Cry For the Moon 6(17~19)

カウンターの奥にリカは身を潜めていた。

NPSらにはとんでもない額が伝わっていたが、銀行の中では一億を一千万ずつ、柄のない紙袋に詰めていた。花巻とその部下の男性行員が包みを作って、送られてきた伝票を印刷すると貼り付けていく。

その間、リカはフロアの様子をさりげなくカメラに収めていた。不審な様子を見せるものがいればと思っていたが、特にそんな様子もない。

表の様子がまったくわからない銀行の中では、不安そうにしているものたちや苛立っているものがいても、おかしな様子はなかった。

「その後、何か犯人から連絡はありますか」

リカの問いかけに声を落とした花巻は首を振った。

「いいえ。ひとまず、警備員と案内係の須田君には爆弾の件を伝えてあります。無理してシャッターを開けようとしないように」

銀行の中には客が使えるようなトイレがもともとあって、表に出なくてもすむような構造になっている。客たちも、不安げにしてはいても特に拘束されることもなく、手洗いの出入りも自由にできるために、不満や苛立ちを見せてはいるが大きな騒ぎにはなっていない。

いまだ、ほとんどの客たちはシャッターの故障だと思い込んでいたからだ。

―― 藤枝は気づいてくれたかしら……

圏外になる前に送信ができていたはずだから、リカのメッセージは受け取れているはずだ。そうだとしても、これだけ長く待たされればおかしいと思うはず。

もし、この事態に気づいてくれていれば。
取材予定だったNPSに連絡を取ってくれていれば。

何か状況が変わるかもしれない。

そして、待っているだけでなく何かできることがないか、やれることはやるつもりだった。

表と繋がっているのは、今、カウンターで使われている入出金専用の端末と、そのほかには、花巻以下数名の行員たちが使用しているパソコンだけらしい。
メールはこの支店宛で全員のPCに届いている。

カウンターの中ではあまりこうしたメールを受け取るものはいないはずだが、後ろの席では営業だけでなく、一台は必ず支店宛のメールを受け取れるようになっていた。

受け取りができるなら送信もできるのではないか。
そう思ったリカは、内容をみたいだけでなく自分も外部に発信ができればと、そのパソコンを使えないか尋ねてみた。

「このカウンターのところまでパソコンを移動できますか?」
「いや……。ノートパソコンではありますが、カウンターの周りはパソコンなんかが接続できるようにはしていないんですよ」

カウンター周りでパソコンが使えるとなると色々問題があるため、接続できるような環境は用意されていない。
なるほど、と口元に手を当てて考え込んだリカは、しばらく考えた後、犯人が連絡してきたメールに返信してみたらどうかと提案してみた。

「外との連絡が取れるという確認と、犯人にお金は用意するから出られるようにしてほしいっていう交渉をしてみるのはどうでしょう」
「い、稲葉さん。それは……」
「確かに、いち……大金を奪われるのはまずいことだと思います。でもここで被害者が出るほうが問題じゃないかと思うんです」
「それは……そうだと思うんですが、なにぶん、私もこんなことに遭遇したのは初めてでして……」

銀行では、定期的に防犯訓練を行っている。防犯用のブザーもあるし、蛍光塗料のボールも用意されている。だが、それらは当然のことだが、銀行に犯人が乗り込んできた場合のことだ。
この場所に犯人の姿がなく、メールだけで指示が出ている状態ではどうしようもない。

防犯用ブザーは一応押してはいるが何の反応もない。
通常、防犯ブザーを押せば犯人にはわからなくても行員たちにはわかるような、何かの反応があるはずだが、まったくそれらしい動きはなかった。

