ぐったりとベッドに沈み込んだリカは、我に返ってひたすら恥ずかしくて仕方がなかった。時計を見るまでもない。
部屋の中はカーテンを閉めたままだというのに、これだけ明るければ、いいじかんであることを知らせている。
流されすぎと自分で自分が恥ずかしい。こんなに自分がそういう欲に浅ましいほど貪欲だと思わなかった。そして、そんな自分を知られるなんて、どうしていいかわからない。
自分が自分じゃなくなった気がすることが落ち着かなくて、大祐が起き出してシャワーに行った隙に、散らかっていた自分の服をかき集めた。そのまま身に着ける気にもなれなくて、タオルケットにくるまったままソファの前に移動する。
少しでもいつもの自分に戻りたくて、机の上に置きっぱなしにしていた郵便物に手を伸ばした。
いつも行くショップのダイレクトメールに携帯の引き落とし通知、チラシをそれぞれ選り分けて、いるうちにぴたと、手が止まった。
横向きのいわゆるレターセット風な宛名も何もない封筒が間から出てきたからだ。
「……何?」
裏を返しても何もなくて何となく何も考えずに中を探ると、一筆箋のようなカードにさらりと手書きの文字が見えた。
『稲葉さん
近くで見かけたので、声をかけようかと思ったんですが、パートナーの方かな。楽しそうにしていたので、そのまま帰ります。今度、俺とも楽しい夜をぜひ。 高柳
ちなみに、これは近くのコンビニでとりあえず買ったけど、普段から持ち歩いていたりはしないから』
追伸まで読むと、そりゃそうだろう、と言いたくなる。こんなレターセットのようなものを持ち歩いている男なんて仕事でもなければ驚くしかない。
それよりも、近くに来たから、ということの方が気になった。
高柳の家は知らないがこのあたりなのだとしたら要注意な気がする。
がしゃ、とバスルームが開いた音がして、あわててリカはそれを書類の間に押し込んだ。
「あれ。何してるの、そんなところで」
「郵便、昨日、放り出したままだったから……」
濡れた髪をタオルで拭いながら現れた大祐をみて、さっきまでの恥ずかしさが戻ってきて、あわてて顔を逸らした。
「私も、シャワー……きゃっ」
急いで立ち上がりかけて、長いタオルケットの裾を踏んづけてしまう。つんのめるように倒れかけたリカをおっと、と軽く片腕で抱きとめた。
「ご、ごめんなさい」
「いいよ。気を付けて。ちょっと、ふらふらだろうし?」
見透かされたようにそういわれると、かあっと余計に恥ずかしくて顔が赤くなる。
逃げ出すようにバスルームの方へと向かったリカは、部屋からは陰になるところでタオルケットを置いた。こういう時に、逃げ場がないのがワンルームのデメリットだよなぁと思う。
頭から少し温めの湯を流し始めると、頭の中から余計な考えを振り払った。
シャワーから出て着替えていると、キッチンにいた大祐が手早く朝食を作ってくれていた。
「いつもリカって朝ほとんど食べないよね」
「そんなことない。……週末はちゃんと食べる方だと思うけど」
大祐がいるときは、大祐が食べる分を考えて作るからつられて食べているが、平日のほとんどはヨーグルトや、せいぜいがおにぎり一個というところだろう。
そんなリカのために小さ目のおにぎりと、ベーコンと目玉焼きが皿の上に乗った。
「ゆっくりでいいよ。髪、乾かすでしょ」
慌ててタオルドライして、ドライヤーを当てたリカに向かってさらりと言う。互いのペースを無理に崩したくはないのだ。どちらかと言えば、大祐の方が柔軟に対応できる気がする。
リカが支度をしている間に、ベッドを整えて、部屋を片付けてくれた。
「……こっちの部屋は、私がしなきゃいけないのに」
「しなきゃいけないなんてないよ。かえって、俺が勝手に片づけたりして嫌じゃない?なるべく、女の人のものとか仕事道具には触らないようにしてるんだけど」
「あ、それは全然いいの。ただ、大祐さんにばっかりお願いしる気がして」
まだ半分濡れているのに、ドライヤーを切り上げたリカを片腕で一瞬抱き寄せた。
「そんなことを言ったら、無理をさせてるのは俺の方だから」
