FLEX165~男子って奴は

このお話は2年前の夏に書いた、【女子って奴は】の後編です。

夏の暑さと苛立ちと衝動は何かを狂わせる。朝の小さな諍いのあと、リカから電話があった。
打ち合わせから戻ってすぐだったので、急ぎでなければといったが、正直、大祐も頭の片隅にずっとこびりついていて一日、落ち着かずに過ごしていた。

早く帰るといった通り、定時で上がった大祐が先に家に帰って、日中の汗を流し終わった頃、リカからもうすぐ帰るとメールが届く。

―― さて、どうしたらリカにわかってもらえるかな……

可愛い姿は正直、男としては嬉しい。
見れば可愛いと思うし、あの笑顔を向けられたら即、腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめたくなるし、当然ながらそのあとも……。

誰もいない部屋でふるふると頭を振った大祐は、うーん、と口元に手を当てて考え込んだ。

女性のリカには男の頭の中など、わかるわけもないだろうし、大祐もそんな考えが少しでもあるなど、リカには知られたくないと思っていたのだが、さすがにここは恰好を付けている場合ではなく、ちょっとくらいは出してもいいかなと思い始めていた。

リカがいなければ、テレビもつけずに静かな部屋の中で考え込んでいた大祐は、少しの悪戯心と少しの好奇心に負けそうになる。多少でも男というものを知ってほしい、という気持ちを言い訳に、一歩踏み出すことにしたのも夏だから、というよくわからないものが左右したのかもしれない。

エレベータを上がって、玄関に近づく足音は静かにしていると存外響く。特に、女性のヒールの音は伝わりやすく、リカが帰ってきたときには部屋の灯りはついていたが、玄関は薄暗かった。
気まずさもあったのだろうが、そっとドアが開く前に、大祐は玄関にたどり着く。

「ただい……」

最後まで言い切る前のリカに向かって片手を伸ばした。

「お帰り」
「びっくりした!ただいま」
「あのね。リカさん。これから、男だったらってのをわかってもらおうと思うんだけどいい?」

ゆっくりと閉まるドアをもう片方の手で強く引いた後、ロックをかける。
まるで壁ドンの体勢に目を丸くしたリカが、戸惑いながら頷くのを見た大祐はにこっと笑って近づいた。

「ふ……っ!!」

まだ肩にバックをかけたままのリカの腰を引き寄せて唇を塞ぐ。驚いたように目を見開いたリカを目を細めて見ながら、噛みつくように柔らかな唇と、ざらついた外の匂いの名残を感じながら深く舌を侵入させる。

ファンタジーといえばそれまでだが、男性誌には多少なりとも犯罪すれすれのシチュエーションは多くて、男なら一度や二度は目にしたことくらいある。
その手のものが好きな奴もいれば、別段意識もせずにあくまで非日常の起爆剤としてみる奴もいる。大多数は、少女漫画と同じで、あり得ないだろうが妄想の類として面白がるのがほとんどだ。

いつもより、少し強引に口中をかき乱すと目を閉じたリカから徐々に抵抗する気力がなくなっていくのを感じる。
もっと深くと、手だけではなく、肘までをドアに押し付けて、軽く目を伏せると自分がそうさせているはずの鼻にかかる吐息とキスの音に集中した。

急に引き寄せられて行き場をなくしたリカの手が支えを求めてドアに伸びると、リカの肩にかけていた鞄が落ちる。

「……んー、ンんっ!」

向きを変えて、何度も深く口の中を味わって、かき回して。

本当は、可愛いシャツも、真っ白なパンツもぎゅっと抱きしめてそのまま家から一歩も出さずに済めばいいのに、と思ったのを思い出す。

薄暗い玄関の中にぼんやりと浮かび上がる真っ白なシャツを見ると、もどかしげに捲り上げて胸元までむき出しにした。

「……っはぁ……」

唇が離れると、頭を下げてシャツよりも白い肌に目元が鋭くなる。
すっかり息の上がったリカのだらりと落ちていた手をつかんで、腕の内側の白くて柔らかい場所に強く吸い付いた。

