FLEX67*~My Funny Valentine 5

「ほんとはちゃんと作りたかったんだけど……。買って来たやつでごめんなさい」
「えっ、ほんとにくれるの?」
「あげますよ。そりゃね。一応、本命チョコだし」

つん、と澄ました顔で、無造作に渡すリカが女の子らしい気持ちで溢れているのが伝わってくる。受け取った手と反対の手を握りながら膝の上で包みを開ける。

―― 素直じゃないなぁ

本当に、My Funny Valentineの逆バージョンみたいだなと思う。包みを開いて、チョコを一つ口に入れると、溶けていく感じが大人向きだなと思う。
ただ、甘いだけのチョコではなくて、カカオの香りが本当においしい。

「うん。すごいおいしいよ。ありがとう」
「よかった。なんか色々試してたら最後はなんだかよくわかんなくなってきちゃって」

味もわからないのに渡すのはどうかと思って、本当においしいものを渡したくて買って食べている間によくわからなくなって、それでも、一番シンプルでおいしいと思ったものを選んだつもりだった。

「吹き出物できちゃった」

そう言って笑うリカが可愛くて、本人は気にしているらしい口元をそっと撫でる。

「ねぇ、リカ?」
「ん?」

さすがに夜に食べるのはどうかと思う、と言って、自分がもらったチョコは丁寧に包みを戻していたリカにおいでおいで、と手を差し出す。

「素直じゃないリカさん」
「な、急になんですか」

驚いた顔を見せるリカをソファの上で抱きかかえるようにして、子供の様に揺らす。

「恥ずかしがりのリカさん」
「普通です!大祐さんがストレートすぎるんです」
「手を繋げないっていうのがすごくかわいいのに全然自覚がなくて、俺とだけ手を繋いでくれるリカさん」

立て続けに言われて、リカの限界に達したのか、ぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く。そんなリカに軽いキスを何度も繰り返す。

「幸せすぎて、嬉しくて、どうにかなりそう。だって、バレンタインに一緒にいられて、そんで、リカからもチョコもらって、すっごい甘いこと言ってもらって、表は雪が降ってるから明日はずっと家にいることになりそうだし」

最後の一言は、大祐の願望が満ち溢れていて、思わず大祐の顔を見上げてからリカが慌ててそっぽを向いた。そこに静かにキスが下りてくる。
目を伏せて、触れるだけのキス。

「なんでそんなに可愛くて、俺が嬉しくなっちゃうようなことできるの?」

何度も可愛い、と言われて恥ずかしさも照れくささも溢れてしまったリカはすこしだけやけくそ気味に大祐の鼻先にちゅっとキスをし返した。

「どうせ素直じゃないですっ」

食べ過ぎて、唇の上のあたりに小さく吹き出物が出来てしまうくらい、真剣に一番おいしいものを探した。
作る余裕がないのと、作る腕もない。
だけど一番おいしいものくらい自分で確かめて渡したかった。

「いいでしょ。どうせもともと可愛くないからいいんですっ」

大祐にとっては駄目押しの一言に、もらったばかりのチョコレートをテーブルに置くと、じっとリカの顔を見つめる。

「ねぇ、リカ。ずっとそういう可愛くないリカなの?」
「自分で自覚があるもの。私、可愛くないって」
「へぇ?」

言質をわざと言わせた大祐は、リカの手を取ると、ぎゅっと握って、立ち上がると部屋の明かりを消してベッドに向かう。
ぽんぽん、と軽く枕を叩いてリカが横になってからその隣に横になる。

「リカがいつも可愛くないのかどうか確かめてみようかな」

そして、啄むようなキスから、深くて甘い大人のキスへ。
腕の中も可愛いのか、可愛くないのか。

キスはどんどん深くなって、数が増えて、首筋にも、鎖骨のあたりにも何度も繰り返す。
初めはキスに身構えていた体が、今は自然に受け入れてくれるようになった。

「甘い……んじゃないかな」
「甘いのは……大祐さんのキスの方……」

リカからもキスされて、軽く開いた唇の間から柔らかい舌先がぺろりと舐めてくる。

―― 僕のとても可愛いMy Funny Valentineだな

投稿者 kogetsu

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