き合ったら大変ですよ」
「正月くらいいいじゃん。家飲みなんだし、姉ちゃんも飲めばいいだろ」

軽口をたたきながらリビングに入ると、キッチン側のテーブルにはよく乗せた!というくらいのご馳走が並んでいた。

投稿者 kogetsu

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