駄目だと言われても、ついつい甘いものをねだる様にリカを求めてしまった。こうしていつも困らせているのだから、このくらいなんでもない。
腕を話した瞬間、ばかと小さく責める声と共に肩を軽く叩かれる。
そう言いながらも許してくれるからついつい、繰り返してしまうのだ。
揃ってテーブルにつくと、いただきます、と箸を手にする。
「それで、もう、だいぶ遅くなっちゃったけど、出かけようか」
気まずそうにリカが視線を合わせてこないところに、ん?と覗き込む。
「……式場と日取り、いい加減決めないと。私は構わないけど大祐さんが困るんでしょう?」
「まあ、困るというか……。ひとまず空いてるのか聞いてみようか。今からだと11月か、ぎりぎり12月の初めって言ってたよね」
互いの環境を考えても、やはり都内で上げるのがいいということになって、いくつか下見をかねてホテルに足を運んでいる。その時に、これから予約をするならいつ頃になるのか聞いていたのだ。
「それより早くても、準備が大変なんじゃないかしら。あ、でも、大祐さんは着るもの考えなくてもいいんでしょ?峰永さんの時みたいに、制服」
うん、とリカの物よりは大きく握ったおにぎりをぱくつきながら頷いた。
「女性が主役みたいなものだけど、俺は一緒に考えたい方だから、何でも言って。任せっぱなしには……できるだけしないから」
最後が若干弱気になったのは、その頃毎週のようにこっちに来れているのか自信がなかったくらいで、それ以外はどうとでもなる。
世間で見聞きするこういう場合の男性よりも、格段にリカを甘やかしてくる大祐に、リカがはにかんだように笑った。
「大祐さんって……。よそで話したら完璧すぎって言われてるんだけど」
「えっ?なんで?」
「だって……、仕事にも理解があるし、家事もほとんどやってくれるし、ちゃんと話を聞いてくれて」
そういうもの?と首を傾げた大祐は、食べていた手を止めてリカの頬に手の甲で触れた。
「そんなことないよ。俺達の今までを考えたら、できるんだったらなんでもしてあげたくなるよ」
「ん、だからそれがね。皆、初めはそういうところがあっても、いつまでも続かないよ、とか言われたりするの」
「それは……、わからないけど。子供ができたり、一緒に暮らす日が来るかもしれないし、その時にどうしてるかわかんないけど、でも、やっぱり俺はできることはやってそうな気がする。だって、二人でいることってそういうことでしょ?」
―― まっすぐにこの顔でこんな風に言われたら……
どれだけ心が惑うかわかっていないから困る。まっすぐで、いつも二人でいることをちゃんと考えてくれる。
「それに、リカって、リカが思うよりも全然我儘じゃないよ。いつも自分自身に厳しすぎるんじゃないかっていつも思う。だから、もっと自分を大事にして」
「わ、私のことは、大祐さんがいつもたくさん甘やかしてくれるから、このくらいでちょうどいいんです!」
少しだけ多くて、途中で箸を置いたリカがごめんなさい、というと、首を振って、大祐が残りをすっかり食べてしまった。片付けようとキッチンに向かって立ち上がったリカの後から、一度では下げきれないコップを手に大祐が立ち上がる。
「じゃあ、今日は、ホテルに行って、予約ができたら予約して、時間が合えば映画にでも行きましょうか」
確かに今は昼時で、上手く進めばそのくらいの時間は取れそうだったが、わざわざ付き合ってくれるのかと振り返ったリカにむかって、大祐が携帯を取り出して見せた。
pixivでいつも小説を拝見させていただいてましたが、突如狐さんを拝見できなくて驚きました。
私も空飛ぶ広報室が好きで狐さんの小説を毎回楽しみにしてました。
こちらでまた読めるのでうれしい限りです♪
もしですが、パスワード教えていただけたら嬉しいなと思います。
よろしくお願いします。
シー
シー様
こんばんは!鍵つきはトップとMAILというメニューの中に解説があります~。そちらでも駄目だったらまたコメントお願いしまーす。
ということで、末永くよろしくお願いします!