その男、片山 7

―― どうせ俺は見栄っ張りで女にもなかなか本気になれねぇような情けない男なんだよ!

片腕で引き寄せた京に噛みつくようなキスをした。

「んんっ……!」

獲物に食らいつくような、そんなキスに片山を強く抱きしめていた京の腕が緩む。かわりに片山の腕が強く抱きしめた。
こんな時に、女性がどんなふうに思うかなど片山にはわからない。

ただ、今の片山はひどくどうしようもない衝動に突き動かされていた。

可愛いとか、愛おしいとか、そんな感情よりもなお、激情という言葉が一番当てはまる。

抱いてしまえば、きっと。

長身の片山には、軽々と京を片腕で抱き上げることができた。そのまま、ツインの壁際のベッドに下ろして自分のジャケットを上着代わりに肩に乗せて、本当に獰猛な獣になった。

シティホテルのバスルームといっても、シャワーブースが独立しているようなホテルではない。バスルームで頭から熱いシャワーを浴びた片山はバスタオルを頭から被って大きな鏡の在る洗面所に立った。

ガシガシと髪を拭って体を拭いた後、腰にタオルを巻いてから鏡に映った自分から目を逸らす。

いつまでもそうしていても仕方ない。

自分の服はすべて部屋に在るのだから、音をさせないように静かに部屋に戻って、きれいに整えられているベッドに腰を下ろした。
小さく目の前のベッドの上の塊が動く。

すぐそばに置かれている寝間着代わりの浴衣に手を伸ばすと、それを広げた。袖を通して放り出していた下着を身に着けると腰のあたりで腰紐を縛る。もう一枚の浴衣を広げると、丸まっているシーツの塊の上にそっと広げる。

「……体、大丈夫?」

しばらく動かなかった塊が、ぴくっとした後、はっきりと目を覚ましたのか、ごそごそと動いた後、一生懸命手で髪を直しながら頭が出てきた。

「はい……。ごめんなさい、私……」
「それ、とりあえず着るのに……」

いつの間にかうとうとしかけてしまった京が詫びようとしたのを遮って、片山は広げている浴衣を指した。それに気づいた京が何も身に着けていない肩までを晒して浴衣に袖を通す。

起き上がろうとした京がぎくっと動きを止める。

「どうした?」
「ううん……」
「風呂、お湯入れておいたから入ってくれば」

素っ気ないように聞こえるが、しばらく京を抱きしめたままでいた片山は、京が眠ったのを確かめてからシャワーに立ったのだ。
胸元をかき寄せながら何とかベッドから抜け出した京は、周りに散らばっていた服をかき集めて、そそくさとバスルームの方へと消えた。

さすがにそのままにしておくのはどうかとベッドを直しかけて、そこに散った赤い跡にばさっとシーツと布団をかぶせて見た目だけは整える。
そして、自分が腰を下ろしていたベッドをはぐっておいて、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、一息に半分くらいまで飲み干した。

―― やばい……。俺、ちゃんと優しくしてやれたかどうか記憶が怪しいってどんだけ……

しみじみため息をついた片山は、流れてくるシャワーの音を聞きながら我を忘れた自分に、深く後悔した。

投稿者 kogetsu

「その男、片山 7」に5件のコメントがあります
    1. ムトウ様
      ドヤッ(゜-゜)
      でも、肝心なところはカットしてます。片山さんから自主規制が入りましたので!

    1. じーしゃん様
      そこまで驚くんじゃねぇ!と暴れるのでヤメテください(・_・;)

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