FLEX31*~独占欲が変わるとき 6

「あのね。私が下手だって言うこともあるんだけど、大祐さんは大丈夫なのかなって思ったの」
「ん?何が?」
「……膝、寒いのとかあんまりよくないんじゃないかなとか、痛めないかなって……」
「ああ……」

穏やかに微笑んだ大祐が、フリースのパンツをグイッと引き上げて膝を出して見せた。
リカに初めて会ったころはまだ生々しい傷跡だったが、今はだいぶ薄くなってきている。あの震災の頃は、無理を重ねて、しばらく足を引きずらなければならない時もあったが、今はよほどハードな訓練やスポーツをしなければなんということもない。

「大丈夫だよ。ほら。だいぶ薄くなったよね。ちゃんとサポーターつけていくし、リカが一緒なら全然平気」
「そう?」

自分がいれば、と言われたリカがほんのり嬉しそうな顔をしたのをみて、悪戯っぽい顔になる。

「だって、リカ、下手なんでしょ?たぶんリカに教えるくらいなら全然平気」
「ひどっ……!」
「あははっ。でもさ、そんなに真剣になってやることでもないから、気楽に遊び気分で行こうよ」

ぱっとむくれたリカの鼻の頭を大祐はちょいとつついた。
リカが自分を心配していたことが嬉しくて、少し申し訳なくて。

軽口をたたいてリカの心配を取り除きたかった。
こういう時に、大祐は遠慮や心配させまいとした嘘は言わない。仕事の場合はさておき、リカにはその言葉の裏を考えなければならないようなことは絶対に言わないとわかっているから、リカも素直に頷いた。

「ん……。わかった。じゃあ、一つだけいい?」
「何?」
「思い切り初心者で下手だけど笑わないでね?」

―― どこまで可愛いことを言うんだか……

意地っ張りなリカの性格からすると、初めてのことにチャレンジするのはよくても、負けず嫌いなのでうまくできないところを大祐に見られるのは抵抗があるのだろう。

「笑わないよ。リカと一緒って、何をするのも楽しくていいね」
「私もそう思う。大祐さんのかっこいい姿、期待してますからね」

にこっと微笑んだリカが、むき出しのままになっていた大祐の膝にちゅっとキスする。少し冷えた膝に触れた温かな感触とその仕草にどきっとした大祐が、ん~っと苦虫をかみつぶした顔になる。

「リカさん」
「はい?」
「俺としては非常に嬉しいので、あんまり言いたくないんだけど、そういうのって……。すごーく誤解をしそうなポーズだから、考えてしてくれると嬉しい」

―― 誤解?ポーズ?

頭の中ではてながたくさん並んだリカに、薄ら赤くなった大祐が片手で髪を掻き乱した。

「いいっ!今のなし!気にしないでいいから。それより、早く寝よう」

余計なことを言った、と思った大祐が慌ててリカから離れると、ぬれたタオルを洗濯機に放り込みに行ってから、さっさとベッドに向かう。
何を言われたのか気になったリカが、遅れて立ち上がると大祐の後を追って、ベッドに入る。

「ねぇ、どういう意味ですか?今の。一度言いかけたならちゃんと言ってください」
「いや、あの……。あれは俺の失言だから」
「いいからちゃんとわかる様に言ってください!」

こういう時、リカはなっとくするまではなかなか引いてはくれない。黙って部屋の明かりを落とした大祐は、ぐいっと腕枕をしたリカを抱き寄せた。その耳元に唇をつけると、吐息がリカの耳に触れる。

「だから、ね。あれじゃ、その……、口でされてるみたいに見えてしまうから誘ってるんじゃないなら気を付けてって言いたかったんだよ」
「……っ!!」

耳にかかる吐息にぞくぞくっと背筋を這い上がる感覚がある。
これで明るかったら間違いなく真っ赤になってしまっているに違いない。リカは恥ずかしくなって、顔を背けた。

「そ、そんなつもりじゃ……」
「うん。でも、俺はそそられるから……。大人しく寝ようと思ってたのにな」

顔を背けたために、大きくさらされた首筋に噛みつくように大祐が口づける。
抱き寄せたリカの胸にするっと手が動いて、部屋着の上からやんわりと包み込む。

男って、本当にしょうもない、と思うが単純なようでいてなかなか複雑なのだ。
リカを可愛い、と思い、明日しか会えないと思っていたのに、一日早くこの腕に抱きしめていられることも、さっきの膝にキスしながら見上げてきたあの顔にしても、大祐が暴走したくなるのも仕方がない。
その上、今日は昼間のことといい、部屋に来た連中といい、この部屋にリカがいることは知れ渡っているはずだ。

それほど防音がよくないことはわかっているのだから、いけないのだと思えば思うほど、リカを乱したくなる。

「んっ……、大祐さん。早く寝ようって言ったのに……」
「リカがそそるから……ね。もともと、俺、リカには理性薄いし」
「んもう、それ、言い訳になってないっ……。んっ」

部屋着の上からでも胸の頂きが反応し始めてるのはすぐにわかる。柔らかな胸だから余計に、もっと触ってと言われているような気がして、服越しに指先で擦りたてれば、ぴくんと動いて逃げようとする。
本当に止めなければと振り返ったリカに深く口づけた。

リカにも聞こえるように舌を絡める音をさせる。

「んん……っ」
「は……。嫉妬深いのかな、俺」

指先でリカの胸の頂きを挟み込んで、擦り合わせるように愛撫すると、すぐに反応が返ってくる。
じわじわと広がる感覚に、リカが吐息を漏らして唇が離れる。

「嫉妬、してくれるの?」
「するよ……。リカがただすれ違う男にも、リカがここにいるって知ってるあいつらだって……」

リカぴょん、なんて気軽に呼んでいたが、リカを見ているならきっと不埒な想像くらいしているかもしれない。
皆、ほとんどが独身者でリカに会いたさで、既婚者や彼女持ちからかき集めてきたようなものだ。そんなことには気づかずに、リカはまさか大祐の同僚がそんなことをと思っている。

「馬鹿……。私、そんなに」
「リカが思うより、男なんて単純でエロくて嫉妬深いよ」

そんなにもてないわよ、と言いかけたリカの唇を塞いで、強めに指先を擦り合わせると切なげにリカが眉を寄せた。
リカの部屋にいるときよりも、ここにいるときは声が響かないように仕向けていたし、リカにも気を付けて、と言ってある。なのに今は思い切り感じさせて、乱して、つまらないことだとわかっていても優越感に浸りたくなる。

「やっ……、大祐さ……んっ」
「うん。リカに嫌われそう……」

キスの間に、そう囁くと薄らとリカが目を開いた。

「嫌われる……?」

すっと手を引いて額を合わせた大祐が、リカの体に腕を回す。

「やっぱり……、嫌われたくないからやめときます」
「どういうこと……?」
「だから……ね?」

目を伏せると、顔を寄せてリカの耳元に唇を寄せた。

―― ほかの部屋に聞こえても構わないから、そのくらいリカを抱きたくて仕方がないってこと

リカを愛しているという想いとは別に、なんて自分勝手で自己満足な感情だろう。
どれほど大事にしても足りないくらい、大事な人のことをこんな風に凶暴な感情に任せようとするなんて、まったくどこまで独占欲が強い男だろうと我ながら思った。

投稿者 kogetsu

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