喉元に感じていたリカの唇に、こく、と大祐の喉が動いた。
くい、と顔を動かしてリカの額にキスが落ちてくる。目を伏せたまま少し上向きになると瞼にも頬にもキスが続いた。
ふと、悪戯心が沸いて、されるままになっていたキスを大祐の鼻先に返してみる。
「……っ」
「へへっ」
「……もう」
驚いた顔で弾かれたように顔を上げた大祐に悪戯が成功したリカが、満足そうに笑う。初めの頃は、いつもどうしていいのかわからなくてどぎまぎするばかりだった。もともと、それほど経験が多い方でもない。
受け身ばかりでは駄目なのだろうが、翻弄されるばかりでどうしていいのかわからないなかったが、今は少し違う。
―― たくさん、キスしたいな
大祐に与えられるキスを一つうけて、次を交わして自分からキスする。頬や、少し伸びてきた口角の上の髭のあたりに。
「ふふ。大祐さん、髭伸ばさないの?」
「伸ばしちゃ駄目ってわけじゃないけど、あんまり似合わないんじゃないかな。伸びるまで結構情けないだろうし」
「そっか。そうね」
唇が触れるか触れないかのところで交わされる会話。その合間に、キスを繰り返す。
顎の先に口づけようとしたら、くいっと顎を掴まれて喉元に口づけられた。仕返しと言わんばかりに、舌が喉仏のあたりを舐めながら鎖骨のくぼみに下りていく。
「……っ」
思わずあげそうになった声は、まだ恥ずかしくてついつい堪えてしまう。噛みしめた代わりに吐息が漏れる。
「……あのね。たくさん、キスしたいのは俺もなんだけど」
「あ、え……、私、口に出して言ってな」
いのに。
その先を深い、噛みつくようなキスで塞がれた。息が苦しいくらいで、切れ切れに呼吸と喉が鳴るのを大祐の手が喉元を押さえていて、みな、知られてしまう。
苦しくなればなるほど、煽られる気がする。
「……んっ、はっ……。手加減……、し」
「しないよ」
少し、加減をして、と言いかけたリカに、きっぱりと言い返すと再び、深く口中を掻き回すようにキスを繰り返す。それがだんだん、一番感じる場所にされているような愛撫に思えてきて、勝手にリカの体の方が反応してしまう。
びくびくっとリカの体が反応するのを感じた大祐がようやく唇を離した。薄らと目を開けると、まっすぐに見つめてくる大祐の目に捕らえられる。
「手加減したら、リカを感じさせてあげられないでしょ?」
「あ……」
その目を見た瞬間、リカの中の女の部分が少女のように恥じらい、大人の女として喜びに震えた。
自分から腕を伸ばして、大祐を引き寄せるとキスをする。
それに応えた大祐がリカの体を抱きしめながら、身にまとうものを奪い去っていく。
「ん……っ、眠いって言ったのに」
「うん。俺も眠いよ」
「嘘つき……っ」
上半身の素肌を柔らかな毛布の間で隙間なくくるみこまれると、その先を望んでしまう自分自身に恥ずかしくなる。それと同時に、リカを寒くないようにしておいて、シャツを脱ぎ去った大祐のなめし皮のような素肌に触れたいと思う。
温かく包み込まれた毛布の中から腕を伸ばしたリカは、上半身を半分だけ起こした大祐に近づいた。
「うわっ!」
するっと伸ばした腕を大祐の鍛えられた体に巻きつけると、みぞおちのあたりをぺろっと舐めた。
オーバーなほど跳ね上がった大祐がベッドから落ちそうになって、リカにかけていた毛布も蹴り飛ばしてしまう。
「きゃっ」
露わになった素肌が急に恥ずかしくなって、腕を引いたリカが体を隠そうとするその肩に大祐の手が触れた。強く肩を掴まれたと思ったら、仰向けにベッドに押し付けられていた。
「リカが足りないから眠れないよ」
自分の肩に毛布を引き上げて、大祐の体と毛布でリカを包み込んだ。少し掠れた声が少年のようで
甘えて、甘やかされて、こんなに優しくて凶暴な時間が愛おしさを共有させてくれるとわかっているから素直になれる。大祐の体をぎゅっと抱きしめて引き寄せた。
この重みが愛おしい。
「私も足りない」
―― たくさんあげるよ
耳元で聞こえた囁きに、ふうっとリカの体から力が抜けた。