「片山さん」
「あ?」
「久しぶりにこっちに来て、気合い入ってるのはわかりますが……」
「あのな。俺がこうやってわざわざ来てやってるんだぞ。なんか文句あるのか!」
久しぶりに、りん串に集まったのは比嘉の仕切りで、片山と槇と柚木、それに空井とリカである。
「なんていうか、片山さんの場合、おしゃれしてるとか、気合入ってるっていうのがもろにわかりますよね」
「そうそう。普段しなれてないやつはこれだから」
「うるせぇ!お前らのようなデリカシーのない女どもに、俺の魅力がわかってたまるか!」
ビール!の声に明るくはーい、と店員が答えた。リカと柚木は顔を見合わせて苦笑いを浮かべている。
スーツと言っても、どこぞのモデルかというような、どちらかといえばパーティドレスにもなりそうなスーツと、カラーシャツ。それにネクタイと、よく見れば腕にはカフスもついている。
「う、いや、片山さんかっこいいですから!何着ても目立っちゃうっていうか、その、パーティでもしてるみたいだなって」
「そうだ!本当は、俺は……、今夜は……、婚活パーティにぃ、出るはずだったのにぃ、男が余りすぎてるから来なくていいって土壇場で言われた可哀そうな男なんだよ!」
ああ……、いかにも残念な片山らしい理由に皆が渋い顔で頷く。この格好からして、会場に行くだけはいって、その場で断られたのだろう。
みなくてもわかるとはこのことだ。
「別に、片山さんが恰好よくないって言ってるわけじゃないですよ。ただ……、なんかこう、やる気が空回りしているっていうか……」
「いや、リカさん、そこは、片山さんの場合、やる気が溢れてるって言ってあげてください」
「……空井さん、そこ、力説すると誤解を生む表現だと思いますけど」
「あっ!!!」
違うっ!と赤くなってわたわたと否定に回った空井を片山がヘッドロックをかけている。
「お前がそうだからって俺様まで一緒にすんな!このだいすけべ!」
「違いますよ!そんなことありませんから」
「嘘つけ!稲ぴょんが可愛すぎて、たまにこっちに来た時は、もう朝まで寝かせませんよ!とか言ってんじゃねぇの?!」
「そんなこと!!」
言えないですよ、と言う空井が真っ赤になってしどろもどろになるから余計に皆の想像を掻き立ててしまう。ぉーぃという冷やかしの声に慌ててリカが話題を戻した。
「でも、ほんとに婚活パーティに出るつもりだったんですか?片山さん」
「おうよ。俺様のレジェンドが、今まさに始まる!もて男片山、ふっかーーーつ!!」
「はい、そこ。復活しませんから、もともと着てませんからだいじょうぶですよー」
「うっせぇ!比嘉」
今度は八つ当たりに比嘉に向かっておしぼりを投げつけた片山に、リカは空井の肩を叩いて、場所を変わってもらった。
急に隣に座ったリカに、片山の方が身構える。
「な、何だよ。稲ぴょん」
「今日、来られなかった藤枝から伝言があります」
「お、おう」
真面目に片山の方へ向いて座ったリカが妙にきっちり座って口を開いた。
「『婚活パーティなんて言ってないで、みんなに相談して、さっさと腹を決めてプロポーズしちゃいなよ!』だ、そうです」
「う、い、稲ぴょんそれ、こんな場所で……」
「ひっそりと隠れて片山さんに伝えたら、それは妙な誤解を招くかもしれないじゃないですか。それより、堂々とした方がセキュリティにはいいんです」
そう言う問題か?とぶつくさ言いだしたが、相手がリカのために、藤枝に対する文句もしりすぼみになる。かわって、熱く食いついてきたのは比嘉の方である。
「プロポーズということはどなたかお相手が?」
「しらんしらん!そんなんしらん!知らんて言ったからな、稲ぴょん」
「はいはい。要するにわかってるんですね。じゃあ、何も言うことはありません」
そこで、もうひと押しリカが問いかけていれば、話してもよかったくらいだったが、どうしても素直じゃない片山にはハードルが高かった。
何だよ、もう聞かないのかよ、と不満げな片山にリカが至極真面目な顔で畳みかけた。
「藤枝の言うとおりだと思いますよ。相手の方も待っているのかもしれないし」
「……あるとおもうか。どう思う?」
「……あると思います」
見つめ合って、両腕まで使ってガッツポーズを決めると、満足そうな顔になったリカに、後ろから空井が小声で話しかける。
「あのさ、どういうこと?」
「つまり、片山さんには彼女ができてて、遠距離に不安になって最近喧嘩してたんですよ。その腹いせに片山さんは婚活パーティに出ようとしてたんです。だから、そんなことをしてる暇があったら、彼女のところに行って、プロポーズしたらどうかってことです」
すっと腕を伸ばしたリカが店の出口を指差す。
「はい!片山さん、何をぐずぐずしてるんですか!さっさといく!これ持っていく!」
「え?あ?稲ぴょん、これな……」
紙袋に入った、可愛い花束を渡された片山が目を白黒させているのを柚木が立ち上がって蹴り飛ばした。
「さっさと行きなさいよ!ったく、あんたみたいのがいると酒がまずくなる!さっさといけ!ほらっ」
リカと柚木にどーん!と出口へと押し出されると、もうあきらめるほかない。そう思った片山は、じゃあ、あとでここの分は払うから、請求してくれ、と言うと靴を履いて店を出ようとした。
「あ!忘れ物!」
片山が座敷から離れかけたところでリカが慌てて、鞄を持ったまま後を追いかけた。店をでてすぐのところで片山にちゃんと話を聞くようにと言いながら皆が見送る。
スーツの裾に、今更ですけどね、と言って、香水を振りかけた。
「お店の中じゃちょっとつけられなかったんで、危うく忘れるところでした。これも藤枝からの応援です」
手の中にエタニティのミニボトルを握らされた片山はさんきゅ、と小さく口の中で呟いて、店を離れて行った。
座敷に戻ったリカに、比嘉がニコリと笑う。
「なかなか稲葉さんも粋なことしますね」
「あ、いえ。アイデアは私ですけど、色々細かいところは藤枝です」
「そうですか。エタニティ。永遠に続くいくといいですね」
まるで意味の分からない空井はぽかんと口を開けてリカと比嘉の会話を聞いていた。リカが小声で、香水の名前です、と教えてくれる。
「あ、それでエタニティ!」
「そうですよ。だってプロポーズだもの」
なるほどね、と空井が頷いた。永遠を冠した香りを纏って、片山が真剣に走り出す。
きっと、今度会う時はとびきりのyesを掲げてのろけ話でも聞かせてくれるに違いない。
わあ。このお話大好きです。もっかい読めて嬉しいです。
片山がエンジェルなのはもちろん、男前なリカさんがステキ。
無糖ミルク珈琲様
おわっ、いらっしゃいませ。こんな僻地までようこそ。どーもどーも。
あっ、チョメ山さんですね。ちょうど小ネタをしこんできましたので、それだけでも今日のシメにアップしてきます!