午後のまだ明るい部屋の中で、何度も繰り返し抱き合って。
ぐったりと眠っているリカを置いて、先に目を覚ました大祐は起き上がって服を脇に寄せるとシャワーを浴びた。頭のてっぺんから熱い湯を浴びて、気だるさを流して着替えを済ませる。
バスタブに湯を張っておいて、あとでリカが入れるようにして、部屋のカーテンを閉めた。
気が付けばもう夜である。
腹が空いたな、と思って、キッチンに明かりをつけて立った。
炊いてあった白飯で俵型の塩むすびを作る。その明かりが眩しかったのか、ごそっとベッドが動いた。
「あれ……?」
「おはよ。って、もう夜だけど」
「うん……。なんかすごくたくさん寝ちゃった」
ぼーっとしたリカが目をこすってから、肩からブランケットが滑り落ちそうになって大慌てで潜り込む。それをキッチンから見てくすくすと笑っていると、手だけが伸びて、着替えを掴む。
ごそごそと動いていたリカがようやく顔を見せた。
「そんなことしなくても。今更でしょ?」
「そういう問題じゃないのっ」
くしゃくしゃになった髪を一生懸命押さえながらリカがベッドから抜け出す。
「お風呂、お湯入れてあるから入っておいで」
「……ありがとう。入ってくる」
―― もっと早く起こしてくれたらよかったのに
ぽそっと呟いたリカが、一度バスルームに向かってから慌てて戻ってきて、着替えを抱えると再び足早にバスルームに向かう。その姿が可愛くて、大祐は笑いながらリカの姿を眺めてからキッチンを片付けた。
リカが風呂に入っている間に、スープと簡単なおかずを用意した大祐は、部屋の奥でブランケットとベットパッドを外す。新しいシーツでベッドを整えてから、少しだけ窓を開けて空気を入れ替える。
リカが出てきた気配で窓を閉めた後、振り返ると、まだぼーっとしたリカがタオルを肩にかけてテレビの前にぺたりと座った。
「髪、濡れてるよ」
「うん。なんだか面倒で……。お腹すいたなって思ったの」
「ご飯、簡単だけど作ったんだけど、すぐ食べる?」
「ん」
膝を抱えて、一緒に隣り合って座って、二間ある部屋なのに、テーブルを前にして寄り添う。
「だーいすけさん」
「何?」
振り返った大祐の頬に指先を当てて、へへっと笑う。
「古くない?」
「ひかっかったでしょ」
「何してるの」
呆れた大祐の頬に、指についていたご飯粒をくっつける。
「ちょっとした仕返し」
「仕返し?!もう目いっぱい仕返しされたよ」
「そうかなぁ」
頬につけられた米粒を口に入れて、代わりにリカの口元におにぎりを持っていく。
まるで部屋の隅っこに秘密基地でも作って、隠れているような雰囲気で寄り添っていたリカが、大祐の肩の上に頭を乗せた。
「あのね。でも、ちょっとわかった」
「何が?」
「今度ね。こういう着ぐるみみたいなパジャマ買おうと思った」
口に入れていたから視線だけで問いかけてきた大祐に、片手でウサギの耳を作る。
「こういうやつ。温かいだろうし、こういうのだったらきっとぬいぐるみみたいでいいでしょ?」
「えぇ?リカがぬいぐるみになるの?」
「うん。自己防衛のために」
ごふっと吹き出しそうになってむせた大祐の背中をリカが笑いながら摩る。
しばらくして、落ち着いた大祐が、渋い顔で振り返った。
「……反省はしたよ?」
「うん。でも、きっと大祐さん、謝っても変わんないでしょ?」
「……否定はしづらいけど」
「でしょ?」
にこっと笑ったリカにうーん、と頭を掻いた。
確かに、着ぐるみのリカは見て見たい。ウサギの着ぐるみのリカなんてもっと見て見たい。
みたらそのまま写真は確実に撮るだろう。
それでも着ぐるみでリカの言う自己防衛ができるかと言うと正直いえば、間違いなくできないだろうなと思う。
無意識でもリカを抱きたくなるくらいなのだから着ぐるみを着てようと、何を着てようと変わるわけがない。
うーっと唸った挙句、わかった、と呟いた。
「じゃあ、それ、買ったら写真撮っていい?」
「えっ?!……絶対?」
「絶対」
真顔でねだる大祐に、苦虫をかみつぶしたリカが絶対に持ち歩かない、携帯にも入れないことを何度も確約させて、指切りをする。
それから、大祐がこれがいい、というウサギの着ぐるみをしばらくの間、探し歩くことになった。