結局、その後は取材に出てから直帰にして早く家に帰った。
大祐が戻る前にと急いでハンドタオルを濡らして冷凍庫に放り込む。きっと暑い中、あまり暑いのも好きではないはずの大祐が帰ってきたときに、冷たいタオルで迎えてあげたかった。
シャワーを浴びてから、昼間冷房の中にいたからと窓をあける。夕食の支度をしながら大祐の帰りを待っていると、玄関の鍵を開ける音が聞こえた。
帰ってきた瞬間、バタバタと駆け込む音。
「ただいま!」
嬉しそうな大祐の顔にリカも嬉しくなる。冷凍庫から冷やしたタオルを出して顔にあてたらうわっと声が上がった。
「冷たっ!どうしたの?」
「へへ。今日も暑かったでしょ?だから、帰ってきてすぐに用意してたの」
「あ……、わざわざ?」
吐き出す息の方が温いくらい、こんな時間になっても暑い中を帰ってきた大祐の体温で固まっていたタオルがふにゃっと柔らかくなる。顔を覆って、首元に充てるとその冷たさにスッキリする。
「大祐さんの方が暑いの苦手だもんね。……わっ」
思わず、汗臭いだろうなということよりも、リカが先に帰っていることも久しぶりで、大祐のためにこんなことをしてくれていたことが嬉しくて、ギュッと抱きしめてしまった。
耳元で叫ばれて我に返った大祐が慌てて離れる。
「ごめん!汗臭い、よね。風呂、入ってくるから」
へへ、とタオルを手に嬉しそうに笑った大祐は、鞄を置いて、スーツを着替えに行く。
シャワーを浴びて着替えた大祐と一緒に夕食を終えた後、ソファでくつろいでいる大祐にごめんね、とリカが言う。
「今日は昼間、エアコンが強いところばっかりにいたのよ。今夜は風もあるからいいかなって」
窓を開けていると確かに風が流れてきてそれはそれで心地いい。部屋のこもった空気はなくなっていても、時折吹く風だけではやはりそれなりに暑い。
寝るまではと、そのままにしていたらぐったりしていたワンコが甘えてきた。
「別にかまわないよ。確かに今夜は風があっていいよね」
「うん。あ!今日、すごく困ったんだからね。暑いからつい、カットソー着て行ったんだけど、その……、ショールで隠さなきゃいけなくて暑かったんだから!」
「え?なんで?」
「なんでって……」
リカが首元に手をあてたのをみて、しばらく考えてから、ああ、と気づく。
「暑くて、ついぼやいたら……、藤枝にショールとられちゃって」
生々しい跡を見られてからかわれたのだというリカに、ごめん、と呟いた。
つけるつもりなどなかったのについつい、誘惑に負けて目につくところにも跡を残してしまったのは、独占欲がなかったとは言えない。それを藤枝にからかわれたと聞くと、ひどく複雑な気分になる。
「もう……、セクハラだと思わない?」
「そう……かも。でも、単純だけど満足かな」
背後からリカを抱きしめる手が片腕を伸ばして、テーブルの上に置いてあったリモコンで部屋の電気を消した。断れないのをいいことに、その手が不埒になっていく。
「声、出しちゃダメだよ」
窓はまだ空いたままだから、と囁いて、ちょっとズルい手に出る。
甘いのか意地悪なのか。
藤枝のセクハラまがいの行動には、満足でもあり、なかなか複雑でもある。一番、嫉妬を覚える相手でもあり、リカを身近で守ってくれる相手でもあるのだ。
「ん……」
―― 駄目だってば……
その言葉も飲みこむくらい、キスと意地悪な振る舞いがリカを追い立てる。
それに乗るのもシャクに触るが、この際とばかりに今は、服に隠れる場所。特に内腿に跡を残しながらリカが望む場所を避けて追い立てると、声を殺したままで泣きだしてしまう。
―― 泣き出した君がねだっても、言うことは聞かないよ
「……っ!!」
散々焦らしてから嫌というほど、蜜を啜る。
―― なにも考えられなくなるくらい、惑わせるのは俺だから……
「……あっ」
抑えきれなくなった声を上げたリカに、本当に満足しながらすぐそばに置いてあったテレビのリモコンを掴んだ。夜のニュース番組がかき消してくれる間に、肌に滲む汗もいいなと思う。
夏の暑さも、汗も。
リカの肩の服に隠れるかどうかのぎりぎりのところにキスを一つ。夏の跡を残して。
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Twitterに呟いた140文字のお話の焼き直し版です。まだ暑いころにかいたんですよねえ。
書き起こせていないお話がまだまだあるのでした。