結局、木曜の夜に泊まるホテルをようやく探して、京には金曜の夜に横浜に向かうと連絡した。
「あー、俺です。金曜の夜に向かうんで、あけといてもらえるかな」
『もちろんです。嬉しいです。何か食べたいものとかあったら教えてくださいね?美味しいお店探しておきます』
「それは任せる。映画でもなんでもいいから」
『……和君は、いつもそれね。あんまり気をつかわないで、ね?』
付き合うことにして初めにお互いの呼び方をどうしようかと言う話になって、片山は一番呼ばれるのが和君だったと言って、彼女はじゃあそれでいいか?と聞いてきたからそれになった。京の方は、初め、片山が京さん、と呼んだ時にのんびりした口調でこう言っていた。
『京と呼んでください。家族も友人も名前を呼ぶので。さん、づけもいりませんから』
―― そう言われたって、本人を前にすると自然にさん、ってつけたくなるんだよなぁ。
「京、の好きなのでいいし、俺も何かしたいこととかあればいうから、別に気を使ってるわけじゃない」
『はい。ありがとう、和君。ふふ、いまだにこの呼び方、お互いに慣れませんね?年上の人に君付けって落ち着かない』
「俺は、そんなことは、ないけどな。口が悪いから京が嫌だったら」
『そんなこと気にしないわ』
じゃなきゃ、初めからお付き合いしてません。
電話越しに、くすくすと笑う明るい声にほっとするからこそ、焦るし、負担も感じる。
もともと、女性にはマメな方ではなかったからどうにもなれなかなかペースがつかめなかった。
―― 今までの俺だったらなぁ。はいはい、じゃあ、こんにちわ、宿代浮かせる代わりにお邪魔しまーすつって……
チョメ山と馬鹿にされたこともあるくらい、軽いノリで押し通すこともあるのに、京にはなかなかそれが出来そうでできなかった。
「んじゃ、とにかく土曜日朝、迎えに行くから」
「はい。金曜日はいつもの?」
「そう。付き合いで飲むから気にしないでいいよ」
「はぁい」
朗らかな声がして本当に聞いてるのかと疑わしいくらいだが、ひとまず断りを入れたのだからと、例によって、りん串に比嘉に仕切らせて飲み仲間を集めた。
「比嘉。お前、いい加減あいつの言いなりにならなくたっていいんだよ?」
片山の到着待ちの時間に鷺坂が不憫だと言わんばかりにしみじみとビールを傾けた。先に一杯どころではないのだが、これも毎度のことだけに全員が到着するのを待って飲みだすほどお行儀のいい面々ではない。
「いえ。僕は構わないんですよ。むしろ、こうして片山三佐が来てくれるからこそ、室長や空井一尉や皆さんに声を掛けられるのでありがたいと思ってるんです」
まあ、それはわかるんだけども、と目の前のお通しのキャベツに箸を伸ばした鷺坂の隣には槇がいて、今日は柚木がどうしても来られないということで、妙にのびのびと酒を飲んでいた。
「いいじゃないっすか。今日でよかった!」
「お前は、柚木が一緒じゃないと馬鹿飲みするから駄目」
「しませんよ!室長。ひっどいなぁ。もう俺も若くないっすからね」
そこに第二弾組として、リカと藤枝が顔を見せた。
「こんばんは。お疲れ様です」
「稲葉さん、藤枝さんもお疲れ様です」
座って座って、と座敷に呼びこまれたリカと藤枝は、場所を移した比嘉の隣に腰を下ろした。空井も仙台からこちらに向かっている最中だが、まだ到着に間があるので、先に顔をだしたのだ。
「あれ。片山さんはまだ?」
「ええ。もう少しかかるかも。空井一尉と同じころでしょうか」
ああ、と曖昧に頷いたリカとその隣でビール二つ、と叫んでいる藤枝もいつの間にかすっかり常連組だ。
「えーと、一ヶ月ぶり?皆さん、そろそろ落ち着かれたんですか?」
「そりゃ、こっちのセリフだろうが。いきなり付き合うも婚約もぶっとばして入籍に持ち込んだお前らこそ落ち着いたとか状況報告したら?」
おしぼりで手を拭っていた藤枝に突っ込まれたリカは、馬鹿っとくたくたのおしぼりで藤枝を叩くふりをして見せた。
「それは!いいの!……空井さんが来てからでも。それより、片山さんもどうなんですか?その後」
「その後っていうと?」
その一言を受けた鷺坂がぱちん、ときれいなウィンクをして見せる。わかってるよ、というつもりなのだろう。
「お見合いの彼女ですよ。片山さん、お付き合い、続いてるんですよね?」
見合い話をからかったのはリカが松島に行く前だったのだから、当然、色んな進展があって、片山は婚活の末、見合いした相手と遠距離中だと聞いていたのだ。
あー片山さんだぁ(=^▽^=) 面倒見のいい所はやっぱり!
これからの彼女とのお付き合いが楽しみです
マコ様
こんばんは。片山さんでーす。天然お嬢様相手ですからね。気長にお付き合いくださいませ。