「比嘉ちゃんはさ。どうなの?次の試験」
「試験、ですか?」
「そう。片山が気にしてるからね。それに、あいつはさ。お前と一緒に仕事がしたいわけよ」
くい、と酒の入ったガラスの徳利を持ち上げると、鷺坂室長が僕のぐい飲みに注ぐ。
二人で飲むときはいつも日本酒になるのは、鷺坂室長の気遣いなのだ。
「仕事なら一緒にこなしていますが」
「そうだけどさ。あいつはお前と対等な立場で仕事がしたいわけよ」
「対等、ですか」
そ、と焼き鳥の串に手を伸ばした鷺坂室長は雛皮を串から外して、一味唐辛子にちょいちょいっとつける。
ぱく、と口に入れると、箸の先でパセリを転がした。
「自分の命令でお前を動かすんじゃなくて、お前にも一緒にやってほしいんだよ」
「自分は、それでも……」
「うん。お前の気持ちもよくわかるからさ。俺は強制したりしないよ」
片山三佐の気持ちは、正直なところ、本当に嬉しかった。
ここで片山三佐と一緒にもう一度仕事ができるなんて思っていなかったから、余計にそう思う。
「自分は、どんな立場であっても、誰かに引き継いでいけるならいいと思うんです。決まりきったことだけで我々の仕事は進まないことの方がおおいんです。そこを、調整して経験を伝えていくことも大事だと思うんです。そんな僕の、勝手な思いを片山さんは理解してくれた」
頷いてくれる鷺坂室長も、誰よりその我儘を許してくれる一人なのはわかってういる。
―― わかっているからこそ……
景気づけにぐい、と酒を飲んでから、口を開いた。
「今度は、私の方が、片山さんの気持ちにこたえたいと思ってます」
おや、と眉を上げた鷺坂室長が笑顔で頷いてくれた。
「いつか、私も、片山さんとこう、ハイタッチするのを目標にしようと思ってます」
「男同士でハイタッチするのが目標なんて、色気ないねぇ」
「男臭い職場ですから」
まったくねぇ。
はもってから同時に酒を注ぐ。ちん、とぐい飲みを当てる。
「比嘉ちゃんの新しい目標に」
「それまでは秘密にお願いします」
「もちろん。サプライズほど嬉しいものはないってね」
いつかこの手に。