FLEX155~ Red rabbit 2

ホテルのレストランで夕食を終えて、多少機嫌をよくしたリカと一緒にバーで少し酒を飲んだ。それでもなんとなく飲み足りないというリカを先に部屋にもどしておいて、近くのコンビニで缶ビールをかって部屋に戻る。

「あれ?リカ?」

鍵を開けて部屋に入ると、そこにリカの姿がない。そこに、くぐもった声が聞こえてきた。

「大祐さん、ごめん。先にお風呂に入ってたの」
「ああ。お酒飲んでるんだから気を付けて」
「そんなに酔ってないもの」

バスルームのドア越しにそんな声をかけてから、買ってきたビールを一缶だけ残して小さな冷蔵庫にしまう。

テレビをつけて、何となく流しっぱなしにしているとからからと引き戸をあけて、リカが出てきた。

「ねね。大祐さん。ここのバスローブ気持ちいいの。ふかふかのタオルだよ」
「そうなの?」
「うん。パジャマもあったからそっちを着ようかとおもったんだけど、これ気持ちいいからこっちにしちゃった」

髪をタオルドライするようなふわふわの素材らしく、すっかり機嫌をよくしたリカはそのまま冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

「ありがと。大祐さんだけに買い物に行かせてごめんね」
「いや。コンビニ、隣だったし、リカも早くさっぱりできてよかったでしょ?」

頷いたリカが大祐の座っていたテーブルセットの傍に来て、カーテンを開ける。階が上だけに夜景がよく見えた。

「きれい。大祐さん、ここ、高かったんじゃない?」
「いや。新しいホテルのほうがやっぱし値段は高いし、ここは立派だけど結構古いみたいで、安い連泊プランがあったんだ」

今回は二泊そのままこのホテルを取っていると聞いて、食事のときは呆れたものの、たまには旅行気分もいいか、と今は機嫌がいい。鼻歌交じりのリカは、そのまま窓枠に手をついて外を眺めていた。

「寒くないの?」

その背後に立った大祐が同じカーテンの隙間から窓の外を見る。
夜間訓練の頃とは比べ物にならないし、もちろん、比較すれば東京にいた時のほうが夜景はきれいだったが、今もそこそこきれいだなと思う。

湯上りで、それもふわふわのバスローブを着ているからそれほどでもないが窓や窓枠から冷えた空気が伝わってくることは確かだ。

「そんなには。結構遠くまで見えるのね」
「うん。ここは昔、仙台で一番高いビルだったんだって」
「今は違うの?」
「んー、たぶんね。もっと高いビルあるはず」

市内まではなかなか足を延ばさない大祐は、興味がない話題は右から左に覚えていないが、何となくそんな話を聞いた覚えがあった。

「ふうん。でも十分きれい」
「そうだね」

リカの肩に頭をのせるようにしていた大祐がすっと離れると、リカもつられるように窓を離れた。ソファに腰を下ろすと、大祐は、ポケットに入れていた財布や車のキーをテーブルの上に置く。

俺も、といって、バスルームに大祐が消えると、リカはキャリーバックから着替えを出してクローゼットにつるした。
この週末、この部屋にいるならと荷物を広げたリカは、携帯の充電をベッドサイドのコンセントにつないでおいて傍のベッドの上に座って、ビールを片手に来る途中に読んでいた雑誌を手にする。

エンタメ系の情報誌である。ドラマや舞台、それからファッションを取り上げていて、ビジュアルが気に入っているのでよく買っている。
その手の雑誌にはおおいが、雑誌として少し重いのが難点だ。

途中までしか読めなかったので、途中からページをめくる。バスローブの丈が膝よりも上にくるから、横向きに座っていても少し引っ張るようにしないと裾が乱れてしまう。

風呂が早い大祐が同じようにバスローブを身にまとって戻ってきた。

「ほんとにこれ、気持ちいいね」
「でしょ?」
「うん。何読んでるの」

飲みかけだったビールを手にした大祐がリカの隣に腰を下ろした。部屋の明かりは弱めてリカが見やすいようにベッドサイドの明かりを強くする。

ちらりと表紙を覗き込んで、いつものかと納得した。

「それ、好きだよね」
「まあね。なんか、こうデザインとかも好きなの」
「それはわかるけど、重くないの?」
「ちょっと邪魔だなと思う時もあるけど、そういう時はキャリーに入れちゃうしね」

隣からリカの手元を覗き込んで一緒に眺めながら缶ビールを開ける。

―― 参ったな……

ふと、リカにはばれないようにと小さく溜息をついた。バスルームだけではない。
リカに会うまで、毎晩風呂に入るたびになんとか落ちないかとこすっていたが、ようやく薄くなったと喜んだおととい、再び休憩中にリカのメールを見てにやついていた大祐は、再び手荒い襲撃にあっていた。

そろそろ薄くなってきたころだろうという見当をつけられ、大祐の様子から今週はリカと会うところまであたりをつけられたために薄くなりかけた赤いウサギはしっかりと油性ペンで上書きされてしまった。

さすがにそれには大祐もまじめに怒り出し、隊員たちが悪い、と頭をさげたものの、書かれてしまったものは仕方がない。

バスルームでも強めにボディソープをつけてこすってみたものの、赤いウサギはしっかりと健在だった。

投稿者 kogetsu

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