フロアの課長である花巻には、判断をするだけの考えもない。この場に偶然いただけのリカにすっかり頼りきりの状態になりつつある。

「稲葉さん、こうしたことにマスコミの方は慣れてらっしゃると思うので……。どうしたものでしょうか」
「とんでもない!そんなことはまったくないんですが……」

こんなときどうしたらいいのだろう。
警視庁付きの時でも事件自体に遭遇したことはないのだ。事件が起こってから後追いすることはあっても。

―― どうしよう……

何かできることをしようと落ち着いているつもりでも、頭の中はパニックもいいところだ。正直頼られても困るところではあるが、かといってそのままにはしておけない。

自分自身も、考えたくはないが人質の立場なのだ。

「……爆弾って本当なのかな」
「しかし、それを確かめるわけには……」

シャッターを見てすぐにわかるようなところに仕掛けられていればもっと早くわかっているはずだ。
だめもとで、警備員に確認してもらうわけに行かないかと聞いてみた。花巻が足早にカウンターのほうへと移動して、ATMのほうに向かって手招きする。

すぐに近寄ってきた警備員の一人を花巻が奥に引き入れた。見える範囲でシャッター周りに不審物がないのかと聞くと、若い警備員は首を振る。

「先ほど覗いてみたんですが、特には……」
「じゃあ、シャッターの上をあけてみるわけには」
「いえいえ、花巻さん!それで何かあったら大変なので駄目ですよ。それより、犯人からその後メッセージはないんですか?宅配伝票を貼るところまでしか指示が来ていないならその後の指示があるはずだと思うんです」

ついつい目先のことが気になって無茶をいう花巻を慌てて止める。リカの一言に慌てて花巻は奥のデスクにもどった。顎を引くようにして頭を下げた警備員が戻っていくのと入れ替わるように、画面を見た花巻がうろたえた後、リカの元に戻ってくる。

「稲葉さん。中に入っていただいていいでしょうか。実際に見ていただいたほうが」
「あ、でも私は……」

どうみても一般人のリカが中に入れば、今度こそ他の客達が騒ぎ出すかもしれない。
リカが躊躇していると、花巻はカウンターの真ん中あたりに移動する。客に対しての応対には慣れている様子をみせた。

「皆様。大変ご迷惑をおかけしております。シャッターのトラブルですべての出入り口が利用できなくなっております。大変、申し訳ありません。現在、外との連絡をとってはおりますが、こちらにたまたまいらしていた帝都テレビの方にもご協力をいただいていますので、もうしばらくお待ちいただけますでしょうか」

頭を下げて腰を低くした花巻の声かけに早くしろよ、という声も上がった。何度も申し訳ありません、と頭を下げる花巻に少しずつ声は収まっていく。

その様子を見ていたリカは、フロアの客たちに頭をさげてから花巻に開けてもらった小さなドアからカウンターの内側に入った。

「問題は二億の金を本気で犯人が奪う気があるのかってことだな」
「隊長、どういうことですか?」
「いいか、神御蔵。二億っていうと一番大きなジュラルミンケースで二つ必要になる。一般人にはそんなことはわからないだろうが、その量をおそらく犯人はある程度、正確に把握しているとみて間違いない」

犯人が要求してきた梱包のサイズと分割しろと言う指示を考えるとおそらくそれは間違いない。

だが、宅配業者に委託してどうやって受け取るつもりなのだろうか。当然、送り状のあて先まで警察の目がついていくことはわかっているはずだ。

「追跡されることもわかった上でなのか、それを阻むなにか……」

呟きながら片腕を組んで、香椎は口元に手を添えた。

シャッターの爆弾。
メールで来る指示。
姿の見えない犯人。
わからない内部の様子。

その間にざざっと無線が鳴った。

『こちらSAT基地局、中丸だ。NPS香椎。聞こえるか』

さっと手を伸ばした香椎が無線を握る。

「香椎です」
『状況は』
「そちらにも届いていると思いますが、犯人から二億の現金の要求があった後は動きがありません」
『こちらからひとつ提案がある』

ざざっと無線の音が切れて、香椎の眉間に皺が刻まれた。

『あのビルは古い。新しい建物ではない分、地下に下水へと流し込むための配管室がある。地下一階の大金庫がある場所のすぐ隣だ』
「つまり、そこからまず大金庫のある行内に侵入するということですか」
『そうだ。中の様子がわからなければ手が出ないだろう』
「しかし……」

