ベッドの脇で、つい思い出してしまったリカは、両手で頬を覆ってしまった。
―― やだ、もう……。あんな……恥ずかしい姿……
思い出しては駄目だと首を振ったリカは、気を取り直して、シーツを外したところでぱたっとどこかから落ちたものに固まってしまったのだ。
とりあえず、シーツとブランケットをそれぞれ洗濯機に入れて、洗剤と柔軟剤を入れて回し始めるとベッドの脇に戻って、それを拾い上げた。
それは一つだけではなくて、ぱらっとつながった包みに困ってしまう。
一つだけでも、それは確かにあってもおかしくないものでいつも、リカがわからないうちに大祐が身に着けているもので、大祐が後始末を見せることもなかったから、頭ではわかっていてもあまり意識したことがなかった。
ただそれが、つながって3つあるとか、あまりにリアルすぎてどうしていいかわからなくなる。
「えっと……」
きっと大祐がベッドのどこかに隠しておいたのだろう。それを見つけてしまったのは、ひどく気まずい。だからと言って、シーツを引きなおしても元あった場所が正確にはわからないと、それはそれで見つけたことを知らせているようで気まずい。
「どうしよう……」
いつまでも部屋の中で一人、そんなものを手にしてうろうろしている自分も恥ずかしい。
迷ったリカは、ふと、思いついて、大祐の服を置いている引き出しをあけて、服の中にそっとそれを隠した。
「はぁ……。なんでこんなことで動揺しているの、私っ」
馬鹿みたい、と自分に突っ込みをいれたリカは、替えのシーツを取り出すとベッドを整えた。そのベッドで眠るのかと思うと、何とも言えない気持ちになって、リカはベッドの傍にすわって、ぺたりとベッドに腕を置いて頭を乗せる。
「……っ」
そこに携帯の振動音がなって、飛び上がって驚いたリカは、慌てて傍に置いていた携帯を手にした。
「はいっ」
「わっ。早いよ」
「大祐さん?」
画面もみずにタップして出たから、相手にはワンコール鳴ったかならないかだろう。勢いよく聞こえた声に大祐が驚いた。
「どうしたの?ものすごく早く出たけど」
「あ、えっと、今部屋を片付けてて、それで、傍においてたから」
「そっか。今日は早かったんだね」
何気ない大祐の声が、ついさっきまで思い出していたことと相まって、動揺したリカが思わず黙り込んでしまう。
「リカ?どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないの。ただ、ちょっと……その……」
「ん?」
耳元で囁く大祐の声が優しくて、心地よくて、言葉に詰まってしまう。
「……大祐さんがいたのになぁって……」
「ああ……」
そういうことかと呟いた大祐の声はますます優しく聞こえた。思い切り、息をすいこんで目を閉じる。
「リカ」
あんなに、熱くて、溶け合うほどに一緒にいたのに今は耳元で囁くだけなんて、ずるいといえばいいのか、寂しいと言えばいいのか、そのどちらも当てはまらないような気がして。
「リーカ」
「……なんでこんなに好きなのかなって考えてました」
「リカ……」
携帯に思わずキスしたくなってしまう。
一人にして寂しい思いをさせていると思うから、もっと会いたくなって、会えば会うほど離れる時間が寂しくて。
「俺も、こんなに好きになっていいのかなっていうくらい好きだよ」
「あ、や、なんかごめんなさい。変なこと言って。別に、また会えるのに、なんか」
「うん。いいんだ。たくさん言って。そういうの。俺はリカを甘やかしてあげるためにいるんだから。どうしてもできない時もあるけど、その分、たくさん、そういうこときいて、リカを可愛がるんだ」
大祐の言葉に、先ほどの出来事を思い出して、ドキッとしてしまう。可愛がると言われると、散々甘やかされて愛された週末を嫌でも思い浮かべてしまう。
「可愛がるって……っ、あの、心臓に悪いからそういうこと、言わないで」
「え?なんで?」
「だって!大祐さんの言い方、ストレートでなんか……」
―― 色々思い出して気まずい……
ぼそっと小声で呟いたのに、今どきの携帯は高性能で、しっかりとその一言も聞こえてしまう。
「色々思い出してって……。……!いや、あの、そういう意味じゃっ」
「や、あの、そうじゃなくてっ」
「違うって、あの、全否定するとそれはそれでまたちょっと困るんだけど、でも、あの」
「わ、わかってますっ」
「いや、そこはわかってほしくないし!」
お互いに慌てふためいた言い訳と否定が続いた後に、沈黙が広がる。
「「……あの」」
お互いに譲り合ってからじゃあ、と大祐が口を開いた。
「ごめん。なんかいつもそんなことばっかり考えてるわけじゃないんだけど、リカと一緒にいると、一緒にいるんだなって実感したくなって、ぎゅってしたくなって、そしたらキスしたくなって……。なんかそういうエンドレスなんだよね」
「う……、はい。あの……、べ、別に嫌だとかそういうわけじゃない……から」
「うん。ありがとう。反省はしてるんだよ?無理強いしてないかなとか、色々と。そりゃ、今回は雪で表に出ても仕方がなかったのもあるんだけど、それでもやっぱり、家に籠りっきりってどうかなとか、帰ってくるとめちゃくちゃ反省して落ち込んでて、こんなんじゃリカに愛想尽かされないかなとかすごく考えるんだけど……」
電話の向こうで項垂れている大祐の姿が目に浮かぶ。
落ち込んでいるなんて聞いてしまうと、なんでそんなに男の人なのに可愛いんだろうとは思うが、その正体があの狼だとわかっていると、今は複雑な気持ちになる。
「そんなに落ち込まなくても……。私も大祐さんと一緒だったら、出掛けるのも楽しいし、二人で家にいるのも好きですよ」
「本当?!あの、次は絶対、ちゃんとデートするから!」
「……その、から、の続きがものすごく気になりますけど」
「えっ?!それは……、絶対だめなの?我慢はするけど、リカが目の前にいたらあんまり自信ないけど」
そんなことを電話越しで交渉しないでほしい。
しみじみと思ったリカは、小さくため息をついて、ベッドを背に寄り掛かる。天然たらしな大祐に何か逆襲したくて、黙っていようと思っていたことを持ち出した。