「はぁ……。すごい」
「ごめん。嫌だったら」
「違うの!違う、あの、大祐さんと一緒に行ってみたいと思ってるのは本当なの!」
若干、疲れた顔になっているリカを無理に誘ってしまったかと不安な顔になった大祐に、慌ててリカが手を大きく振った。
下手だからと言う気持ちは大きいが、それが何であれ大祐と一緒に行くのならやってみたいとは思う。
「あの、勢いに押されたっていうか……」
「あ、ああ。昼間のこともあるから、ごめん。うるさいやつらで」
いざ食べようかと言うところに訪ねてきたのは官舎や近くに住む隊員達だった。特に、彼女持ちや既婚者が彼女や奥さんの板やウェア、そのほかの小物をかき集めて訪ねてきたのだ。
「お前ら、早いよ……」
若干、呆気にとられているというよりリカと一緒に食事をするところだったのに、と顔に浮かんだ大祐を押しのけて、どかどかと彼らが部屋に上がりこんだ。
「いた!リカぴょんだ!」
「こんばんは!あ、夕食時っすか。すいません!」
慌てて立ち上がったリカを皆、にこにこと嬉しそうに眺めている。
ちょっとすいません、と言って、ローテーブルを少し脇に寄せた隊員たちが、その場にそれぞれ持ってきたものを広げ始めた。
「すぐ終わりますから。えっと、リカぴょんはスキー初心者なんですよね?」
「あ……、はい」
「じゃあ、あと身長何センチくらいあります?結構、高いですよね」
168あるというリカに、おおっと小さくどよめいた隊員たちがじゃあ、これとこれか?と互いに話している。さすがに今だけは彼らが入ってきたことに文句を言うわけにもいかない大祐は、壁に寄り掛かって呆れた顔で立っていた。
「じゃあ、ウエアはこれかこれだと思うんで、あとで着てみて、楽な方着ちゃってください。で、手袋はこれ。つけてみてください」
「は、はいっ」
素直に受け取ったリカは、いわゆるごわついた手袋よりももっとスマートなタイプを受け取ると、手にはめてみる。
「どうかな、よさそ」
「こらっ!リカに触るな」
すいっとリカの背後に回ってきた大祐が、手袋の具合を見ようと手を出しかけた隊員の手をぱしっと叩いた。
目を丸くするリカに、いいから、と手を掴んで後ろに下がらせようとする。
「お前、ほんとちっさい男だなー。いいだろ、手ぐらい」
「駄目に決まってるんだろ。何わざとらしく手袋渡して触ろうとしてるんだよ!」
「ばれたか―」
「ばれるに決まってるだろ!」
ちくしょーと笑う隊員と、周りにいた男達がどっと笑い出した。手袋はそれでいいということになって、ニット帽は、ネックウォーマーは?と次々小物が差し出されて、その中から大祐がこれとこれ、と勝手に選んでリカに渡す。
「空井、お前ほんと嫌な奴だな!」
「いいだろ!お前らにいわれたくねーよ!」
黙ってやり取りを見ていたリカは、まるで男の子同士のじゃれ合いを見ているような気がして、そういえばナッシュとも同じだったなぁと思う。
一揃い、ウェア関係は揃ったところで、板の話になると皆こだわりがでてなかなかまとまらない。特に、長身のリカに合う板は、かなり上級者向きだということになって、ブーツもどうしようかと言うことになった。
「うーん。リカぴょん、背が高いし、いっそ板とブーツだけレンタルしたらどうよ」
「そうだな。空井、お前どうすんの?」
「あ、自分も全部レンタルしようかと」
そう言いかけたところに、だろうな、と頷き合った隊員たちが妙に大きな袋だなと思っていた中からウェアや一式を取り出した。
「お前ならそう言うと思ってたよ。ほら。合うやつ適当に選べよ」
「うわっ。ありがたいけど、何だよ。俺には随分、雑じゃねぇか」
「野郎に優しくなんかしねぇよ」
ぎゃあぎゃあと言いあいながらも、サイズの合うものをそれぞれ選んだ。持ってきた方も、なんだかんだと口は悪いが皆、これの方がいい、あれのほうがいいとすすめていて、見ているリカには、なんだかおかしくなってきてしまった。
「ったく、我儘なやつだな。じゃあ、戻ったら後で適当に返してくれればいいから」
「あ。俺、どれが誰のって知らねぇぞ」
「いいよ。適当に取りに来るから」
来た時の勢いのまま、彼らはざっと残りのウェアや小物、それに結局レンタルすることになった板やストックを持ってあっさりと出て行った。
「じゃ!りかぴょん、夕食時に邪魔して悪かったね」
「今度は一緒に飯でも!」
嵐のように帰っていった彼らを見送ってから、すっかり冷めてしまったパスタを温めなおした。
「タバスコかけてなくてよかった。温めてたらすっぱそう」
「確かに。大祐さん、粉チーズもかけるんですか?」
「おいしいですよ?」
「おいしいでしょうけど……、味濃くないですか?」
リカは呆れた顔をしていたが、よく見ると半分しか粉チーズがかかっていない。どうだ、と言う顔の大祐が先ほどからすっかり男の子に戻ったように見えて笑い出した。
「大祐さん、子供みたい」
「え。そう?」
「うん。なんか、遊びに行く前の子供みたい」
ふふ、と笑い出すと止まらなくなる。ふふ、へへ、と笑いながら妙に楽しくなって、二人で笑いながら食事を終えた。
明日、スキーに行くのなら朝早く出るべきだということになって、食事を終えた後、リカは先に風呂に入らせてもらった。風呂を出て、買って来たばかりの服からタグを外す。
例によって、冬場も風呂の早い大祐は髪を拭いながらリカの背後に近づくと、くすっと笑った。
「リカの方が子供みたいだよ」
「わ。大祐さん、寒くないの?」
「うん。リカが入った後だから温まってたし」
確かに、リカの方も、修学旅行の前の少女のようだ。ふふっと笑ったリカがひどく幼く見えて、片膝をついた大祐がふわっとリカを抱きしめる。
「ばたばたしていたけど、リカがこの部屋にいるんだって急に嬉しくなった」
「なぁに。急に」
「うん。なんかいいね。こういうの。すごくいいよ」
素直に抱きしめられていたリカは、大祐の体にそっと腕を回して引き寄せた。片膝をついていた大祐がリカの傍に座り込んで足の間にリカを引き寄せる。
素直に寄り添ったリカはそっと大祐の膝に手を当てた。