相手の出方がこれだけ不気味であればあるほど、他に手段もない中、そうですね、とは言いがたい。ビルに入ることは正面の入り口からもできるが、銀行部分だけは入れないでいるのも事実だ。
その空気を先読みした中丸はきっぱりと言い切った。

『すでに我々SATの爆発物処理班が地下にスタンバイしている。我々は10分後、地下からの侵入を試みる』
「中丸隊長……。大金庫のある地下に入れたとしても一階のフロアには入れませんが」
『直接はな。だが、昔つかわれていたというエアシューターからカメラを仕込むことはできる』
「エアシューター?」

香椎が繰り返した言葉を聞いて、すぐに一號は図面に視線を走らせた。それらしい施設を見つけられないでいると、香椎の指先が柱の途中にある小さなしるしと、円形のサイズを示す記号を指す。

『昔の銀行には伝票や現金をその場から違うフロアに移動させる際、途中で間違いがないように、直接運ばなくても上下のフロアをつなぐエアシューターが備えられていた。今は電子化が進んでその必要性がなくなって、使用されていないがこのシューター自体は今も存在している。ここからカメラを送り込む』

仕組み自体は香椎もわからなくはなかった。縦長の筒状の容器に書類や物を入れてシューターにセットする。
セットしたらシューターの入り口を閉めて、スイッチを押せば、強い風がシューター内の容器を送り出す。全体で円を描くようなつくりになっているためにフロアの片側は上のフロアに向かう一方通行で、フロアの反対側は上から降りてくる専用だ。

エアシューターが使われている間は入り口が開かないようになっているから、危険もない。

使われていない今はエアーを送る装置も止められているだけの、ただ使われていない配管だ。

「わかりました。今こちらも工作班がビル内からの侵入経路の捜索を進めていますので、何かわかればご連絡します」
『承知した』

無線を切った直後、後ろのドアが開いて、素早く古橋が乗り込んできた。

「隊長。さっきの……」
「ああ。SATが地下からの侵入を試みるそうだ」
「そっすか。いや、うまくいくといいんですが、相手は相当頭がいいと思いますよ」

ビルの中はエアコンが効いていたはずだが、古橋は汗を滲ませた姿でホワイトボードにはってあった、平面図をテーブルの上に広げた。
灰皿やその他のものをざっとよけた上に手を突く。

「このビルはもともと銀行が入ることを想定して作られたってのは間違いないっすね。他のフロアに入る会社とは基本的に隔離するように作られてるんですよ。後から二階以上にだけは避難用に出入り口が作られたようですが、ここは指紋と身分証明のカードの二重認証になってます。一見、異常はないんですが近くによっても指紋認証の反応がありません。警備会社の人間なら、端末を接続してキーボードを表示させれば認証させられるらしいです」

二階にある高額の融資専用カウンターのほうはもともと客もある程度絞られている。そちらのほうは封鎖されてはいないが、念のためカウンターを閉めて行員も退避させた。

「二階を閉める際に、裏の出入り口から行員たちは出ようとしたらしいんですが、こっちは一階同様に開かなかったらしいです。そのため行員たちも客と一緒に表の出入り口から出ています」
「二階のフロアにはまだ入れるってことか」
「入れるはずだったんですけどね。こっちも全員が出た直後からシャッターがなぜか自動的に下りてきて、今は上も封鎖された状態っすね」
「ってことは、銀行の二階は無人だってことか」

SATが地下からエントリーするため、事前捜索を行った結果、周囲には緊急配備が敷かれている。ビル内は最優先で退避が行われたために、今は一階で閉じ込められている行員と客だけだ。

「二階から下のフロアに侵入できそうな場所はないのか?」
「無理っすね。一階と違ってシャッターもこういう格子のやつなんで、カッターがあれば破れると思うんですが」

ふむ、と腕を組んだ香椎が壁の時計に視線を向けた瞬間、微かな衝撃を感じた。遅れて、何か気の抜けたような音の後に、がぁん!と大きな音が響いて、指揮車の中にいるのに、一瞬、全員が身構える。

