このお話はFLEX148の赤いウサギと煩悩の続きです。
翌々週の週末、休みを取ったリカが金曜の夜に仙台駅に到着する。
中央口を抜けて二階の仙石線乗り場に向かおうと思っていたリカは改札の目の前に立っていた大祐を見つけた。
「大祐さん。どうしたの?ひとりで行ったのに」
「うん。久しぶりだし、リカさんも疲れてるところに来てくれるんだから、さ」
「気にしなくてもよかったのに」
リカの手からキャリーバックを受け取ると、手を繋いで歩き出す。二階に下りてそのまま土産物屋がある二階から駐車場のある一階へと向かう。
「車、大変だったでしょう?」
「そんなことないよ」
車の後部座席にキャリーをのせて、車に乗り込むと、ゆっくりと走り出す。
「あのさ。リカさん、今日、この辺に泊まっていい?……ていうか、もう予約しちゃってるけど」
「え?なんで?泊まるのはいいけど、お互い行き来にお金かかるしもったいなくない?」
「そう……なんだけど、ほら、俺の部屋は狭いし、いろいろ……」
もごもごと歯切れ悪く呟いた大祐は、何度も唇を舐めてひどく言いづらそうにしている。
不思議そうな顔をしたリカはしばらく考えた後、じろっと運転席の大祐を睨みつけた。
「大祐さん」
「う、なに?」
「正直に言って」
「何が?」
リカの口調が変わったのと、鋭い目を向けられているのが頬に突き刺さる感覚でわかる。
「正直に言って。またなにかくだらないことしたでしょ!?」
「えっ!!」
ちらっとリカを見ていた大祐は、上ずった声を上げた。
その反応にやっぱり、とリカは問い詰める。
「なんか、職場で言ったんでしょ?!私が行くと困るような話しになってるんじゃないの?!もう!、私、恥ずかしくていけなくなるようなこと言わないでっていってるじゃない!」
「ちがっ!それは、俺が言ったんじゃなくて!」
「じゃあなんなの?!」
うっと、言葉に詰まった大祐はしばらく黙りながらも、仙台駅近くのホテルに車を走らせる。駐車場にはいって、車を止めてからハンドルに両手を置いて顔を隠した。
「……ごめん」
「何?!そんな謝られなきゃいけないようなこと言ったの?!」
「や……、なんていうか男ばっかりだからろくでもない話ばっかりするんで、違うって言ってもそれはそれでまずいし、勝手なこと言わせておくのもあれだし……」
あくまで何を言ったかまでは口を割らない大祐に、むぅ、と頬を膨らませたリカは、それ以上はどうしようもないことも理解する。お互い守秘義務を抱える身だけに一度口を割らないと決めたら絶対に話さないことはわかっているからだ。
むっとしたままリカは黙って車から下りた。
後部座席からキャリーをおろしていると慌てて大祐が車を降りる。
「あ、俺が……」
「いい」
すっかりへそを曲げたリカがロビーを目指してさっさと歩き出してしまう。それを追った大祐がリカに追いついてロビーへと向かう。
大祐が詫びもかねて予約したホテルだから、ビジネスホテルではない。
「あの、急に予約したから前に泊まったホテルじゃないんだけど」
むっとしたままのリカはもう口をひらいてもくれない。仕方なく、尻尾をたれた状態でチェックインを済ませた大祐はリカを連れて部屋に向かう。
部屋は上階で、スタンダードではない部屋だというのもすぐわかった。
「リカさん。ゴメンね?」
「……ご飯」
「えっ?」
「中華。おいしいご飯じゃないと絶対許さないから」
むぅっとしたままでもそんなことを言い出したリカの後姿に大祐は声を出さずに笑った。
おいしいご飯なら許してあげる。
そんなリカが可愛くて、笑った顔を見られないように後ろから近づいた大祐はぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、大祐さん!」
「本当にごめんね。リカ」
「もー……。鏡に映ってるからね!笑ったの!」
リカが立っている斜め後ろはクローゼットで、そのドアは姿見代わりの大きな鏡になっていた。そこに顔を向けると、唇を噛んだリカにじろりと睨まれる。
「……ごめん」
ついつい緩んでくる顔をリカの肩にうずめて、ゴメンと繰り返した後、リカの手にぽんぽんと叩かれた。