FLEX172~サンタの遊び5

「はい。オッケーです。じゃあ行きましょうか」
「はい!」

再び車に乗り込んで、今度はリカの案内で都内を走る。
品川に近い場所に向かい、オフィス街というよりも、倉庫か、大きなマンションしかないようなあたりを車で進む。カーナビにも目的地を登録したから、リカの曖昧な道案内だけではない。

「こんなところにあるんですか?」
「ええ。今日はキッチンスタジオなんです」

殺風景でほとんど車通りもない場所でリカの指示通りに車を止める。
マンションらしい建物の入り口で男性が落ち着かなげにきょろきょろと周りを見回して立っていた。

「稲葉!」
「藤枝」

車を降りたリカに気づいた男は、すぐに近づいてきた。
続いて車から降りた大祐に驚いた藤枝は、大祐とリカの顔を見比べる。

「え?稲葉……」
「あ、ちょうど空幕にお邪魔してて、車だからって送ってくださったの」

大祐の制服にたじろいだものの、はっと我に返った藤枝はクワズイモを探して車の中を覗き込む。

「どうも。ちょっと今急いでて。すみません。鉢、いいですか?」
「ええ。どうぞ」

後部シートから鉢を引っ張り出した大祐が藤枝に差し出す。さすがにリカのように持ち上げられないことはないが、その重さにうっと、顔を顰めた。

「重っ……。や、う……」
「それ、終わったら宅配で送って!ちゃんと梱包してよ!」
「わかっ……た」

マンションの中に入って行く藤枝を見送って、ふう、と息を吐く。

「稲葉さん?」
「あ……。すみません。なんだかほっとしちゃって」
「ああ……。間に合ってよかったですね」
「はい」

ふっと意味もなくお互いに笑みを浮かべてから助手席のドアを開いた。

「どうぞ。テレビ局でもどこへでも。お送りしますよ」
「いいんですか?」

今度は抵抗なく笑ったリカは素直に助手席に乗り込んだ。

「だって、もうここまで来たら一緒かなって」
「はは。確かに。それで?どこまで向かいましょうか?」
「はい、じゃあ局に向かっていただけますか?」

承知しました、といって大祐はエンジンをかけた。
港南エリアは市ヶ谷へも帝都テレビへも中途半端な場所だ。

「この後の時間に何か予定は?」
「この配達があったのでとくには。局に戻って残りの仕事を片づけないと」
「あー、わかります。外に出た日って、なんか自分の席に戻らないと落ち着かないっていうか、でもそのまま帰りたいような」

あるある、と頷きながら、リカが知る道とは違う方向に大祐がステアリングをきった。

投稿者 kogetsu

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