~はじめのお詫び〜
黒か?!とみせて白に復活。
BGM:GReeeeN 愛唄
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貪るように与えられる口付けに封じ込められたセイが抵抗する腕の力を抜くと腕を押さえていた手がセイの袴を解いた。
一般的には、女子の袴といえば、衣紋を少し抜いて胸高に帯を締める。帯も普通の帯の半分くらいの幅の半幅帯を使うものだが、セイの場合は女物の角帯を使い、低めの位置にしている。
これまでの男装から、動きやすく良いようにと奥侍女として黒谷にいた間に佐久を初めとした皆が女子としても、医師としても良いように考案したものだ。
総髪の髪も結い方を何度も変えて、武家の奥としての髪も試した。しかし、それは女子姿をしてこそ似合うもので、セイの普段の姿に一番似合う髪形が今のものである。
ばさりと広がる髪と、解かれて脱がされた袴が部屋の中央に広がっている。
縋るようにセイの首筋から胸元に唇を落としていた総司の髪を、優しく撫ぜた。すると、柔らかく撫ぜる手に深い溜息をついて、セイの胸に顔を押し付けたまま、総司はきつくセイの体を抱きしめた。
「――……」
「……総司様?」
顔を伏せたまま、総司が何か呟いたのが聞き取れなくて、問い返した。無理に抱こうとしているわけではないことはわかっている。
「今日……一日が長くて……」
「はい」
はぁ、と再び溜息をつくと、総司はセイから離れて壁を背にしてどさっと座り込んだ。乱れた着物を押さえながら、セイもゆっくりと体を起こして、座り込んだ総司の傍に寄った。
「心配しすぎです、先生」
つい、そのままの呼び方をした穏やかなセイの言葉に、座り込んだ片膝の上に抱え込んでいた頭が揺れた。
「本当に、初めは貴女のことだから大丈夫だと思い込もうとしていたんですが、診療所のあの様子を見ていたら堪らなくなって……」
まだ、二人が夫婦になって、まだたった三日しかたっていない。その実感さえ、まだ現実のものと思うには頼りないくらいなのに、セイが新たな立場で隊に戻った。そして、女子と分かった上で、あれほど皆に囲まれて嬉しそうに立ち働くセイを見ていて、様々な思いに囚われてしまったのだ。
「先生、心配しすぎです、色んなことに。ちゃんと、困ったら必ず……総司様にお話します」
「それは分かってるんですけど……」
言い方を改めたセイは、不器用な夫の手に自分の手をそっと重ねた。
「先生?これまで剣術も武士としても、ずっと私を導いてくださいました。今の私があるのはすべて沖田先生のおかげなんです。せん……、総司様の妻として、皆さんに認めていただけるようになりたいんです。だから……」
―― もう少しだけ黙って見守っていただけませんか?
総司は、顔を伏せていた片腕を上げて、セイの頬を撫ぜた。
この子は、本当に何処まで強く、美しくなるのだろう。
それを独り占めして、自分だけのものにしたいと思ってやまないのは、正式な祝言を挙げた今でも、自分以外にも大勢いることが今日一日で身に染みて分かった。そんな中で、セイの隣に夫として立つことの難しさを突きつけられている。
「こんな私でいいんですか?」
思わず口をついて出てしまった。柔らかな手が総司の頬に触れてそこに温かい唇が寄せられる。
「私を妻にと望んでくださったのは総司様ですよ?その妻としているために、私はできることをするだけです」
啄ばむような口付けを返して、ようやく総司の纏う空気が和らいだ。
「それでは、私も貴女の夫としてできることをしなければいけませんね」
そういうと、総司は床を敷いて、セイを横たえた。そして、想いを確かめるように二人は夢を重ねた。
セイは幹部会での挨拶の後、総司を含め、主だった幹部に声をかけていた。
当面、何があってもしばらくの間放っておいてほしい。
それは、セイが隊の中で認められるかどうかがかかっていた。土方と総司は難色を示したが、斉藤が後押ししてくれた。
初めになめられれば終わり。
そうさせないためにも、ここしばらくが踏ん張りどころだった。
「何があってもつったってなぁ……」
これまでも、神谷清三郎を巡っての騒ぎは後を絶たなかった。それを思えば、あまりいい顔をできるはずがない。
隊内も不穏な動きが多くなってきているのもある。しかし、斎藤は予想外に引かなかった。
「副長、どう思われていらっしゃるかはわからなくはありませんが、あの神谷です。任せてみても問題ないかと」
その一言で、決まった。
– 続き –