FLEX7*~一皮むけばスイーツ 2

医者から戻って、再びリカが着替えて、処方されてきた薬を飲んで横になると、ようやく大祐は昨日、リカのために作っておいた塩むすびをお茶で流し込んだ。
ベッドの方からはぁ、と深いため息が聞こえてきて、キッチンを片付けると戻ってくる途中で買ってきたスポーツドリンクを持ってベッドの近くに向かう。

「リカ。苦しい?」
「……ううん。随分楽」

確かに熱が高いということで点滴をして1日分の薬をもらって帰ってきた。点滴のおかげで今は少し熱も下がって楽になったらしい。
ベッドのすぐそばに座って、リカとほとんど同じ目の高さに頭を乗せる。

「あんまり近づくと、うつっちゃうよ?それでなくても……」

―― 昨日たくさんキスしたのに

続きは言いよどんだものの、大祐にはそれがちゃんと伝わる。腕を置いて、その上に顎を乗せた大祐がふふっと笑った。

「大丈夫だよ。俺、結構丈夫だから。それに、うつしてリカが治るならいくらでもうつしていいよ」
「駄目。そんなの……。私だって、こんなにひどい熱、すごく久しぶりだもの」
「そうなの?」
「うん。インフルエンザにかかった時以来かな……」

リカから大祐の間くらいのところに手を伸ばしたリカがそれ以上は伸ばしてこないことに気づいて、大祐が同じ場所まで手を伸ばした。手を握ろうとした大祐の手から逃げたリカの意図に気づいた大祐が人差し指を伸ばす。
リカもそれに気づいて、くすっと笑いながら人差し指を伸ばして指先だけで触れた。

「大丈夫?疲れない?寝ちゃっていいんだよ」
「今は大丈夫。ぼーっとしてるけど、傍にいて欲しいの」
「……!」

元気なときには絶対に出てこない素直なセリフに、大祐が思わず目を見開いてしまう。

「駄目?大祐さんが夕方になったら帰っちゃうと思ったら寂しいんだもの」

駄目押しとばかりに続くリカのセリフに、もう片方の手で口元を押さえて大祐が頷いた。

―― うわー。今日一日こんなリカと一緒にいたら俺、やばいかも……

口元が緩んでどうしてもニヤついてきてしまう。可愛くて、大好きなリカにこんな風にストレートに可愛いセリフを言われてしまったら嬉しくてどうしようもない。

「俺も……、リカの傍にいたいよ。それに、こんな風に具合の悪いリカを放り出しておくなんてできないし」
「嬉し……」
「でも、風邪ひいてたなら言ってくれればよかったのに。そしたら昨日も出かけないで家にいたらここまでひどくならなかったかもよ?」

ついつい心配が先に立って、怒りはしないがそういうと、熱で上気して頬を染めたリカが人差し指を離す。大祐の手を人差し指で軽く引き寄せて、爪の先にちゅっと軽くキスする。

「っ!……リ、リカっ」
「ふふ。これくらいならうつらないよ?それに、家にいてもやっぱり熱は出したんじゃないかなぁ?」
「いや、うつるとかうつらないじゃなくて……、その、ね?」

しどろもどろに応える大祐は、リカの顔を直視していられなくて、ちらちらと視線を彷徨わせる。
とろんと潤んで、ほんのり頬をピンクに染めて、はるかにストレートなセリフをつぎつぎと繰り出す姿は、妖艶と紙一重の違いしかない。
そんなリカに、指先に口づけられればどきっとしてしまう。

そんな大祐に気づかず、リカはますます大祐を煽るようなことを口にする。

「だって、ね?ずっと家にいたら、きっと、ね?」
「あ!!や、それはあの、わかってれば、ね?そんなことはきっと……」

家にいたからと言って、おとなしくしていられたかと言われると、そこに言いきれる自信はない。しどろもどろになった大祐がリカから視線を外した。

「あんまり自信はないけど、それは、もう、リカが相手だとどうしようもないんだよ。好きすぎて、昨日のリカだってもうたまんなくて……」
「んん。私も恥ずかしかったけど、大祐さんが何度も気持ちよくしてくれるから……。風邪もどっかいっちゃうかなって思ったんだもの」
「……や、あの……。リカ?めちゃくちゃ嬉しいんだけど、そんな風に言われたらものすごく嬉しいんだけど!」

―― 頼むから煽らないでよ……

ベッドの下に座っていてよかったと思うのは、リカからは見えないからすっかり元気になってしまった姿を見られなくて済むということだ。昨日も思ったが、男は視覚と聴覚で興奮する。こんなにも素直で、しかも煽るようなことを言われたらずきっとすっかり固くなった自分がますます苦しくなる。

それがわかっているのかいないのか、リカの態度はますます加速していく。

「ね。大祐さん?ちゃんと大人しく寝てるから、腕枕、して?そのくらいなら風邪、うつらないでしょう?」
「や、でも、うん。一人で寝てないと、体が休まらないんじゃないかな?」
「だって、大祐さん。傍にいてくれるって言ったでしょ?」

―― それとも、汗臭い私、嫌かな

「いいいい、嫌じゃないけど!嫌じゃないけど、でも、あの、ね?」

傍に近づいて、このリカと抱き合っていたら、昨日のことを思いだして暴走してしまいかねない。だからこそ、なんとか言い訳をして離れようとしていた大祐に、潤んだ目のリカが引き寄せていた大祐の指先を第一関節までぱくっと口に入れた。
舌の先で指をくすぐったリカがひた、と大祐の目を見つめる。

「我慢、しなくてもいいのに。汗、いっぱいかいたら熱、下がるかもしれないでしょ?」
「……っ!ちょ、ちょっと待って。何言ってるの」

慌てて手を引いた大祐が、急いで立ち上がるとトイレに駆け込んだ。

―― あ、あんな誘い方、反則どころの騒ぎじゃないだろ~……

しゃがみこんで、期待でいっぱいの自分自身をなんとか諌めようと片手で押さえこむが、何度も耳の中ではさっきのリカの声が聞こえてきて、収まるどころか、興奮してしまう。
これではどうしようもないと思った大祐は、なんとか自分自身を押さえながら、全く関係のないことを思い浮かべて自分を宥めることに専念した。

投稿者 kogetsu

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