キッチンでお茶を入れて戻ってきたリカが大祐の目の前にお茶をおいた。
「あの……ね?」
「……」
「リカ?」
「はい?なんですか?」
―― ……怖い。俺、本当になにしたんだろう
笑顔で返してくるが、目だけは合わせていないことはわかる。女性と違って、こんな時男はえてしてパニック状態で、頭の中はやばいやばい、どうしよう俺、しか思い浮かばない。
「ご飯、食べちゃってください。あと片付けしますから」
「……はい」
その場を離れて持ってきた荷物をあけて、片付け始めた。
時々、はー、と深いため息が聞こえてきて、余計に焦る。大祐はとにかく急いで残っていた朝飯を食べ終えると、キッチンに食器を運んで自分で片付ける。特にリカも何も言わずにするに任せていた。
「リカ、あのさ」
「映画でも買い物でも、家にいるんでもいいですよ」
「う、うん。あの、俺、何かした?」
「……」
ぴりっとリカが固まった気がした。
硬直した空気が重すぎて、どうしていいのかわからない。話しかけていいものかどうかさえ躊躇われると思っていると、リカが背を向けたまま動き出した。
「……もちろん、覚えてないですよね?」
「何?!俺、何したの?昨日、何したっけ?!」
「……なんでもないです」
「え、ちょっとリカ?」
ばんっと勢いよくバックを閉じたリカに大祐が飛び上がる様に驚いた。
「な・ん・で・も・ないです」
「えぇ?!なんでもなくないよっ」
このままにはしておけないと思って、がっとリカの肩を掴んで自分の方へと向かせようとした大祐は、口を引き結んで今にも泣きそうな顔をしているリカにもっと驚いた。
がーん、という効果音が出そうなくらい衝撃を受けた大祐は、自覚がないまま申し訳なさだけがいっぱいになって、振り払おうとしたリカを背後から抱きしめる。
「ごめん……。俺、なにしたのかわかってないけど、ほんとにごめん!」
「わからないのに謝らないで!」
その声がすっかり涙声になっているからますます動揺してしまう。ごめん、ごめんね、と何度も繰り返す大祐に、しばらく堪えていたリカが、自分をなんとかコントロールしたのか、ふーっとしばらくしてため息をついた。
「もう……いいから離して」
「嫌だ。こんなにリカを傷つけるなんて……」
「違う。傷ついたとかじゃないし、本当に。いいから気にしないで」
「するよ!気にするに決まってる」
それでも頑なに拒否されて、理由もわからないまま、とにかくでかけようというリカの言葉を飲んで、出かけることにした。
近くの大規模スーパーにはなんでもあって、映画館もある。映画でもという話になって、来たはいいが気になる映画が特になくて結局、スーパーの中をゆったりと歩くことにする。
「あ。これ!」
「ん?どうしたの?」
「向こうで、色違いのが欲しかったんだけど、売り切れてたの。こっちで見つけるなんて」
「はは。ついてるね。かったら?」
買う、と意気込んでレジに向かったリカを待って大祐はショップの入り口で腕を組んで立つ。
―― さて……。俺、覚えてないけど何したんだろう
昨日リカを迎えてからの様子と頭の中で思い出す。駅で迎えて、思わずハグして、ちょっと怒られて、それから二人で車に乗って戻ってきて。その間、ずっとリカの手を握っていた気がする。それから、家に帰って、ハグして、リカがお風呂に入って。
疲れているだろうから早く寝ようと言って、ふわふわのベッドに二人で入った。
あっという間に二人で眠ってしまって、それからリカが先に起きて。
どう頑張っても思いつかず、どうしたものかと考え込んでいる間に、会計をしていたリカは少しだけ気持ちを立て直していた。
―― なんでって聞かれたって、恥ずかしくて言えるわけがないじゃない……
恥ずかしい。
言うに言えず、それでも何事もなかったようにはできなかった自分が恨めしい。
すぐに眠りについたリカは、まさか寝不足になるなんて思いもしなかった。
眠っている時に、大祐は割合動く方だ。リカは逆に眠ってしまえばあまり動かない。だから、寝ている間にリカを抱きしめてくる大祐の動きで時々目を覚ますことはあった。
それでも、すぐにまた眠ってしまうことが多くて、だからと言ってどうしたという話ではなかったはず。
昨夜もそんな風に眠るはずだった。
深く眠っていたリカは、いつものように抱きしめる大祐の腕が動くのを眠った頭のどこかで感じていた。腕を回してリカを何度も引き寄せる仕草には慣れていたが、腰のあたりに回された腕が部屋着の隙間から素肌に触れる。
大祐の方が温かくて、背中に直に触れる温度はリカにも心地よかった。
そう思っていたのは初めだけで、徐々に大祐の指が動き始めた。肩甲骨の形をなぞり、背骨を数えるようにすすっと動く。心地いいが、少しずつ変わってきて、徐々に眠っていたリカも目が覚めて来てしまう。
ぱち、と目を開けたリカは、すう、すう、と寝息を立てている。背中に回された腕は無意識だとわかっているから、困った人だと思いながらも、可愛いな、と思ってしまう。
再び、目を閉じたリカが眠りかけた頃、再び大祐の手が動き始めた。
「……ん」
すすっと動く手に思わず反応してしまう。
相手は眠っているのだから一人自分だけが反応してしまうことが恥ずかしい。とはいえ、大祐の手に直に触れられているわけで、反応するなと言われてもどうしようもない。
仕方なく、そうっと手を回して起こさないように大祐の手を引き出して、反対側を向いて横になる。
伸ばした大祐の腕を枕にして再び眠りについたリカは、それからしばらくして再び目を覚ますことになった。
「……ふ……」
背後からぴたりと重なる様にして眠っていた大祐が、部屋着をまくり上げて素肌に触れてくる。まだ温かな腕に撫でられているうちはよかったが、そのうちに柔らかなリカの胸を包み込むようになって、そうなればリカも嫌でも目を覚ます。
ブラをずらして掌で包み込んだ胸をゆっくりと揉み拉く。ちゃんと頂を指の間に押さえこんでいるところからしても、うとうとしていたリカは大祐が起きたのかと思っていた。
「……は……ぁ」
さっきは背中を撫でられて、ぞくっと感じてしまっていただけに、胸を触られればすぐ反応してしまう。
この手に愛されることに慣れ始めた肌は記憶された快感をすぐに思い出してしまうのだ。
すっかりたくし上げられた部屋着が邪魔だったのか、腕を抜かれ、するっと片腕を残して脱がされてしまい、ブラのホックも外されてしまう。
大人しく寝ると言っていたのにな、と頭のどこかで思いながらも嫌ではなかった。