「あのね?すごく言いづらいかもしれないけど、俺も全く覚えてないから聞くんだけど。教えてくれる?」
小さく頭が動いて、頷いたのだとわかると、内心では心臓がばくばくしていたが、極力落ち着いた声音で話しかけた。
「触ったっていって、リカが困るというか、怒るってことは、俺、よっぽどひどかったんじゃないかと思うんだけど。あの、ね?はっきり覚えているわけじゃないんだけど、なんか俺もあのブランケットの肌触りが気持ちよくて、リカに触ってる時みたいだなって思ってたんだ」
夢の中身などはっきり覚えているわけがない。そもそも声をかけられたかどうかさえ覚えていないのだ。
でも、微かに頭のどこかがすごく気持ちいい肌触りだなと思ったことは覚えている。常々、リカの素肌が、さらりとしているのに、大祐の手には吸い付くようで、ずっと触れていたいと思っていたのだ。
昨夜も、ブランケットとリカの肌触りがめちゃくちゃ気持ちよくて、何度も幸せだなと思ったことは覚えている。
「俺は、その、いつもすっごく気持ちよくて、ずーっと触っていたいなって思ってるんだけど、つまり、そういう触り方、した?」
そもそも、奥手というか、なかなか踏み出せなかった二人だけに、直接的な言葉はひどく抵抗がある。大祐の方はまだしも、リカが苦手なことは重々わかっているから、言葉を選びつつ、誤解されないような、意図が伝わるような回りくどい言い方をすると、しばらく固まっていたリカが小さく頷いた。
「……!ごめんっ」
口元を手のひらで押さえて、目を閉じた大祐はあまりのことに自分を殴り飛ばしたくなる。
―― 俺、無意識のうちになんってことをっ!!
おおよその状況は理解したが、そうなると、今度はどこまで?という疑問が頭に浮かぶ。こうなってくると、記憶がないことが情けないのかもったいないのか大祐も訳が分からない。
動揺と混乱のままうっかりと口にしてしまう。
「それじゃ、俺、何をどこま、うわっ」
「馬鹿っ」
超高速で顔を上げたリカの平手が飛んできて、反射的に手を上げて受け止めると、顔を真っ赤にしているリカが叫んだ。
―― うわぁ。絶対、もっと怒られるけど、今、めちゃくちゃ可愛いんですけど!!
このままではいつまでたってもリカの怒りは収まらないだろうな、と思う。
確かにそれだけ怒らせたんだろうとも思うが、今、目の前で顔を真っ赤に染めて怒っているリカが、朝起きてから文句を言いたくても言えずに拗ねていたリカが、めちゃくちゃ可愛くて。
ちょっと無理な体勢から膝に負担をかけないように片足を逃がして、丸まっているリカを抱き上げた。
「ちょ、大祐さん?!」
「うん。俺、今謝ったけど、間違ってた。覚えてない事だけ謝ればよかった」
「はぁ?」
大股で部屋を横切ってベッドの上にリカを下ろすと、四つん這いの姿勢でリカを閉じ込める。
「俺、また言葉が足りなかったんだよね」
「え?何言ってるの」
「だから、ちゃんと一杯伝えるよ」
ちゅ、と額にキスを落とす。
「リカのこのきれいな額が大好き」
驚いて目を丸くしている瞼の際に唇で触れながらほんの少しだけ舌先で舐める。
「まっすぐに俺を見てくれる目が好き」
頬骨の上と、頬の真ん中にもキスを落とす。
「拗ねるとすぐ膨れるほっぺも好き」
初めは警戒していたリカの気配が少しずつ変わってくる。
「まっすぐできれいな鼻も大好き」
ちゅう、とわざと音をさせて鼻の頭にキスすると、リカが目を閉じてふっと力を抜いた。
「俺が無意識にでも触りたくなっちゃうわけをちゃんと、リカに伝えなくちゃね」
触れるだけのキスから、ぴたりと密着するキス。
リカの唇を舌でなぞると、リカの方も舌先を出して互いに舐めあう。
「リカのキス、さらっとしてて、控えめで可愛いくて好き。リカは?」
―― 俺のキス、好き?
好きか、嫌いかなんて考えたこともなかった。
唇の間で、舌先だけが遊ぶ。
「ん……。大祐さんのキス……、気持ちいいかも」
素直に感じたままを口にしたリカに、僅かに目を見張った大祐が開いた口の間から舌を滑り込ませる。深く、舌の付け根から口の中を隈なくなぞって、逃げる舌を追いかけて。
「んん……っ」
「俺も、こういうリカのキスはすごく気持ちいいよ」
鼻先を合わせたままで、そう囁くともう一度深く口付ける。
口の端から溢れた唾液を追いかけて、舌で頬から顎の付け根まで移動する。可愛いピアスが揺れる耳たぶを唇だけで食んでから、リカの耳の奥へと舌を這わせた。
「ん、やっ……」
耳の奥へとダイレクトに伝わってくる音にリカが首を竦めた。体を縮こませてしまったリカを追いかけて、耳の輪郭をなぞる。
「リカの耳、きれいな形してるよね。感じるのかなって思うと、いつもちょっと意地悪したくなる」
もともと、大祐の声はベルベットのような艶のある心地いい声で、それをこんな状況で、耳元で囁かれたらどうなるかなんて。
見透かされていると思うと、羞恥と同時に体中に熱が走る。
「意地悪……って」
くすっと耳元で笑いが聞こえて、舌先がもう一度、耳の奥を舐めてくる。ぞくぞくと背中を這い上がってくる快感にリカは本気で意地が悪いと呟いた。
顎の付け根から首筋に降りて、脈打つ、頸動脈のラインを噛みつくように味わうと、リカの喉がこく、と鳴る。
「首筋、すごく色っぽいなって思うのは俺だけかな。鎖骨のあたりまで食べたいなって思うんだ」
「だから、……っ、いつも噛みつくみたいにキスするの?」
「うん」
襟ぐりに阻まれて、鎖骨の上を唇が彷徨っている間に、体を支えていた片方の腕でリカの服を脱がせる。ブラだけになったリカを覆う様に再び手をついて、肩紐を口に加えて肩からずらした。