「梶尾!どうした!」
「隊長!近くのマンホールの蓋が次々吹っ飛んで……。帝都テレビの取材車のすぐ脇に一枚吹っ飛んできました!」
「何!」

周りを見張るために周囲に設置されたモニターを覗き込む。ひとつが目の前の取材車を向いているからだ。驚いた顔で車から降りた坂手の姿が見えた。

道路の上に動きを止める直前のマンホールの蓋が見える。

「梶尾!爆発か?」
「あ……、よくわかりません!でも……」

吹き飛んだマンホールから煙や何かが出ているのかと思ったが、特にそういう気配は見えない。
何が起こったのかとモニターに釘付けのまま無線を握り締めた。

「SAT中丸隊長!今のはなんですか。なにかあったんですか」

すぐには反応が返ってこず、じわりと焦りを感じた。

「SAT基地局!中丸隊長」
『……こちらSAT基地局!地下からエントリーを試みた工作班が仕掛けられていたトラップに接触!』
「怪我人は!状況は?!」
『工作班に負傷者はなし!繰り返します。負傷者はなし!』

一瞬、ひやっとしたものの、負傷者はいないという報告にほっとしたのもつかの間、すぐに緊張を引き戻す報告が続く。

『ただし、侵入を試みた地下、大金庫のある行内から小さな爆発音を確認!』

思わず顔を見合わせてから、古橋は小さく舌打ちをして拳を握り締めた。

周囲にいる警官の案内で、近くのビルにSATが構えた基地局へと移動する。
オフィスの空きフロアの一角はちょうど真向かいに銀行が見えた。

「中丸隊長!」

いの一番に飛び込んだ香椎をSAT隊員たちが一斉に振り返る。その中で振り向かない隊員が二人。

「香椎」
「どうしたんですか!なにがあったんですか」

香椎の視線を避けるように顔を逸らした隊員たちを前にして中丸は硬い表情を変えずに口を開いた。

「簡単なトラップだ。地下の配管室の手間の管理室へ入ったそのすぐの場所にこれだ」

中丸が手にしていた黒いものを差し出されて、香椎がまさか、と眉をひそめる。

「これは……、家庭用のリモコン?」
「そうだ。赤外線リモコンの電源を押しっぱなしにしていて、その前を何かが通って、一瞬さえぎった後、再び赤外線が届くと……。ただそれだけの子供でも作れる簡単な仕組みだ」

ただし、薄暗い非常灯と手にしていたマグライトの灯りではそんなものを捉えることはできない。
踏み込んだ瞬間、衝撃音と共に、配管室のドアが勢いよく閉まった。

「自分たちは勢いよく閉まったドアの勢いに押し出されたようなもんでした。犯人は近くのマンホールの出口のすぐ傍にいくつも爆発物を仕掛けていたようで、ドアが閉まったのはどちらかと言うとその勢いだと思います」

赤外線をさえぎった直後、爆発物のスイッチがオンになり、近くのマンホールに仕掛けられていた爆発物によって蓋が飛んだということらしい。
手の中で黒いリモコンをもてあそびながら、続きを促す。

「それと……、中で聞こえた爆発音というのは?」
「管理室から配管室へ入れなくなり、さらに大金庫のある行内へ入れなくなった。だから、中の様子は正確にはわからないが、我々の動きを読まれた可能性は大いにある」
「……エアシューター」

唇を噛み締めて香椎が呟く。大金庫から直接一階のフロアに上がる道はないが、真下に当たる大金庫に入ろうとするならば、目的は自ずとはっきりしてくる。
苦々しげな中丸も、相手の読みのよさに舌打ちしたいところだろう。

「なかなかやりますね」
「関心してる場合じゃない。これで中の様子を知る手立てがまたなくなったんだ!」
「中丸隊長。今のところ、行内はエアコンも効いていますし、手洗いも中にはあります。犯人が中で人質を拘束していないとするならば、まだ中に閉じ込められているマル害の負担は少ない。だとすれば、その時間を有効に利用しませんか」
「何……!」

