「……あー、くすぐったかった。もう、何したの」
「だからね。悪戯対策?」
「だから、って何……。あ!!まさか」
ばっとベッドから降りた大祐はバスルームの前の大きな鏡の前に立つ。背中をひねって、なんとか鏡を振り返るとあんぐりと口をあけた。
「りーかーっ!!」
「何?」
「なんてことすんの!さっきの除光液貸して!」
「やだ」
くすくすと笑うリカは、使い終わった除光液のシートを捨てて、残りをバッグにしまう。
ずいっと手を差し出した大祐の手に自分の手のひらを乗せた。
「次に誰かが同じ悪戯しようとしたら、それ見せてね。それでもまた同じような悪戯してきたら今度は私が許さないから」
「許さないって何言ってるの!もう、くれないなら自分で……」
「次、会うときまで勝手にそれ落としたら今度はこんなじゃ済まさない。しばらく大祐さんと口きかない」
「口かないって、そんな、無茶言わないでよ!こんなの恥ずかしくて消さないわけないでしょ!」
がう、と噛み付く大祐の前でリカはさっさとホテルのパジャマに着替える。
まだ使ってないほうのベッドにもぐりこんだリカがひらりと手を振った。
「お休み~」
「お、お休みってこのまま?!リカさん?!」
「もう眠いもの」
あっさりとそういって枕に気持ちよさそうに頬を寄せたリカは笑顔のまま目を閉じる。
残された大祐はバスローブ姿の情けない格好でがっくりとうなだれた後、のそのそと部屋の明かりを消してゆっくりとリカが眠るベッドに近づいてくる。
背を向けたリカの眠る傍に腰を下ろした大祐は眠るリカの髪をそっと撫でた。
その手が心地よくて、眠りかけていたリカは深く眠りに落ちていく。
『……ごめんね。せっかく会える時間なのにこんなことになって』
―― ああ、また大祐さんが謝ってる……
『でもリカのことになると、どうしようもないんだ』
―― またそんなこと言って……。大祐さんそういうことばっかり
『馬鹿だって言われても何もいえないよ。本当だから。……だって、こんなに』
―― こんなに?こんなに……なに?聞かなくちゃ
聞いておきたいと思って、目を開けようとしたのに、もう随分眠りの中に入りかけていたからまぶたが持ち上がらない。
撫でていた手のまま、いつの間にか腕の中に抱きこまれる。暖かい体温に何も考えられなくなった。
「……だよ。リカ」
小さな明かりだけを残して薄暗くなった部屋の中で二人の寝息が聞こえるようになる。外の音を気にしないほど静かな部屋の中で。
翌朝、目を覚ましてシャワーを浴びた大祐が着替えている姿をみてリカが盛大に笑い出した。
「あはははは」
「リカさん!!自分で書いておいて笑うのはないでしょ?!」
「だ、だって、それ……」
「しかも自分で消すなって言っておいて爆笑するのはひどくない?!」
化粧の途中で涙目で笑い転げるリカに顔を真っ赤にした大祐がふるふると拳を握る。
「あー……、やばい。なんか隊員の皆さんたちの気分がわかっちゃった」
「……ひどい」
服を着替えた大祐が恨みがましい目をリカに向ける。
目元を拭ったリカは、化粧の続きを済ませて服を着替えた。
「でかけよっか」
「リカ。出かけてる時は忘れてね。……って言ってる端から目が笑ってるから!」
「気のせい、気のせい」
するっと大祐の腕に手を絡めたリカと一緒に部屋を出る。
一瞬、恨めしく天井を仰いだ大祐は、どこかでそれもいいかなと思った。
【悪戯禁止!(p`・_・´q)プンプン】
―― でも、顔文字までかくことなくない?
―― かわいいでしょ?ウサギじゃ悔しいもん
―― 悔しいって何に!
―― ……だって……
END