「えっ?!」
「えっ!なっ……なんですか」
「てことは稲葉さんのご自宅に向かってるんですか?というか、稲葉さんが提供するんですか?」
目を見張った大祐に思わずたじろいでしまう。
だが、今すぐリカが家に向かって、運んでいくのが何より早い。
「だからそういってるんですけど……」
「え?え?でも、そういうのってそこそこでかくないですか?」
信号が変わっても動かなかった車に背後からクラクションが鳴った。
慌ててアクセルを踏んだ大祐はゆらりと一瞬、慌てた瞬間がステアリングに出る。揺らいだタイヤにリカはバッグを抱えなおした。
「大きいって言っても部屋に置いてある鉢植えですし」
「どうやって運ぶんですか?」
「タクシーを呼びますよ。今日は外のスタジオなので」
当たり前だといわんばかりのリカに、大祐は眉をひそめた。
それから何も言わずに、車は流れに乗っていき、途中で一言二言、リカに場所を聞く。
マンションの近くだという場所につくと車を止めた。
「ありがとうございました。助かりました、空井さん」
「あ!あの、稲葉さん」
「はい?」
助手席のドアを開いたリカは、開き切る前に手を止める。
そのリカをステアリングに体を寄せた大祐はのぞき込んだ。
「ここにいますから、もしお部屋から運ぶのが大変だったら呼んでください。稲葉さんが行きたい場所までお連れしますよ」
「空井さん!そんなことお願いできません!」
唐突な申し出にリカは驚いた。いくら仕事で外に出ることもあるとはいえ、比較的時間の自由になりやすいリカたちとはちがうはずだ。
ここまでリカを送ってくれたことさえ、私用に近いはずなのにそんな真似がいいはずがない。
だが、大祐は構う様子もなく、広報官の制服のままなのに首を振った。
「いいんです。今日はクリスマスイブじゃないですか。サンタの手伝いだと思ってください」
「いえ!意味が分からないじゃないですか」
「僕が手伝いたいんです。それに、これからタクシーを呼ぶんですよね?それくらいなら僕がこのままお連れしますよ。急いでるんですよね?」
駄目押しの一言を言われるとさすがにリカも言葉に詰まる。時間的には押していて、今すぐにでも、と叫んでいた藤枝のことが気になっているのも確かだ。
「さ、急いでるんですよね?何なら、僕、取りに行きましょうか」
鉢植えは当然ながら大きさに比例した重さがある。葛藤と選択肢の中でリカは軽く頭を振った。