元から男臭い職場ばっかりだったから、特に意識したことなかったんだ。
「俺をそんな奴らと一緒にするな!」
怒鳴りつけられた時、どうしても敵わない力を見せつけられた気がした。それと、間近で感じた槇の匂い。
微かな汗と洗剤かなにかの混ざった匂いにドキッとした。
―― やばい。私、押されてる……
じわっとプレッシャーのような感覚で押されていることだけはわかるんだけど、どうしたらいいのか幾久しくこんなことになったことがないからどうしていいのかわからない。
「離して」
自分の声が震えているのがわかって、余計に悔しくなる。
「離しなさい!」
―― 私の方が年上なんだから
そういえばよかったのかなんなのかわからないけど、私の中の女の部分が怖いと思った。
「すみませんでした」
ぱっと放り出すように離されて、ほっとしたのか、離されたくなかったのか、自分でも正直わからなかった。戸惑っているのだと気づくのに、随分時間がかかって、強引にデートの約束を決められた後。
「本気で逃げたかったら俺の手を引っ掻いてでも、蹴り飛ばしてでも逃げればよかったじゃないですか」
まっすぐに、見つめられてどこにも逃げようがないのだと思った。
覚悟を決めればいいだけだと思うのに、頭の中では冷静に単なる行為だと、理解しているのに、表に出ているのはめったに出てこない女の自分だ。
押さえ込まれて、キスされて、股でも蹴り上げてやればよかったのに、できなかった。
「ん……ぅぅっ」
馬鹿な事するんじゃないわよと思ったけど、どこかで嬉しかった。
女として、オッサンだろうがなんだろうが、一人の私を見てくれているんだってことが嬉しくて、何年かぶりのキスが心地いい。
か弱い女の子のようにベッドまで運ばれて、真上から見下ろされて。
悔しいから、好きだとも、嬉しいとも言ってやらないとそれだけは頑なに思っていた。だから、降参しろと言われても素直には応えてやらない。
目いっぱい、力をこめて見つめ返す。
「あんたこそ、あたしに負けたまんまでしょ」
その瞬間、槙が崩れた。
私にかかる重みと、掠れた切なげな声と私を動揺させた、槙の匂い。