そういえばせっかく気に入っていたふかふかのバスローブがもうぐっしょりと重くなって身につけられないんだと思うと少しむっとしてしまう。
手早く体の水滴を拭うと、さっさと服をみにつけた。
遅れてバスタオルに手を伸ばした大祐は、リカが服を着ていることに慌てる。
「リカさん?何するの」
「大祐さんはここにいて」
「え?え?」
手荒く濡れた髪を拭って、手櫛でさっと髪型を整える。
バッグから財布と携帯を掴んですたすたとドアに向かう。
「ちょっ、ちょっ、リカさん?!」
「いいから!ちょっと頭冷やしてくるからそのままここにいて!」
びしっと白い指を立てて、カードキーを財布に押し込んだリカが部屋から出て行ってしまった。
「えぇ~……」
ひどく情けない声を上げた大祐は、バスタオルを巻いただけのひどく情けない格好で部屋に取り残される。その後を追いかけようにもここにいてと、あの勢いでいわれてはどうしようもない。
財布と携帯を持って行ったってことは、おそらくコンビニにでも行ったのだろう。
夜に、なれない街で一人あんな格好のまま出かけるのは、無防備すぎるといいたいところだ。
はっと我に返ればこんな姿でいるのもどうかと思う。
タオルを放り出して、下着とバスローブを身につける。ベッドサイドのビールを片付けて、乱れたベッドを整えた。
部屋の中の空気が少しずつ入れ替わって、落ち着きないままふらふらと部屋の中を歩き回る。
しばらくしてカードキーの音がすると、ドアが開いた。
「……おかえり」
「ただいま」
案の定、コンビニの袋を提げたリカが戻ってきた。濡れていた髪が少しだけ乾いたらしくふわふわと広がる。
すたすたと部屋に入ったリカは使ってないほうのベッドに座った。
「大祐さん。こっちきて?」
「え?うん」
とん、と大祐の肩を突いてベッドの上に大祐を座らせてにこっと笑った。
「それ、油性ペンなんでしょ?」
「あ、ああ」
するっとごく自然にローブをめくりあげて、大祐の下着をずらす。腰骨の辺りに書かれた悪戯書きを露出させた。ビニールの中から小さな包みを開く。
「何、それ」
「除光液。ちょっと肌荒れちゃうかもしれないけど、我慢してね」
びり、と封を開けて赤いウサギを拭うと、不細工なウサギが歪んだ。何度も、少し強く拭うと驚くほど綺麗になる。
「はい。消えたよ」
「う、はい」
「油性ペンなんだから消えるの当たり前でしょ?」
ものすごく簡単なことなのに、すっかり頭からは飛んでいた。
リカに見られたくない。
見せたくない。
「……そっか」
「そうだよ」
「は、はは……。そうだった」
気が抜けたように笑い出した大祐に、リカもふふっと笑う。
「ほんと、馬鹿だな。俺」
「そうね。で、そのままうつぶせになってくれる?」
「?……うん」
後ろに手をついていた姿勢からくるりと身を返してベッドに横向きにうつぶせになった大祐の背中を捲り上げた。
「え?えぇっ?!」
「ちょっと我慢してね?」
もう一度ビニールに手を入れたリカはなにやら取り出して、大祐の腰の辺りに手が触れる。
「わぁっ?!ひゃっ!!」
「動かないで!もう!」
「だ、だって、何?!……ははっ、やめっ、くすぐったいって!」
少しだけで大祐が身をよじるからなかなか進まない。仕方なくて、リカは大祐のフトモモのあたりに跨った。
「動かないで!もう絶対動かないでね!」
「は、だって、何やってるの」
「えー?うーん、何って言われたら、お仲間さん対策?」
「はぁ?!わぁっ!!」
裏返った声を上げて身をよじる大祐をリカの体重で押さえ込むなんてできるわけはない。だが、リカが乗っていると思えば体を捻って落とすわけにも行かない。
リカがいいというまでじたばたと堪えていたが、ようやく開放されると隣に満足そうなリカが座っていた。