「ちょっ!半袖でもそんなところじゃみえちゃう……!」

間近で我に返ったリカが大祐を睨む。
都合よく聞かないふりをして、目を合わせずにリカの両腕を後ろに回せば、抑え込まなくても軽く抵抗を封じられる。

鼻先で髪の毛を退かせてわざとゆっくり耳を舐った。

びくっと首をすくめようとする反応に首筋に舌を滑らせて、可愛いな、と浮かんだ笑みを飲み込む。

「女の人には可愛い服でも、こんなの着てたら男は中身を想像するんだよね」

耳元で囁くと、首筋から喉元に移動して噛み付くように軽く歯を立てる。。

「ここから胸を妄想して……」

熱に浮かされたように、汗ばんだ肌の上を手が動いて、鎖骨の窪みからゆっくりと移動させながらリカの体をドアに押し付ける。
捲り上げたせいで、背中にドアが直接当たれば、その冷たさに体が震えた。

「ちょっ……、待って。こんなところでっ……。それに、汗かいててっ!」
「そんなの煽るだけだよ?」

下着越しに敏感な場所を、しつこく擦る。
強引さと横暴は紙一重で、傷つけないぎりぎりのところを見極めながら指先に感じる尖りを煽った。

「こんな風になってるんじゃないかなって、やらしい目でみて……」

指先の不埒な動きを見せつけるように、間近でリカの顔を覗き込む。

「女の人だって、こんな場所でどうしようってどきどきするでしょ?」

キュッと指先で丸みを帯びた真ん中を強く摘まむとビクン、と体が跳ねた。

「あ……っ」

驚きと、戸惑いと、そこにはっきりと混ざるリカの艶めいた色に、いくらかほっとしながら大祐はそのまま深く踏み込むことにする。
指先で強く尖りを弾いて、そのまま押し流すために体を密着させた。

「あ……!っや……」

弱い抵抗がますます消えていくのをみながら、腕にも胸元にも、柔らかな谷間にも朱印が次々と散っていくことにぞくぞくする。

きっとこんな場所につけたら消えるまで、襟のついたシャツしか着られないだろうなと思う。恥ずかしさに、じわりと涙が滲んだリカが、小さく離してと呟く。

「ダーメ。リカはもう少し男がどういう目で見るか知るべきだよ」

耳の中へ息を吹き込むように囁くと、声にならない声が返った。

ズルイ。

本当はずるいとかずるくないではないのだろうが、それ以外の言葉がなかったのだろう。
下着のラインが見えないように気を使っているのだろうが、わからないはずがない。腰に回した手で丸みを撫でながら、わからないと思ってるの?と囁いて笑う。

「……っ、意地悪……っい」

触れるのも、素肌を暴くのと、わかっていると知らしめることの二通りあって、後者ではもどかしさと羞恥に焦れるらしい。ぷつ、とフロントのボタンをはずしてジッパーを降ろしても、抵抗されない代わりにすり、と大祐の足に絡むようにリカの足が動いた。

無意識の動きなのだろうが、ごく、と大祐がせり上がる欲情を飲み込む。

素肌にまとわりつく華奢なレースをたどって、摺り寄せてきた足をわざと押し開いた。

「声、ガマンしてね?」

どこかで理性のかけらがこの辺でやめた方がいいと囁くが、ここまでくると大祐自身も止めようがなくなる。何もかも見失ったわけではないが、流されているリカにつけ込みたくなる。

一番柔らかい場所の上で、こねるように指先を動かせれば、滑るに任せて隙間ができる。そこから指を滑り込ませて、咀嚼するような甘い音を立てた。

「こういう可愛い格好されたら襲いたくなる、よ」

懸命にかみ殺した小さな喘ぎと、震えながら唇を噛む姿は背徳感なのか。
悪いことをしているという気持ちがあればあるほど、興奮を覚える。堪えている声を溢れさせたくなる。

誰にも聞かせたくない、ただなんでもない姿を見せることも嫌なのに、自分だけは可愛い姿も淫らな声も独り占めしたい。

「だから、可愛い恰好って、こんな声を、……誰かに聞かれるくらい。……どのくらい嫌かっていうと」

途切れ途切れに呟く間に、男なんてしょうもないと思いながら、着ていたものを腰から下へとずらす。熱のかたまりを指先を濡らす場所へと触れさせれば、同じくらいの熱に引きずられそうになる。

