その男、片山 9

「ほい。お待ちどーさまっ」
「ありがと」
「おう」

おいでおいで、と掌がぐーぱーを繰り返した手に、京が手を重ねる。壁際に置かれたソファに揃って腰を下ろした。

テーブルの上には温かいお茶のカップと冷たい水のペットボトル。
片足を無造作にソファの上に乗せた片山が、しっかりと京を抱き込んだ。

「ちょっとだけわかっちゃった」
「んー?何が?」

べったりと張り付いた片山にくすくすと京が笑う。

「和君、すっごい照れ屋さんなのね。ほんとはずーっと我慢してカッコつけてたんでしょ」

ふっと耳元で小さく笑った気がして、はずれ?と京が振り返りかけると、その頬にぺたりとくっついてきた。

「ばれちゃった?」

どこかおどけたような声も、きっと照れ隠しなのだろう。
甘えたがりで、ちょっとプライドが高くて、それでいて、ものすごく気遣いの人。

―― きっと、たくさん遠慮してたのかな

お互い、知り合い同士で付き合い始めたわけでもなく、初めから『彼女』として“応募”してきた京を気遣って、いつでも辛くなったら離れられるよと示していたのかもしれない。

見た目もなかったわけではないが、今まで京の周りにいなかったタイプの人に思えたから応募したことは間違ってなかった気がした。

「和君は、そのままでも十分カッコいいからそんなこと気にしなくていいの。私、もっと一杯格好つけた男の人もたくさん見た事あるけど、全然楽しくなかった。でも、和君は私のこと、笑わせてくれるもの」
「あー……。俺ねぇ。今更だけど、相当面倒くさい男よ?」
「私、そういうの全然気にしないから大丈夫」

―― そりゃそうか。気にしてたらもうちょっと俺の話も聞くっつーかなんつーか……

頬を擦り寄せて、キスに持ち込んだ片山は、くいと京の顎に指先を添えた。
華奢で可愛くて、男臭い職場にはまずいないだろういい匂いがして、モデルがたくさん載っているような雑誌に出てくる子がそのまま目の前にいるような気がする。応募してきた女の子たちの中で、京が一番好みに近くて、そして、書いてあった一言が決め手だった。

“そばにいるときも、一緒にいられない時も一緒に笑ってくれると嬉しいです”

ものすごくベタかもしれないし、他の女の子たちも似たようなコメントはたくさんあった。そのなかでも何か惹かれたのは縁があるのかもしれない。

「……あー、やばい」
「なぁに?」
「あのね?空井っつー、こう、ちょっと情けなくて、頼りない後輩がいるわけ。今は松島にいるんだけど、こいつがさぁ。2年越しに忘れられなかった相手と再会してその日に結婚決めやがって。そっからもう、こっちにまで聞こえてくるほど、もう惚気倒してるわけよ」

片山の脳裏には、初めにあった頃とは別人のような、大祐の顔が思い浮かぶ。

―― あの野郎、さんざん惚気てやがったけど、もう負けねぇ!!

「俺が後輩に負けてられるかっての。惚気倒してやる!!」
「和君、それ、今更?私のこと、惚気るの?」
「おう!」

何で付き合い始めて三か月もたってから、と弾けるように笑い出した京をぎゅっと抱きしめて、片山はそのまま京を抱き上げる。

「きゃーっ。和君!なに?」
「惚気るにはもっと仲良くならないと!!」
「いやーだー!ムリー!」
「だーいじょうぶ!ほら、したくな~る、したくな~る!」

馬鹿っと笑いながら京は片山の首に腕を回した。
それから、片山があちこち相手かまわず惚気だすのはこの後から、そして、藤枝の力を借りてプロポーズに成功するのはこの一か月後のこと。

—-END

※※※※※※

片山さん、難しいわ(汗
いやー、難しい。大変、大変お粗末様でした!!

投稿者 kogetsu

「その男、片山 9」に2件のコメントがあります
  1. 片山さん うどん県副知事を思い浮かべながら読ませていただきました。 片山さんが弾けて惚気出したらところ構わずで 周りの人達が大変そう(^ω^) りん串での飲み会を覗いてみたい(笑)

    1. マコ様
      片山さんは、下手すると一番不器用かもしれないですね。まじか!っていうくらい(笑)
      そして真面目さんかも?

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