FLEX99*~グレイノイズ-7

街灯の下を歩きながら、人気がなくなったところで不意に大祐が腕を離した。

「あーっ!!疲れた!!グダグダうるさい奴は多いし!相変わらず、世間の評判はステレオタイプだし!全然成果ないし!」

急に叫んだ大祐を目を丸くして見つめたリカは、あの、と口籠った。そんな姿を初めて見たからだ。
口元を押さえたリカをぱっと大祐が振り返る。

「リカもやってみれば?」
「えっ?!」
「わーって嫌なこと、怒鳴ってみたらスッキリするよ」
「なんでもって……、それにこんな外で?」

周りを見回したリカをよそに、大祐は大きく腕を振り上げたり身を捩ったりして、溜め込んでいた苛々を吐き出すように暴れている。呆気にとられていたリカは、ぽけっとそれを見ていた後、急に笑い出した。

「あははっ、やだもう。なんなの。おかしすぎ」
「なんだ。リカはやんないの?結構いいよ。すっきりして」

笑い出したリカを少し離れたところから振り返った大祐は、振り乱していた髪を片手でかきあげた。

「知らなかった。大祐さんも、そんな風になるんだ……」
「まあ……普通に?そんなに驚くようなもんでもないよ?俺だって苛つくときは苛つくし、暴れたくなる時だってあるし?」
「そっか……。ふふっ、そっか。そうですよね」
「うん。そうだよ。リカは?」

ゆっくりとリカのもとへと歩き出した大祐は、ん?と問いかけた。勢いに任せて星も見えない夜空を見上げると、大祐が大きな声を上げた気持ちもわからなくもない。

「私はいいわ。でも、そろそろ帰りません?」
「あ……。うん」

急に火が消えたように我に帰った大祐に手を差し出すと、ゆっくりマンションへと入っていく。エレベータを上がって、いつものように部屋に入った後、なぜか電気をつけずに手を引いたまま部屋へ進む。
薄暗い部屋の中は、電化製品のほのかな明かりだけで薄らとした輪郭を見せていた。

「どうしたの?電気つけないと」
「待って」

何も見えないよ、と言いかけた大祐をリカは軽く手を引いて止めた後、緩く腕を回した。

「暗いと、見なくてもいいものは見えないし、感じたいものはちゃんと感じられるなって……」
「そりゃそうだよ」
「ねえ、大祐さん。私……」

好きすぎて、時々間違ってしまうことがある。正解なんて、ただでさえ、簡単にはわからないのに、より一層難しい。
ぎゅっと抱きしめていると、そういえば、このところ忙しくてほとんどゆっくり話をする暇もなかったなぁと思う。朝くらい一緒にご飯を食べることもしていないし、晩御飯となればもっとめちゃくちゃだ。先に食べていてと言っても待っていてくれる大祐と半分眠りそうになりながら食べる時もあった。

明かりをつけて、部屋の中に入っていたら、きっとやらなければいけないことが先に立って、考えなければいけないことを忘れてしまうところだった。

「私、ちょっと疲れてたよね」
「まあね」
「ちょっと視界、狭くなってたよね」
「まあ……。そう、かな?」

ぽん、と大祐の体を軽く叩いたリカが部屋の明かりに手を伸ばした。
ぱちんとついた灯りに目を瞬かせる。

「大祐さんの暴れるところ、見られてよかったかな。もっと見せて欲しいくらい」
「えぇ?!そう?」
「うん。世の中、割り切れないことがいっぱいあるけど、ね……」

二人の間だけは、雲が広がらないようにしよう。

「……ん。そうだね。きっとね」

今度は大祐の方から腕をのばしてリカを抱き寄せる。

「リカがいれば俺は大丈夫」
「私も、大祐さんがいれば大丈夫」

どんな曇った空の下でも、ふたりの上には日がさしていますように。

 

――end

※まとまりのないお話になってしまいました。すみません。こんなに間が空いてしまいました。
次はもう少しましなお話でお目にかかりたいです。

投稿者 kogetsu

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