―― そりゃ、具体的にはっきり言ったらますますリカが怒るからだよ……
背中には胸が当たっていて、押しつぶされる格好になっているし、何も身に着けていないリカが背後からくっついている。トランクス越しとはいえ、ぴたりと張り付いているから、大祐の尻のあたりにリカの下腹がぴたりと重なってしまう。
「うわっ」
思わず大祐が声を上げる。
その感覚はリカの胸が押し付けられているからだけではなく、背中の真ん中あたりに一番熱くて、柔らかいものが触れたからだ。軽く口を開いたリカが、大祐の背中に吸い付いて、舌を這わせていく。
ぞくぞくする感覚に、背中を逸らした大祐に、ちゅっと音をさせて離れたリカが両手で顔を覆ってしまった大祐の耳元まで這い上がって、ふうっと息を吹きかけた。
「仕返し。いつもしてることをし返された気分は?」
「……参りました。ごめんなさい」
「まだキス一回ですよ?さっき、もっとたくさんされたから私もしたいな」
大祐さんの肌、気持ちいいんだもの。
そのまま大祐の耳元にちゅっと音をさせると、襟足から肩甲骨のあたりまでゆっくりと柔らかなキスで辿る。
体に回した腕は、そうっと自由がきく片手で、大祐の胸から腹のあたりまでを掌と指先を這わせた。肋骨の一番下からきれいに鍛えられた腹筋を指先でなぞる。
「あっ……、ふ」
「……ふふ。立場逆転、ね?」
嬉しそうに囁く声に大祐もどうしようもない。リカの手を振り払えばいいのだろうが、確かにいつも自分がしている行動を返されると、予想以上にクる。
無抵抗でされるままの大祐は、さっきのリカのように体を丸めた。
男はどうしようもないなと思うが、もうすでに先ほどの熱以上に昂ぶってしまっている。呆れられそうだが、こればかりは仕方がない。下着越しにもはっきりとわかる上に、もう期待してしまっている。
腹のあたりに腕を回していたリカが、昂ぶった大祐に意識せずに触れてしまったことに驚いてから、するっと腹に添わせた。そのまま大祐が思いがけない行動に出る。
下着の内側に滑り込んできたリカの手が熱くなった大祐自身をそっと包み込む。
「……リっ……カ」
「……私は、すごく、よかったけど、大祐さんは不満、だった?」
ひんやりした手に包み込まれた大祐が、びくん、と跳ねて、顔を覆っていた手を下ろしてリカの手を掴んだ。
本音を言えば、そこはするがままに任せたい気もしたが、どうにもそのままにはしておけなくて、掴んだ細い手首を引いて、くるっと振り返る。
「不満、なわけないよ。逆だよ」
リカのもう片方の腕もまとめて抑え込むと、無遠慮にリカの足を引き上げて、内腿へ手を滑らせる。触れた瞬間、指先に感じたとろりとした潤みに、躊躇いを捨てて、さっきまでリカの手が包み込んでいた自分自身を一息に沈めた。
「は……、ぁぅ……っ!」
「……もう、最高に気持ちよくて……。いくらでも、だから、満足なんて」
満足なんてできるわけがない。
出来るなら、ずっとこうしていたいと思うのに。
欲望に限りなどないと思いながら、リカの腰を抱えた大祐は、自分を押さえこむためにも極力、ゆっくりと動く。
腕を伸ばしたリカが、大祐の体にぎゅっと腕を回して体を起こした。リカの方から口づけて、舌を絡めると、きゅっと大祐を締め付けてくる。
「大祐さん……」
両腕で互いに抱きしめあって、向かい合って、揺れて、揺られて。
幸せだなぁって思ったから、素肌で、寄り添いたかったの。
「だから……、今も、すごく、幸せ……」
「……!……うん」
リカの優しい声に目尻から涙が伝った。
―― ほんとだ。幸せだ……。幸せすぎると……泣けてくるんだ
大祐の頬にリカが口づけてそっと流れる涙を拭う。
「リカ……。リカが……好きだよ」
―― リカがくれるすべてが愛おしい……
大祐の頭を胸に抱えたリカの揺らぎに合わせて、寄せて、返す波のように抱き合って。
二人はそのまま寄り添って眠った。
夢の中で、何度もリカを抱きしめて撫でていた気がする。
『時々、不安になるの。私』
―― なんで?何が不安なの?
『私の中の、100%のなかでどのくらい、大祐さんが好きでいてくれるだろうって』
―― どんな時でも大好きだよ?
『そんなはずない。嫌なとこたくさんあるでしょ』
いつもいつも、きちんとしなきゃという気持ちと、それでも思いがけずにスルーしているリカの素の部分と。
何もかもが愛おしいよ。
あやす様に、何度もリカの頭も、背中も撫でて。繰り返して。
伝わればいいのにと思いながら、自分の中で何かが納得する。
触れて、呆れられるほど抱いて、抱くことで少しでもこの想いが伝わればいいと思っている自分がいるのだと。
言葉では伝わらない想いが伝わればいい。
「リカ……。愛してるよ……」