浮かれていると言っても、いつもよりはるかに酒は飲んでいない。一週間ぶりにリカに会えたことで舞い上がっていたし、周りの冷やかしも馬鹿だなと思いながらも嬉しくて仕方がなくて。
その冷やかしが、リカとの結婚を夢じゃないんだとわからせてくれている気がして、余計にはしゃいだ気がした。
リカが入った後だけに、温まったバスルームでいつも使い慣れたシャンプーの残り香が妙にどきどきする。
バスルームの中で体についていた水滴を手で払ってから、バスルームを出た。
バスタオルで体を拭って、着替えを身に着けて部屋に戻ると、まだ濡れた髪を押さえたリカがぺたりと床に座っている。
その頭にそっと手を置いた。
「乾かそうか?」
屈んだ大祐に、振り返ったリカがぎゅっと抱きついてきた。
「えっ。リカさん?」
「……せっかく」
「ん?」
同じ匂いのする濡れた髪が大祐の頬に触れた。
「せっかく会えたのに……」
「……そっか。うん、そうだね」
ぎゅっと抱きしめ返した大祐が顔を覗き込もうとするのを嫌がって、首筋に顔を埋めてしまうのを何度も頭を撫でて両手で顔を包み込んでようやく額を合わせることに成功する。
「やっと顔が見れた」
くしゃくしゃになったリカの顔に、くすっと笑ってそのままリカを抱え上げてベッドに運んだ。ばふん、と一緒に倒れこむ。
「……んーっ」
「リーカーさん」
「……やです」
「え?」
再び首筋にしがみ付いたリカが囁く。
「……やなの」
リカの言っていることがよくわからなくて、顔を覗き込もうとした大祐の首筋のあたりに、かぷ、とリカが噛みついた。
「ってぇ!……リカさん?!」
首を振ってようやく覗き込んだ顔は今にも泣きそうな顔をしている。
困惑よりも可愛いと思うなんて妙なことだろうが、今はただ腕の中で拗ねているのが嬉しい。
「どうしたの。何か嫌なこと、俺、した?」
「……した。大祐さんモテてた!」
「……はぁ?!」
ぎょっとして二人で転がったベッドの上でがばっと大祐が起き上がった。
「ちょ、ちょっとまって。今日いた奴らの中で俺、モテるような相手いなかったよね?」
「……いたもん。大祐さんが気づいてないだけで、女の子たちの何人かは大祐さん目当てだった!そんな時に、あんな顔するなんて……」
女の子が見たら、蕩けてしまいそうな顔を向けてきた。
それを二人だけの時に見せてくれたらいいのに、他の女の子もいる場所でするなんてとても嫌だったのだと今更思う。
起き上がった大祐を見上げる目が潤んでいて、赤くなった顔を隠すように腕を上げたリカの手を取った。
「え、あんな顔って何、俺」
「うーっ!」
私以外を見ないで。
私以外に見せないで。
大祐よりもリカの方が、周りのみんなに挨拶をしないと、と言っていたのに今はそれがすごく嫌だった。
いやいやと首を振ったリカの一面を見て
「リカさん、駄々っ子みたいだよ」
「……っや」
「ねぇ。それ、やきもち?」
くすくすと笑いながらリカを見下ろすと、ぽろっと潤んでいた目から涙が零れ落ちた。
もっと悲しい時もいつの間にか泣くことなどなくなっていたのに、今はこんなに簡単に涙が零れてしまう。自分自身が悔しくてリカは顔を反らした。
「ああもう!……こんなことで泣くなんて」
「……リカさん」
目尻にそっとキスが落ちてくる。
「泣かないで。俺が見てるのはリカさんだけだよ」
「~~っ、わかってますっ」
「本当?」
本当ならこんな風に泣いたりはしない。離れていた時間があってもこうして一緒になることを決めたのに、まだまだ、リカが不安に思うことももっともな気がした。
「リカさん。何度でも言うよ。俺はリカさんしか見えなかったし、これからももっとそうだと思う。だから、他に目が行く心配なんてしなくていいから。不安になったらすぐに教えて」
―― 何度でも伝えるから
声になるかならないかの至近距離でそう囁くと、リカは大祐の体に足を絡ませた。押さえこまれていた腕は戒めを解かれて大祐の体を引き寄せる。
大祐の匂いでいっぱいのベッドの中で、足りないものを埋めるように求めた。