子供味覚だと言った俺を可愛いですね、と言ったリカぴょんは、甘いものが苦手だった。
「甘いと、ぼんやりしちゃいそうで駄目なんです」
付き合う前はそんな風に言ってた。気持ちがぼんやりするってどういうことなのか聞いたのに教えてくれなかったけど、デザートくらいと言っても、頑なに拒否される。
今ならたまにはいいんじゃないかと思っているのに、いつになっても甘いものは俺に譲ろうとする。
そんなリカぴょんが、めちゃくちゃ甘い飴を持って帰ってきた。
大事そうに取り出したそれに、俺はいたく感動する。
「すごいね。ドルフィンとブルーだ」
「食べるのがもったいなくて、持って帰ってきちゃった」
そういって、二つをテーブルに置いたけど、それだけでもうお見通しだよ、と思う。
きっと一緒に食べたくて、二つ用意してくれたのだろう。
自分に都合のよすぎる解釈に、我ながら吹き出しそうになったけど、それでも飴細工がすごくて、俺は手を伸ばす。
「あっ、ブルーの方から食べちゃうの?」
やっぱり、先に手が伸びるのはブルーに塗られた可愛い飛行機の方だ。納得いかなかったのか。
俺より先にドルフィンの方に伸びた手が被せられていたビニールを外した。
「はい」
「ええ?こっちなの?」
イルカなんて可愛いものはリカが食べるべきだと思ったのに、手にしたイルカに軽くキスしたその人はこんなことを言う。
「だって、一番最初でしよ?」
「へ。……どういう……。まさかT4?」
へへっと笑ったその顔がどうだ、と言わんばかりでこっちが参る。
―― 嘘でしょ?こんな可愛い発想する?!
俺が崩壊寸前の顔を押さえると、笑っていると誤解したリカぴょんは、頬を膨らませた。
「だって!初まりの飛行機だし……」
「あ、違う!馬鹿にしてるんじゃないよ!ドルフィンだからってその発想が、可愛すぎて!可愛いって言ったらリカぴょんが、また怒るかなって思っただけ!」
拗ねないで。
違うんだよ。
少しだけ悲しそうな顔がチラリと俺を見る。
お願いだから、そんな悲しそうな顔をしないで、と思っていたら、開きかけた俺の口に、イルカがキスした。
「あ。……甘い」
リカがキスしたイルカが。
呟いた俺を飴だから甘いよ、と機嫌を直してくれたらしい声が返って来る。
笑われても俺が味わってる甘さはきっとわからないだろうな。軸になっている割り箸はリカの手の中のままで、ぺろっと舐める。
「おいしい?なんか、昔ながらの味って感じだよね」
「うん。リカも食べて?」
「ん、実は取材のときに一つ食べちゃったの。ウサギを作ってもらって」
ああ、そういうこと。
え?と我に返る。見上げると、バツの悪そうな顔でごめんねと言う。
「リカぴょんがウサギ?」
「一つ作ってくれるって言われて、藤枝が勝手に言ったのよ」
ああ、そういうこと。
同じセリフでも気持ちはまったく違う。
そんな俺にリカは、リカの手にゆだねていたドルフィンの軸を握らせた。。
「私はこの二つを買うって初めから決めてたから」
うん。わかってる。
舐めてるうちに、イルカの色が落ち始めて、ちょっと可哀想だなと思いながら口に入れた。
ただ。ちょっとね。
ウサギを食べるなんてムカつくだけ。たとえ、結果としてリカが食べたんだとしても。
眉間に皺が寄らないようにと極力意識したのに、こんな時は変化に敏いリカぴょんが難しい顔をする。
「私がウサギを食べるなんて可愛くないでしょ。でも、食べちゃったけど」
「そんなことないよ。ドルフィンとブルーをお土産に買ってきてくれるような可愛い人、他にいないよ」
甘い飴が、嫉妬の分だけ苦い。
リカだけが俺にくれる味。