どれだけ疲れていても、深く眠っていても、きっちりと定刻に目が覚めるのは長年の訓練のたまものだ。
放り出していた服のどこかから携帯のアラーム音が聞こえてきて、リカを起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、アラームを止めた。振り返るとリカが起きた様子はなくて、ほっとした空井は、昨夜放り出したバスタオルを拾い上げると、腰に巻いて着替えを拾い上げる。
乱暴に脱ぎ散らかした着替えに自分でも苦笑いが浮かんだ。
―― どれだけ必死なんだか……
だが、思い出しただけでも昨夜は夢中だった気がする。
ソファに着替えをまとめて乗せると、バスルームに向かう。なるべく音をさせないようにバスタブに湯を落として、昨日、取り急ぎで拾い上げたリカの化粧品をまとめて端に寄せた。
湯が溜まるまでの間に、冷蔵庫から水を取り出すと、半分ほど一息に飲んでしまう。
眠っているリカの髪は、昨夜濡れたままでいたから少しはねているようにみえた。
―― ああ、駄目だ。もう、どれだけ好きすぎるんだか……
ベッドサイドにボトルを置いてくしゃくしゃになったシーツの間に潜り込む。
怒られるかな、と頭をちらっとよぎったものの、それもまあいいか、と思う。横向きに眠っているリカを抱き寄せてもそもそと潜っていく。
「……ん」
深く眠っているリカを抱き寄せて柔らかい胸元に頬を寄せる。胸元の服の上から見たらぎりぎり、見えそうで見えないあたりにキスマークを残しながら、悪戯半分、本気半分で動き出す。
「……ふ……ん……?」
半分寝ぼけながらも素直に反応を返すリカが少しずつ流されかけるのと反比例して、目を覚ましだす。
「んんっ……っ?!ちょ……っ!や、大祐さ、んっ」
逃げようとしてもがくのに、先をとられてばかりでなかなか意地悪な腕と唇から逃げられない。
「あっ、もう!やだってば……っ」
さすがに寝て起きれば、酔いもさめて素面である。寝起きで流されそうになった自分が恥ずかしくて、何とか逃げようとしたリカがシーツを前に引き寄せて丸くなるのを背後から抱きすくめられた。
「……本っ当に駄目?」
「だ、駄目っ」
するっと抱き寄せてきた手がリカの背中からわざとゆっくり下っていく。
「……っ!」
ぞくっと震えてしまうリカが、唇を噛んで引き寄せたシーツに顔を埋める。
「やっ……、大……祐さんっ」
―― もう、ずるいっ……
彼女がいないのも長いといっていたはずなのに、こんなに翻弄されると思っていなかったリカが強くシーツを握りしめる。
その耳元をペロッと舐めた空井が、端に逃げていたリカを引き戻した。
「あのね。僕も男なんで、大抵こんなもんですよ?」
「ひゃ……んっ!」
背中をなぞっていた手がさらりとしていた肌から、形のいいヒップラインを辿って指先を濡らす場所で遊び始めた。
「あ……、やっ……」
身をよじればよじるほど、リカの反応のいい場所を攻めてくる。
「……いい?」
リカの恥ずかしさと理性がずるずると崩れ落ちていくのに、それでも許しを求めてくる空井がずるいと思う。ふるふると首を横に振るリカから無理やりイエスを引き出したくて、体の中を探る指とは別に親指が敏感なところを同時に弄ってくると、もう抵抗できずに空井の指を締め付けてしまう。
「……リカ、お願い」
さっきまでの半分ふざけた言い方から、少し掠れた本気の声に、ぎゅっとリカは目をつぶる。小さく頷いたリカの背中に口づけると、遊んでいた指と入れ替わりにぬるりと指を締め付けていた胎内に押し入った。
「んんんっ!」
まだ昨夜のことも体が覚えているところに、強い圧迫感が襲ってくる。そこに、がつっと深くまで貫くと、体を丸めていたリカの足がびくっと動いた。
背後から熱い吐息がリカの首筋にかかる。シーツの奥から、二人の繋がった深いところから淫らな音が響いた。
「は……。リカ……」
耳からも視界からも、肌からも、ぞくぞくと煽られる空井とは逆に、リカは自分自身が奏でる音に恥ずかしさでいっぱいになる。そして恥ずかしいと思えば思うほど、体の奥底を擦られる快感に、きゅうっと空井を締め付けてしまう。
「きつ……っ!少し……緩めてくれないと、すぐ……っちゃうよ」
「無理っ!あ、あ、は……ぅんっ!!」
ぐぐっと、空井を締め付けてきたリカの方が先に崩れ落ちて、その瞬間、震えたリカ内側に負けて空井も崩れ落ちてしまった。
荒くなった呼吸がようやく落ち着いてきた頃、リカが先にベッドの中で空井から離れる。シーツにくるまったまま、端に移動したリカが近くにあるはずのバスローブを探す。
リカが離れたことはさびしいものの、これ以上くっついていたら本気で怒り出しかねないと思って、真っ白な塊になったリカを眺めた。
だいぶ焦っているらしいのを察して、放り出していたバスローブを引き寄せる。
「これ?」
「!」
差し出されたバスローブをぱっと掴むと、何とか背を向けたままリカが身に着けた。ようやくシーツから出てきたリカが、一生懸命髪を手で抑える。
「……もうっ!駄目って言ったのにっ」
恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方がないリカが両手で顔を覆ってしまう。
「だって、あんまり可愛いから」
「可愛くないですっ」
きっと耳まで真っ赤になっているだろう、リカを背後から抱きすくめた空井がぼそっと呟いた。
「可愛いものは可愛い。あんまり否定すると、また、可愛くなってもらうけど?」
ぴく、と固まってしまったリカにくすくすと楽しそうな笑いが聞こえてくる。
もう逆らうに逆らえなくなったリカが抱きすくめられたまま、胸の内で呟いた。
―― プライベートの大祐さんって、……凶悪っ