僕の奥さんと一緒に家を出て奥さんの実家へと向かう。通勤には不向きだけど、奥さんの実家に向かうには電車で乗り換えなしで行ける。
するっと僕の腕に腕を絡めてきた奥さんが妙に嬉しそうだ。
「珍しいですね」
「哲さんがお仕事の方、連れていらっしゃるなんて初めてでしょう?お酒を持っていくのはあっても連れてくるなんてなんだか嬉しくて」
「空井二尉は将来有望な方ですし、帝都テレビの稲葉さんという方も取材をしていただくには信頼できる方ですよ」
そうなの、と本当に嬉しそうな奥さんと一緒に電車に揺られる。ちらりと腕時計を見ると、午前のいい時間だ。
きっと、稲葉さんを拾った空井二尉がどこかでお昼をとってくるでしょうね。天気もいいことだし、週末デート最適な日かも知れない。
「ねぇ。哲さん」
「なんでしょう?」
「とっておき、今日は出しちゃおうかな」
ふふ、と笑った奥さんを腕をひいて同じくらいの身長差で耳を傾ける。
あのね、と笑った奥さんが内緒話をするように手を添えて耳元に囁いた。
―― 私が特別に仕込んだお酒、少しだけあるの
いつもの酒よりも、少しだけフルーティで甘い。
それをふるまいたいのだという。
「いつの間にそんなのをつくったんですか?僕にも内緒なんてひどいな」
「初めに哲さんに飲んでもらおうと思って秘密にしていたの。秘密バラしちゃった」
「参りましたね。職場でも一番先に秘密をキャッチしてると思ってたのに、家では奥さんに負けました」
まいったな、と言う顔をしていると、小さくやった、という奥さんは相変わらず若くて可愛い。
鷺坂室長の奥様も笑顔の似合う方だったと言うが、僕の奥さんもそれに負けないくらい笑顔の可愛い人だ。
僕の我儘を聞いて、こうして頑張ってくれるしっかり者というのも、自慢したいところである。
「私、こういう仕事しているから哲さんのお仕事の皆さんと関わること少ないでしょう?でも、お話聞いていたらなんだか気になっちゃって」
「そうでしたか」
「私、哲さんがずっと頑張ってお仕事してくれているから、こういう機会があるなら私からもできること、おすそ分けしたいの」
「おすそ分けですか。なんだかいいですね。そういうの」
空井二尉と稲葉さんにも僕の奥さんのおすそ分けが伝わるといいんですけどねぇ。
今日のアシストも、うまくいくとは限らない。
ふっと、考え込んだところでくいくい、と腕を引っぱった奥さんが僕の肩をたたいた。
「一番先は哲さんが先に味見してね?」
「……もちろんです」
一緒にいて落ち着くとか、安らぐとか、元気にしてくれる。
こんな風に、幸せな時間を、空井二尉にも味わってほしいと思うのは僕のちょっとした我儘の一つだから、誰にも言いませんけどね。
「ん?」
「僕らの幸せを、今日来る二人にも分けてあげてくださいね」
「任せておいて」
こういうことは、女性にはかないませんから。