「リカはどうしたい?」
「んー、思いつかないなぁ。暑いし」
電話越しの声を聞きながら、子供たちの洗濯物を畳む。
保育園には着替えを持たせているので、一日の着替えは三回分。それが二人分になり、この暑さで大人の着替えも毎日洗う。
リカには、毎日洗う子供服のごわつきのほうがどうしても気になってしまい、話のほうに気持ちが向かない。
「暑いよねえ」
「ほんと。もう保育園の行きかえりが大変よ」
「んじゃ、俺も考えておくけど、あんまり思いつかなかったら日帰りで近場にでかけるとかにしよう」
「わかった」
じゃあ、といって携帯を置いた大祐の目の前には、関東のドライブマップや、関東近郊の旅行ガイドブックが並んでいた。
久しぶりの夏休みだからと、大祐の両親が子供たちを預かるといってくれた。夏休みだからといつもリカがそれぞれの実家に顔を出して、タイミングが合えば大祐も合流する。
だが、今年は大祐の両親が定年を迎え、家にいるようになったこともあり、大祐とリカの休みが合うなら、その間子供たちを預かると言い出した。
「たまには夫婦でゆっくりしなさいよ」
「って、母さん。なんで急に」
「週末にリカさんのお休みの日にこっちから送っていくし。ね?それでいいでしょ」
そういわれて、多少の困惑もあったがリカに話して結果として、子供たちを頼むことになった。
お盆休みから一週ずれて来週休みを取ることになっているから、どこに行こうかとあれこれ考えて本屋に行って、かき集めてきたのだ。
「まあ、そうだよなぁ……」
自分と違ってリカは自分の事だけでなく、子供たちのことも全部やってくれている。
子供たちを預けたら今度は仕事のことで頭がいっぱいで休みをどうするかなんて考える暇はないのだろう。
一人、浮かれて集めたガイドブックがなんだか申し訳ないような気持になって、大祐は頭の後ろで両手を組んだ。
* * *
土日は混むからといって金曜日の夕方に子供たちを大祐の両親が連れに着て、大祐に会わずにキャリー一杯の着替えと共に子供たちは出掛けて行った。
保育園から帰ってきて、すぐにキャリーをもって待ち合わせの駅に向かったリカは、寂しいとか、何かを考えるよりも、とにかく疲れた、という方が先だった。
「や……、やっと一週間終わった」
玄関に入って、入りっぱなしのエアコンに深い息を吐く。足を引きずるように部屋に入って、そのままバスルームに向かう。
子供たちがいたら絶対にできないが、今だけは一人だからと、バッグも置きっぱなしで汗を流す。
バスルームからでて、冷蔵庫に向かうとノンアルコール飲料に手を伸ばした。
カシッと開ける音も喉を流れる炭酸も、久しぶりではないのに、久しぶりだ、と思ってしまう。
「あー……、久しぶりだぁ」
羽が伸ばせる、と思ったわけでもないし、子供たちがいなくて楽になりたい、と思っているわけでもないが、久しぶりに自分一人、という時間が妙に意識してしまう。
―― こういうものなんだぁ……
お泊り保育は貴重な時間だと、保育園のママたちには聞いていたが、まだそれも未経験である。子供だけがいない、ということがこんなに違うのかとしみじみ実感してしまう。
いつもなら帰ってきて、まず子供たちの着替えを洗濯に入れて、嵐のようなルーチンをこなして、ほんの少し一人で一息をつくのは寝かしつけした後に、寝落ちしなかったほんの隙間だけだ。
それが今夜からは少しの間だけ、何もない。
「そうだ、ご飯……」
ソファに腰を下ろしてぼんやりとエアコンの音を聞いているうちに、いつの間にかそのまま眠ってしまったらしい。
玄関のカギを開ける音がして、薄っすらと目を覚ましたリカは、部屋に入ってくる足音ではっと起き上がった。
「……あっ」
「あれっ」
外の熱気をまとって帰ってきた大祐と飛び起きたリカの目が合う。
「あっ!!えっ、今何時……」
大祐の顔を見てから部屋の時計を見たリカは驚いて立ち上がる。
「こんな時間っ」
「リカ、寝てたの?子供たちは?」
「あ、夕方、お義母さんたちが迎えに来て連れていってくれた……。あー、もっと色々やろうと思ってたのに!」
大きなスポーツバッグを置いた大祐は手を伸ばしかけて、自分の汗と誇り臭さに手をひいた。
「なんだ。俺、子供たちに会いそびれたなぁ」
そういって、バスルームに消えた大祐を見送って、キッチンに向かう。
飲みかけだった缶はすっかり温くなっていた。
炭酸もだいぶぬけているようだったが、もったいなくて冷蔵庫に戻す。
なにか食べるつもりだったのに、考える前に眠り込んでしまってまだ頭が働かない。
いつものようにあっという間に出てきた大祐がタオルで頭を拭きながら姿を見せた。