指先からつたう蜜に濡れた手を、太ももに滑らせて、引き上げながら腰を寄せた。誘い込まれるように、奥深くまで熱の塊が踏み込む。

「……っ!!」

もう声を我慢できないと思ったのか、リカが細い手で大祐の肩を引き寄せる。Tシャツ越しに押し殺した声が伝わってきた。

「……っあ、くそ……っ」

ドアは隙間がなくてガタガタ揺れるはずの音を殺してはくれたが、足元に転がった靴や、玄関に置かれた小物たちが倒れて音を立てた。

蕩ける様な快感はベッドにいるときよりも強烈で夢中になる。
立ったままで、不安定に繋がるから、余計にもどかしくてお互いに奥底をを探りあう。

「ふ……っ、……っく」
「はっ、……っぁ」

もどかしい中で、うねる様な締め付けられる感覚に唇をかみしめて腰を引いた。

ぐらりと倒れそうになる体を支えて、リカがかわいく飾っている下駄箱のほうへと体を向ける。
背後から抱えるようにして、再び奥深くまで踏み込んで、同時にリカが感じる場所をまで手を伸ばして指先を再び濡らした。

「んん……!ああっ」

抑えきれずに大きく喘いだリカの口元に大祐は手を添えて塞ぐ。

「す……ご、はぁ……」

危うく持っていかれそうになって、思わず呟いた大祐は、口元に添えられた手が外れないようにたてられた爪に顔をしかめた。
ほんの少しだけ振り返ったリカが、小さく首を振るのを見て、大祐は小さく唸ると音が出るほど強く肌を打ち付ける。

「ふぅ、ぅぅぅぅっ!!」
「あ……っく!!」

ぶるっと全身から力が抜けていくような感覚は、どれだけ繰り返しても慣れるものではない。下駄箱に手をついて、体を支えて崩れ落ちそうになったリカから離れた。少しずつ、熱が引くのと同時に、たまらなく甘い内側から抜け出して両腕で抱え上げた。

足元にまとわりついていたパンツを片足で放り出して、バスルームまでリカを運ぶ。

「着替え用意してあるからゆっくり入っておいで」

ぼーっとしたリカをバスルームの中において、ドアを閉めた。

自分と、玄関と。

後始末を済ませて、我に返ったリカが怒ってないといいなと思いながら、大祐はキッチンに立つ。
しばらく静かだったバスルームからシャワーの音が聞こえ始めてほっと息を吐いた。

冷たい水を喉に流し込みながら、バスルームを背にして壁にもたれる。
水音が止まって、ドアの隙間から伸ばされた手がバスタオルを掴んだ。振り返らなくてもわかる。

濡れた髪から水分を払うとバスルームを出たリカが、ぽつりと呟いた。

「……大祐さんて、ほんとに、時々ワンコからオオカミになるよね」

それを聞いて思わず吹き出してしまう。

「お、オオカミって……」
「でも、……から、今度から気を付ける」
「え?何?」

肝心なところを聞き逃した気がして問いかけた大祐のすぐそばをリカが通り過ぎる。

「は、恥ずかしいから気を付けるって言ったの!」
「リカ!」

赤い顔をしたリカを大きく腕を開いて抱きしめようとした腕から、小走りに逃げていく。

「も、もうダメ!私、そんなにダメだから!」
「ただ、嬉しいからぎゅっとしたかっただけだよ」

大祐としてはこれからまだベッドに連れ込んでも構わないくらいだったが、さすがにそれはリカに怒られるだろう。
苦笑いと一緒に冷たい水を差しだすと、恨めしそうな顔のリカが振り返った。

「……でも私、可愛いよって言ってもらえるようにしていたいの。その、女子力低いけど、大祐さんが、いつでも、自慢できるように」

まるで駄々っ子のような呟きに、大祐は顔を抑えて天井を見上げた。

「大祐さん?」

不安になったのか、大祐から距離を置いていたリカがペタペタと近づいてきて肩に暖かい手が触れた。

仕事だけじゃなく、女子として、譲れないところが、ある。

「大祐さんと一緒に飛ぶ、エレメントがかっこ悪いなんて嫌なの。わがままでごめんなさい」

―― そんなの殺し文句だろう……

「あー……。わがままじゃないけど、ずるいよ。そんなこと言われたらダメだって言えなくなる」

ゆっくりとすぐそばに感じる同じシャンプーの匂いを吸い込んで、リカの濡れた髪に顔を埋める。

我儘と独占欲と混ざりあって、どちらも譲れなくて。
まるで、熱帯夜に酔った気がした。

投稿者 kogetsu

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