きっと本当は恋愛ごとに関して、ひどく不器用なはずなのに。
どうしてリカの事になると、こんなにも色んな事を察していくんだろうと思う。
座っていた大祐の隣に座って、軽く寄り掛かっていたリカを座った直後から腕を回していた大祐がしばらくして何かを感じたらしい。
ゆるく抱きしめていたはずの腕がぼうっとしている間にぎゅっと強くなる。
「何を考えてるの?」
「あ……、ううん。ぼーっとしちゃった」
「疲れてる?」
「そんなことないよ。いつも通り」
特に何があったわけでもなく、ちょっとブルーになっているだけで、大した話ではない。大きな出来事があったわけでもなく、ちょっとつまらないことが重なって、ついてない一日だっただけのことで。
大祐の肩の上に頭を乗せたリカの頭にとん、と頭が軽く乗せられて大人しく頷いた。
「そっか」
「うん」
隣りにただ寄り添って座っていた大祐が、姿勢を変えて背後からリカを抱え込む様に移動する。肩の上に顎を乗せられるとすぐ耳元で大祐の吐息が聞こえてくる。
すん、とリカの香りを吸い込んだ大祐が、はむ、と耳たぶに噛みついた。
「きゃっ」
ちゅ、と音を立てて口に含まれながら舌が舐る。
「んんっ、やっ、なにして……っ」
くすぐったさとぞわっと背筋を流れる感覚に、身をよじるとそのまま耳の裏側から首筋に移動していく。
「ぼーっとしてていいよ」
「ぼーっとって……、んっ、そんな」
「ちょっと悪戯してるだけ」
「ちょっと、って……。んっ!」
抱きしめていた片手が首筋を押さえて、こくっと思わず喉を鳴らしたリカの反応を手のひらで感じ取る。
「リカ……。落ち込んでる?」
鼻先で首筋をくすぐる様に撫でながら、囁く大祐の声は、肌を通して耳だけでなく直に伝わってくる。
もう一度、大きく喉が動いて、そんなことない、と呟いた。
「そうかなぁ……。いつもより少し違うんだけどなぁ。リカは自分ではわからないの?」
「……っ、そんな……変わらない、よ?」
「うーん……。ねぇ、リカ?」
耳に寄せられた唇が密やかに囁く声が、頭の中を痺れさせる。
―― 自分まで騙しちゃ、ダメだよ?
「だま……、ん」
騙してなんかいないと、振り返ったところでそのまま唇を塞がれた。
話しかけたタイミングに反射的に閉じた唇を、あけて、と舌が催促してくる。
斜めに顔を傾けた大祐が、首筋にあてていた手を頬にあてて引き寄せる。体を捻ったリカを支えるようにして腕に抱いた。
唇は何度も繰り返し食むように柔らかく動くのに、口中をかき回す舌だけは強引で、息苦しさと舌だけでなく、口中を隈なく擦りたてられる感覚に思考が鈍り始める。
「……、ふ……」
「本当は、こんなに素直で可愛いのに、どうして隠しちゃうのかなぁ」
「なに……?」
はぁ、と離された瞬間、大きく息を吐いたリカに、不満そうな声が聞こえる。
唇の端から、顎の先に舌先で移動した大祐は、困った顔で間近からリカの顔を覗き込んだ。
「困った人だね」
「……なんで?なんでわかっちゃうの?」
「それは……、リカに関してはアンテナ張ってるし?」
どこか自慢げに笑う顔が何だか憎らしくて、手を伸ばしてその頬をきゅっと摘まんでみる。
「いふぁいよ」
「なんか悔しい」
「なんれ?」
―― だって、私よりも私のことを知ってるなんて悔しいじゃない
頬を摘ままれたまま、眉を上げた大祐が頬を摘まんでいた手を掴んでぱくっと口に入れた。
「ひゃっ」
「甘い」
「えっ」
ひょいっと抱き上げた大祐がリカを運ぶ。ベッドの上にどさっとリカを放り出すと、部屋の電気を消してテレビの音だけになる。
「もういいよ。こういう日はさっさと寝ちゃえばいいんだよ」
「ちょ、まだ早い」
「早くないよ。大丈夫」
起き上がろうとしたリカをベッドの中に引き戻す。
ばたばたと暴れて逃げようとしたリカをそのまま腕の中に閉じ込めて目を閉じる。大人しく眠ってくれればそれでいいし、そうじゃないならそれでもいい。
すっかり遊んでいるなぁと思いながら、目を閉じているとぱたぱたと抱きしめているびくともしない腕を叩かれた。
「やーだー。寝たふりしないでっ」
「……寝たふりしないでいいの?」
「だって、大祐さん、寝てないしっ」
腕を緩めると、リカの頬にちゅっと口づけた。
「ちょっと落ち込んでたでしょ」
「……そんなことない」
どこまでも素直じゃなくて、落ち込み気味なのも、こうして構っていると少しずつ気がまぎれていくらしいのも、ちゃんとわかっている。
―― 離れてても大事な奥さんを守るために、いつも全力で感じようと思うんだ
ん?と誘うとリカの方からキスしてくる。
「そんなことないよ。大祐さんが一緒にいるからね」
「ん~。そういうところは俺の前だけにして」
「ちょっと我儘じゃない?」
「我儘、駄目?」
間近で見つめて、嫌だと言えなくなればいい。
―― 本当に、狡くて悔しい……
悔し紛れにリカがぎゅっと大祐の首に腕を回して引き寄せると、大祐が抱きしめ返す。
顎の先に口づけて、喉元まで口づけてこくりと動くところを舌でなぞる。そこから耳までキスで移動してもさっきのように唇にキスはしない。
リカの方がキスしようとしても、大祐の頬や目元を掠めるだけで逃げていく。
「んんっ、ひどい」
「なにが?」
「逃げてる」
「何から?」
なにから、じゃないでしょ、と両手で大祐の顔を包むとリカからそうっとキスをした。
「……リカ、大好き」
「意地悪」
「全部リカ専用だもん」
―― 大丈夫だよ
何度も繰り返しキスしながら耳元で何度も繰り返す。
その腕に委ねて、リカは目を閉じた。
――end
ぷらいべったーに載せていたものを発掘してきました。
多少の加筆修正あり。