FLEX83*~全部だきしめてほしいのに

「雨だぁ……」

さぁっと流れる雨音に目を覚ましたリカは、カーテンの隙間から外を覗いた。
せっかくの休日でも日曜日は嫌いだ。

「ますます憂鬱になるんだけど……」

ふう、とため息をついてベッドに潜り込む。

「……どしたの?」

一度温かかったベッドから抜け出したリカの体は少し冷たくなっていて、中に潜っていた大祐が頭だけを覗かせてぎゅっと抱きしめてくる。

「雨だった」
「……そっか」

目を閉じてぎゅっと抱きしめられると、少しだけ憂鬱が薄まって、ふわふわの髪に頬を寄せた。

「ん……?リカ、どしたの?」

しばらくして、もう一度同じ問いかけを繰り返した大祐にリカは小さく呟いた。

「……日曜日、キライ」

ふふっと小さく笑った大祐が顔を上げた。

「何、子供みたいなこと言ってるの」
「キライなものはキライなの。しかも雨だし」
「雨かぁ。うん。雨はちょっと嫌かもね。表に出たくなくなるから」

抱きしめていたリカから離れた大祐がリカをくるみ込んでからベッドを抜け出した。

「じゃあ、元気が出るようなおいしいご飯作ってあげるよ」

洗面所に向かった大祐が出す水音が聞こえてきて、渋々ベッドから抜け出したリカは大祐よりも先にキッチンに立った。
うがいをして、冷蔵庫の中を覗き込む。

昨日は出かけていて、今日、買い物に行こうかと言っていたからあまりたくさんあるわけではない。

「俺が作るって。何食べたい?」

背後から肩を抱いた大祐に冷蔵庫の前からどかされる。
変わって冷蔵庫を覗き込んだ大祐は、うーんと呟いた。

「和食?洋食?どっちがいい?」
「……どっちでも」
「今日は珍しいなぁ」

そう言いながらも大祐の声は嬉しそうだ。
大祐に場所を譲ったリカがぺたりと背中から張り付いている。そのリカに腕をまわしてぽんぽん、とあやす様に撫でた。

「ねぇ、リカ?」
「なぁに」

ひょいと、体を起こした大祐がくるりと振り返ってリカの体を抱きしめる。
ぐりぐりと眉間に寄った皺を指先で押されても、むぅっとしたままのリカにくすくすと笑いながら大祐がリカの顔を覗き込んだ。

「俺、今結構幸せ」
「なんで?」
「だって、リカが甘えてる」

ぽかっと背中に回していた腕が大祐をぽかぽかと叩く。

「はは、そんなことしてもだーめ。俺、今嬉しくて仕方ないもん」
「いいのっ!大祐さんはそんなことしないで、私のこと叱っていいのっ」

子供みたいなことを言うなと、そんなことくらいで拗ねるなって怒っていいのに。

矛盾していることもわかっていて、リカはぐりぐりと大祐の胸に顔を押し付けた。その頭をくしゃくしゃになるほど大祐がかき混ぜた。

「どんなリカも好きだけど、今のリカも大好きだよ。誰にも甘えないリカだから、俺にだけはいくらでも甘えていいの」
「……頭、ぐちゃぐちゃにした……」
「そ。だからゆっくりお風呂入ってきたら。少し気持ちもスッキリするよ。その間においっしいご飯作っておくからね」

バスルームに送り出されたリカは、手で髪を直しながら鏡の前で自分の顔を見る。顔を洗ってからリカはお風呂の支度だけして部屋へと戻った。

「あれ?早い……」

ぺたぺたと大祐の傍に寄ってきたリカが背後から再び抱きついた。

「……ん。今はいるのやめたの」
「そうなの?」

こういう日は徹底的に甘えてみるのもいいかもしれない。そう思ったリカは、大祐の肩に手を置いてぐっと引き寄せた。

―― だから後で一緒に入って?

がしゃんっ。

驚いた大祐が手にしていたボウルをカウンターに落とした。

「あ……、う、はい」
「……駄目なの?」
「いや……、嬉しいよ」

今度はリカの代わりに眉間に皺を刻んだ大祐の耳が赤くなっていたことを見なかったふりをする。

―― あんまり、甘やかさなくていいからね

全部抱きしめて欲しいけど、抱きしめるだけじゃ物足りない。

「我儘でごめんね」

そう呟いたリカに、眉をハの字にした大祐は口元を歪めて頷いた。

–end

投稿者 kogetsu

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