「あれ?」
ぱらぱらと本をめくっていたリカの後ろを通りかかった新人ADの松岡が立ち止まった。
「稲葉さん、そういう本見るんですか?珠輝先輩からはそういうのお好きじゃないって聞いてたのに」
「うーん……。昔はね。こういうの何がいいんだろうって思ってたんだけど、最近はこういうのもわかるかなーと思うわよ?」
くるりと椅子を回して開いていた本を顔に寄せたリカが笑った。
「でも、制服男子って稲葉さんに、なんか……似合わないかも」
「うっさい。仕事しろ」
気安さから口の悪さを見せたリカだが、新人ADは肩をすくめただけで少しも気にしている様子はない。
「えー。その心境の変化はなんなんですか?やっぱり旦那さんの影響ですか?」
「それもないわけじゃないけど……。制服っていうけど、こういうのもあれば、たとえば男性だとスーツも制服みたいなものじゃない?」
「そうですねぇ」
くるーっと椅子を回したリカがフロアの中を見回したが、そこには制服もスーツ姿もない。
顔を見合わせた二人は、ふふっと苦笑いを浮かべた。
松岡が離れて行ってから、手にしていた本をめくったリカは首を傾げた。
確かに、バラエティのようなコーナーにろくでもないと思っていた自分が懐かしい。
制服も仕事柄、見慣れてもいたのに気がつけば目が追ってしまう。
それもこれも、彼らの影響だと思う。
ふと初めに出会った頃から見てきた姿を思い出した。
「……びしっとしてるなぁと思ったんだった」
スーツのように、ジャケットを着てきっちりとアイロンのかかったシャツときっちり締められたネクタイが。
ネクタイなしの夏は、今時のビジネスマンとしてはあまり見かけない半そでのシャツだった。
―― 働く制服シリーズだったんだよねぇ。最初は……
今では、単身赴任中の大祐も、あの頃より、胸の辺りにつける『グリコのおまけ』が増えているようだが、一つ一つの説明まではしない。
そういえば、制服シリーズは、あれ以来打ち切りになっている。
もう一度あの手のシリーズがあっても面白いかな、と思いながらリカはバッグを手にして立ち上がった。
今日は、その制服さんのところに、特番取材の件で用があるのだった。
駅について、なれた道を進む。入り口で受付を済ませて正面の建物に足を踏み入れるとエレベータホールで意外な人に腕を掴まれた。