「大原さんは、あと数日だと伺いましたが、入隊されてからの間の出来事で思い出に残っていることなどありますか?」
「……あったとしても、もう仕方がないです」
「あるとしたらどんなことが」
時間を改めて、食堂での隊員の皆さんたちのインタビューを終えてから、一休みして、私たちはもう一度、彼女の待つ、応接室へと向かった。
彼女は自分についてどのようなインタビューがとられていたかを知らないままに、この場にいる。広報官の方が部屋の隅に待機していて、私たちがインタビューを行っている間、彼女がそれを聞かないように配慮していただいた。今もこのインタビューに割り込むことなく黙って控えてくださっている。
しばらく迷っていたのか、考え込んでいた大原さんは絞り出すように答えてくれた。
「……“続けること”です」
その言葉には、いくつもの意味が込められているように思えて、私たちは重ねて問いかけてみる。
「それは、働き続けることですか?」
「すべてです。想い続けること、努力し続けること。全部です」
二度目の問いには迷いなく、答えた大原さんの中に、強いカタマリがみえるような気がする。
想い続けること。
今の彼女にとって、それはすべての象徴のような存在なのだろう。かなわなかったすべての象徴にするには叶わぬ恋というのはわかりやすく、気持ちもぶつけやすいはずだ。
そんな想いを抱えたまま、諦めて、逃げるように去っていくことはこれから先、彼女が何かに悔いるとき、あの時諦めたから、あの時もそうだったから仕方がない。そんな言い訳にはしてほしくない。
話を聞く私たちは取材する側だ。
誰かの想いを聞いて、伝える。その立場に徹しなければならないことはわかっているが、今回は少し違う。
ただそれだけではなく、こうして話を聞かせてくれた人たちの、一番の応援団になりたいと思う。
「ご実家に帰られてから、次のステップに進まれると思いますが、ご自身としてはどんな事を?」
今の彼女には酷な質問かもしれない。
彼女がこれからどうしていくのか。
掛け違ったボタンのように、彼女自身を評価する声と、彼女自身が思う、彼女自身とは大きくかけ離れていることさえ知らないまま。
このまま仕事を辞めてご実家に戻っていったら、そのまま彼女自身がバラバラになったままだ。
これまで話を聞かせてくれた人たち。
仕事と自分、プライベートと自分、仕事とプライベートそんな切り離すことのできないトライアングルの真ん中で、バランスをうまくとろうと皆、足掻いている。
きっと、普通と言う言葉が似合うなら足掻かずに済むのだろうか。
「たとえば、……好きな方のことでも結構です。先ほどは謹慎されたと伺いましたが、大原さんが望んだこと、これから望むこと、求めるものは?」
私達は同じ。
対象は違っても。
環境は違っても。
時に子供の様に思い通りにならないものに。
思いがけない方向から向けられた刃に。
大丈夫だと思った小さなささくれに。
「それは……」
どれほど迷っても、どれほど傷ついても。
どれだけ苦しくても、どれだけ悩んでも、私たちは生きているから。
時間は、確実に過ぎていく。
悩む時間を、苦しむ時間を。
足掻く時間を、誰かを愛する時間を。
諦めてはいけない。
無駄にしてはいけない。
私達は限られた時間のの中に生きているから。
インタビューをしていると、聞いているだけで苦しくなることもある。
何か、手助けができないかと思ってしまうこともある。
反射的に、感情を顔に浮かべていないかと不安に思うこともある。
ただ、カメラと言う黒い箱の中からレンズと通してみた彼らの世界は、決して私達が知っている日常とかけ離れているのではない。ただすこしだけ、立っている場所がちがうから、互いに見える角度や、想いが違うだけだ。
「私も、女ですから、誰かを想う気持ちも……、自分自身でも答えが出ないこともあります。そして、同じように働く女として、悔しいことや思うようにならないこともいっぱいあります。だからこそ、毎日、見えない何かと戦っているんです。……なので、これは私から大原さんへの宿題です。あなたがしたかったこと、これからしたいことはなんですか?答えは、いつか、出たら教えてください」
インタビューが終わり、私たちは立ち上がって挨拶を交わす。
宿題と言う最後の問いかけに、大原さんはいつまでも引っかかった顔を見せていて、納得がいかないように見えた。
私達は、彼女が向けてきた痛いほどの言葉に正面から向き合えただろうか。
今はなくても、その答えがいつか聞くことができるように、願っている。
撤収の支度をしている間に、いつの間にか、切り取られていた瞬間は、何かをまっすぐに見つめたままぼろぼろと泣き出した彼女を捉えていた。
画面はスタジオの中にもどり、メインキャスターと今も回数は少なくなったがバラエティ番組にも登場している藤枝が映る。
「5回にわたってお送りしてきた制服シリーズの卒業がテーマでしたね。藤枝君、どうですか。このシリーズを見てきて」
ニュース番組の時とは違って、柄物のシャツに洒落たネクタイを締めた藤枝は、丸い、立ち位置の場所に置かれたテーブルに片手をついて、頷いた。
「お話を聞かせてくださった皆さんは、それぞれ、僕たちがこう、憧れるというか、普段、身近に接することが少ない制服を来たお仕事の皆さんでしたが、ホント、やっぱり私達と変わりませんね。僕も、こう噛んじゃった後とか、地面に穴掘ってますから」
「あはは。それは藤枝君のファンが放っておかないんじゃないかな?それにしても、ご覧頂いた皆様はどんなふうにお感じになったでしょうか?」
「はい。初回の放送からこのコーナーには多くの反響をいただいていて、様々なご意見をいただいていますが、自分だったらどうするか。そんな風に、ほんの少しでいいので考えてみていただけると嬉しいです。じゃあ、次のコーナーへ」
画面は切り替わり次のコーナーへと変わる。
「次は明日の天気をお伝えします……」
……―-
お久しぶりです。 花粉が飛んでいて毎日マスクが離せない日々が続いています。
「制服シリーズ」 !「眠姫」と視点が違うだけで ん~ 読み手から視聴者になった感じです。 作品がÜPされる度にワクワクとニヤニヤが止まらないです
マコ様
こんばんは。花粉嫌ですねぇ。比較的軽くは済んでますけど、早めに薬飲みだしていたからかなあ。
コーナーとして書くのって結構難しかったです。視点がばらけないようにしたけど。
甘いのがまだあげられてないので、引き続き頑張りまーす。
お久しぶりです。 花粉が飛んでいて毎日マスクが離せない日々が続いています。
「制服シリーズ」 !「眠姫」と視点が違うだけで ん~ 読み手から視聴者になった感じです。 作品がÜPされる度にワクワクとニヤニヤが止まらないです
マコ様
こんばんは。花粉嫌ですねぇ。比較的軽くは済んでますけど、早めに薬飲みだしていたからかなあ。
コーナーとして書くのって結構難しかったです。視点がばらけないようにしたけど。
甘いのがまだあげられてないので、引き続き頑張りまーす。