結局、お互いのぎこちなさは残したものの、なんとか着替えを終えて外に出る。
銀座まで出て、これといったあてはなかったものの目についた店をあれこれと話しながら見て歩く。
見始めると、あれこれと言い出して決めかねてしまうのは大祐のほうだ。
「それ、邪魔になりませんか?石がついてて」
「ん、確かに」
「あと、それはゴールドですけど、稲葉さんが持ってるアクセサリーに合います?」
「もう!空井さん、それじゃ決まらないです」
笑いながら店を出たあと、同じように手を繋いで次の店へと向かう。歩きながら大祐が何か目的をもっているように思えたリカは、ぎゅっと手を握って軽くその腕をひく。
「空井さん?」
「はい?」
「なんか、おかしくないです?」
「ん?」
大祐の目が笑っていて、リカは、首を傾げた。
「大祐さん?」
「次の店、いきましょうか」
―― ああもう。ついさっき、仕事以外で話せないことはないって言ったくせに!
そう思いながらも理由があるのだろうと思うと、怒るに怒れない気持ちになって、リカは大祐の手を握って歩き出した。
前もって調べていたらしい大祐は、周りのビルを見ながら一軒のジュエリーショップに向かう。店に入ると女性の店員がにこりと笑って近づいてきた。
「今日は彼女を連れていらしたんですね」
「あっ、や……」
「え?」
頷いた店員がこちらへ、と促すのをみてリカは大祐を見る。
困った顔をした大祐に気づいた店員が近づいてきた。
「彼女さんにも教えてあげたほうがいいですよ?彼氏さん、昨日、無理にお仕事を切り上げて早めにいらっしゃったんですって。その時にうちにいらしてくださったんです。どうぞ。こちらへ」
「……あ」
口を開けたリカがあきれ返って大祐をにらんだ。
「大祐さん?」
「……あー……、すいません」
「後で説明を」
「……はい」
ぎゅっと大祐の腕を掴んでおいてリカは店員の促す奥へと向かった。
ほかのショーケースよりも少し低いケースの前の椅子を促されて、そこに腰を下ろす。そこに、手袋をした店員がトレーに乗せたリングケースを運んできた。
「こちらをどうぞ」
目の前であけられたケースに二つのリングが並ぶ。
一つはダイヤが並んで、もう一つは曲線のような同じデザイン。
「きれい……」
「彼氏さん?」
店員に促されて大祐が仕方ないと、大きく首を振った。
「すみません。稲葉さん。実は昨日、午後休みをもらって先に見て回ったんです。それでこれ」
「気に入ったんですね?」
「はい。どうでしょう」
真っ白な手袋の手に促されてリカは手を差し出した。
「指に着けるのは彼氏さんの役目ですから。手のひらに……」
そういって、手のひらの上に乗せられた丸い輪は二つ。
それを一緒に人差し指にくぐらせてまじまじと見た。
「これ、それぞれおいくらですか?」
こちらです、と提示された小さな値札にリカはすぐ頷いた。
「わかりました。サイズみていいですか?大祐さんは?」
「え、いいんですか?」
「はい。私もこれがいいです。サイズもちょうどいいので、このまま頂いていっても?」
くるりと指輪の内側をのぞきながら店員に確かめたリカにくすくすと笑い出す。
「ほんと、彼氏さんと一緒ですね。内側に日付とかイニシャルもお入れすることができますが?もちろん、後日でも大丈夫ですよ。すぐお包みしますね」
「……空井さんも一緒だったんですか?」
店員が目の前から離れるのを待って、隣の大祐を見る。
少しだけ困ったような、大祐の笑顔。
「昨日、すぐ買って帰るって言って、お店の方にとめられました。彼女さんを連れてきてからでも遅くないですよって」
「当たり前です」
「そうなんですけどね。でも、婚約指輪をいらないって言われちゃったんで。ちゃんとしたかったんです」
「ちゃんと?」
頷いた大祐は店員が戻ってきて、小さなペーパーバッグを受け取るとリカを促して店を後にした。