どうしても、そのまま置いておけなくて、小さな段ボールに詰め込んだ。想いと一緒に。
「お前知ってるか?空爆広報室の鷺坂さん、3月の頭に退官だそうだ」
それを聞いてから、考えるだけ考えて段ボールを箱を開けた。そこにあの黄色いボールペンが入っている。ずきっと胸が痛むのを無理やり押し込めて、DVDをそっくり取り出した。
ロケやほかの仕事を終えてから、人の少なくなったフロアで、編集する。
全部の瞬間を覚えている。
―― 大丈夫。全部覚えているから
何も書かない真っ白なDVDを送るために宛名を書く。
住所は会社からの発送だから、会社の住所を書くにしても、どうしても素直に名前は書けない。
悩んで、悩んで。
きっと受け取ってくれるはずだと信じて、社内の発送ボックスにおいた。
伝えきれない感謝をこめて。
送別会の場で柚木が持ち込んだノートパソコンを見た瞬間、それが誰からのものだかすぐに分かった。
わかったからこそ、ただでさえ泣きそうな気持に拍車がかかる。
初めの頃、カメラを嫌がっていた自分まで、そこにはいた。
「俺?」
おどけながら片山がいうが、皆、誰から送られてきたのかすぐに分かったらしい。
柚木の差し出した封筒には『因幡の白兎』と書かれていた。
見ているうちに柚木が泣き出してしまう。呆れた顔で槇がハンカチを差し出すがその目にも薄らと涙が滲んでいた。
「お前が泣いてどうすんの」
「だって、稲葉がどんな気持ちでこれ編集してたかと思ったら……」
そこには、鷺坂が愛した、広報室のすべてが詰まっていた。
―― ちゃんと、届いてますよ。稲葉さん。そして、また僕らは……
同じように届いた封筒。
その差出人のところに『SKY』と書いておいた。
『見に来てください。約束です』
ようやく、リカに見に来てもらえる。
半年が長かったようで、ひどく短かったようにも感じられた。
本当に来てもらえるかどうかはわからない。それでも絶対に彼女は来ると信じていた。
「……きれい」
その目に映るものが同じ風景であることにありえないくらいの幸せを感じる。心から言葉が出てきた。
「ありがとう」
きっと互いに同じことを感じていると思った。
―― この瞬間があれば、きっとこれからも生きていける
真っ青な空に、白い軌跡が流れていく。
そして、僕らがこうして出会ったことも奇跡。
end