「あの、そういえば皆さんは制服ってどうされてるんですか?いつもこう、ピシッとしてらっしゃいますよね」
一通り仕事の話が落ち着いたあと、比嘉と向かい合っていたリカは思い出したように問いかける。
大祐は今は、内局との打ち合わせだといって広報室にはいない。
「おや。意外な質問ですね。稲葉さんはどうされているんですか?」
「あ。……その、私は手出し禁止なので」
「ほう?」
眉を上げた比嘉に、言い訳をぼそぼそと呟く。
「女性の服って、その、家で洗えるものとそうでないものに分かれるじゃないですか。なので、私はいつもクリーニングなので……」
ああ、と意味ありげに笑った比嘉がちょい、とシャツを摘む。
「僕らは基本的に、鷺坂さんの弁じゃないですけど仕込まれてますからね。僕は洗濯までは奥さんにお願いして、アイロンだけ自分でやります。他はね、何枚か持ってますから定期的にクリーニングですねぇ」
「なるほど。面倒と思ったことはないんですか?」
「面倒、ですか」
ふむ、と首を傾げた比嘉の間は相変わらずだ。じっと待っていると、うん、と頷いた。
「制服におけるモチベーションの意義とか、あり方とか硬い話じゃなければ。僕にとって、制服を身につけることで背筋が伸びます」
「なるほど」
「稲葉さんにはそういったものはありませんか」
今度は逆にリカのほうが首を捻った。
制服なんて学生の頃以来、身につけていないが、そういわれると確かに身の引きしまる服はある。
「んー、まあ、私にとっては報道にいた頃の襟付きのシャツとかでしょうか。確かに、こう、気合が入りますね」
でしょう、と頷いた比嘉はちらりと壁にかかった時計をみて、腰を上げた。
「あとは、違う制服を着ていた人にも聞いてみたらいかがですか?」
「え?」
にこりと笑った比嘉が腰を上げた理由がすぐにわかった。
今の担当広報官と一緒に打ち合わせを終えて戻ってきたらしい大祐が、何かを話しながら戻ってくる。
「ですから事前に根回しをお願いしていたじゃないですか」
「それはそうなんですが、自分もできるかぎりは……」
どうやら話がうまくまとまらなかったのか、しきりに大祐が新人広報官に畳み掛けている。隣の席に移動しかけた比嘉が、少し待っててください、といって立ち上がった。
大祐と広報官の間に割ってはいった比嘉が一言二言会話をすると、今度は大祐が比嘉に書類を渡して強く何かを言っているが、すぐそれもあっさりといなされたのか、肩を叩かれてリカの前へとつれられてきた。