自らの作戦が間違っていたとでも言わんばかりのいいように中丸は目を剥いた。だが、かつて女房役を勤めた香椎は淡々と続ける。

「今までの時点でわかる限りですが……。普通であればさっきの爆発でSATの何人かは負傷していたかもしれない。だが、実際は違う」

使われていないオフィスの長机の上に装備の入った鞄が並ぶ。SATのものはすでに必要なものは机の上に、それぞれが身につけるものは壁際の長机の上に並んでいた。

「……何が言いたい」
「おそらくですが、犯人はとても頭がいい人間かもしれません」

何を言うのかとSATの隊員たちが一斉に香椎のほうへと向き直った。

「姿を見せずに遠隔で我々を動かしている。気配も見せません。ただ、さっきのように侵入を試みるだろうことも考えに入れて、怪我人は出ないように爆発物をセットしている。鑑識の正式な報告はまだですが、こちらで見た限りは例の銃撃戦のときに使われたものと同じ手榴弾かと思われます。侵入を試みるだろう我々へのトラップなら出入りする場所に仕掛ければいい」

だが、犯人は付近の、しかも目立つ場所にあるマンホールに複数仕掛けている。
あれなら、何かあったと周囲にも、警戒している警察にもすぐにわかるはずだ。本気であるという意思表示と威嚇には十分である。

けが人を出すことなく。

「ただ、いずれにせよ必ず犯人は中の状況がわかる手段を用意しているか……」
「または現場にいるか」
「ええ。ですから慎重に行きましょう。金の方はどうなりました?」

二億の金を五百万ずつに分包して四十個の包みになる。一時間に二十個ずつの発送と言うことは、少なくとも二時間で決着をつける気があるということだ。

「準備はできるそうだ。近くの支店から融通してもらって用意するそうだ」
「どのくらいで?」
「2時間はかかるだろうな」
「準備に2時間、発送できるようになってからさらに2時間。4時間の勝負と言うことですか」

地取り捜査ではこれといって支店に関するトラブルの情報も、ここ最近で不審な何かがあったという情報も上がってきてはいない。

状況としては手詰まりに見えた。

「時間。指示。警告。まだ我々は相手のペースに乗せられたままです。そのペースを乱すことが最優先かと」
「ならNPSはどう動く」

わずかに振り返った香椎の背後から速田が一歩踏み出した。

「宅配業者への手配を進めています。集荷をこちらの隊員に変更、そのあとも全部で40個の発送先を追跡、捕捉ができるように準備しています」

時間が来るまでに全員の開放など、対策が取れなかった場合のために、できる準備は始めている。

「それから帝都警備の担当者が今、こちらに向かっているところです。到着し次第、防犯カメラ、出入り口のセキュリティなど、システムを確認してもらいます」
「帝都警備か」
「ええ。銀行のセキュリティシステムはすべて帝都警備が行っていて、内橋支店の担当者を呼びました。それから、今は犯人からの連絡が一方通行でしたが」

犯人がよこした指示のメールに対して、準備を整えたNPSはすでに返信を送っていた。その反応次第で、犯人とのコンタクトが可能になればまた変わるはずだ。

ノックの音と共に開いたドアにその場の視線が集まる中、制服の警官が控えめに顔を覗かせた。

「あの、こちらにNPSの香椎隊長はいらっしゃいますでしょうか」
「はい」
「帝都警備の方がいらしてますが……」

体で部屋の中を隠すようにしていた警官が片手を上げた香椎を見て大きくドアを開いた。

シールや傷がついた使い込まれたケースとバックを持って、地味なリクルートスーツのような姿の七海が姿を見せた。

「帝都警備の方ですか」
「どうも……。帝都警備の七海と申します」

部屋の中に入ろうとした七海の前にSATの隊員が二人立ちふさがる。

「身分証明を。それから持ち物を確認させてください」
「あ……。はい、これが身分証明です。私物はかまいませんが、機材のほうは専門のシステムなどが入っていますので、中には触れないでいただけますか」

PCや認証用の機械に無造作にX線などをあてられては壊れてしまう、と言うことなのだろう。
それは駄目だと追い出そうとしたSATの隊員を抑えて、古橋がNPSの荷物を置いてあるテーブルのほうへと促した。

投稿者 kogetsu

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